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山中 Side .
放課後の教室は、まだ人がそこそこ残っていた。
「勇斗先輩、また来てるんですか」
日直の仕事を終えた柔太朗が、少し呆れた声を出す。
その視線の先、当然のように自分の席でもない椅子に座ってる先輩がいる。
「だってお前のクラス落ち着くし」
「いや、自分のクラス戻ってくださいよ」
「えー、冷た」
そう言いながらも、全然動く気配がない。
むしろ当然のように手を伸ばしてくる。
「柔太朗、こっち来て」
「なんでですか」
「いいから」
周りのクラスメイトが、またか、みたいな顔で見てるのがわかる。
でも無視して近づいた瞬間、ぐっと手首を掴まれて、そのまま引き寄せられた。
「近いです」
「いいじゃん、彼氏なんだから」
さらっと言うから、余計に腹が立つ。
「……人前ですよ」
「だから?」
「だから、って……」
言い返そうとしたのに、至近距離でにこにこされると調子が狂う。
そのまま肩に腕を回されて、完全に逃げ道がなくなった。
「…ほんと距離バグってるんですけど」
「柔太朗が可愛いのが悪い」
「は?」
即答すぎて、言葉が詰まる。
そのタイミングで、近くの席にいた友達が吹き出した。
「お前らさ、ほんと近くね?廊下でやる距離感じゃないって」
「でしょ?柔太朗がさー」
「違いますからね!」
食い気味で否定すると、勇斗が楽しそうに笑う。
「否定するくせに離れないじゃん」
「離れようとしてるんですけど…」
言いながらも、腕をどかそうとしても抗いきれず結局そのままにされる。
少しだけ力を抜くと、はやちゃんがそれに気づいたみたいに、さらに距離を詰めてきた。
「ほら、やっぱ好きじゃん」
「……うるさいです」
小さく返すと、耳元でくすっと笑う。
「素直じゃないとこも含めて好き」
「っ……」
完全に言い返せなくなって、視線を逸らした。
その様子を見て、また周りがざわつく。
「はいはい、もう帰れカップル」
「ここ学校だからな?」
「公共の場ってわかってる?」
好き勝手言われて、さすがに顔の熱が高くなる。
「ほら!言われてますよ」
「いいじゃん。羨ましいんでしょ」
「ポジティブすぎません?」
呆れながらも、少しだけ肩を預ける。
それに気づいたはやちゃんが、すぐに嬉しそうな顔をするから――ほんとずるい。
「柔太朗」
「なんですか」
「今日、帰り一緒な」
「……最初からそのつもりでしょ」
「バレた?」
にやっと笑われて、ため息をつく。
でも結局、先輩の手を取った。
「ほら、もう行くぞ」
「はいはい」
その後、自然に指を絡めてきた。
「人前」
「いいじゃん」
「……ほんと、先輩ですよね?」
「うん。で、彼氏」
もう一回強調されて、仕方なく小さく頷いた。
そのまま教室を出ると、後ろからまた声が飛んでくる。
「だからお前ら距離近ぇんだよ!」
振り返らずに歩きながら、柔太朗は小さく呟いた。
「……嫌ではないですけど」
「知ってる」
即答されて、また少しだけ顔が熱くなる。
それでも、繋いだ手は最後まで離さなかった。
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コメント
2件

こういうの大好きです! ありがとうございます✨️