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誰も知らない、高嶺の花の裏側2
第68話 〚選択する心臓〛(澪視点)
その日は、朝から空が低かった。
雲が重く、音もなく、世界が静まり返っているみたいだった。
澪は登校しながら、胸に手を当てる。
ドクン、ドクン。
痛みはない。
でも——
「何かが来る」予感だけが、確かにあった。
(……見るんじゃない)
昨日、はっきり分かった。
未来は、勝手に流れ込んでくるものじゃない。
——選ばなければ、来ない。
教室に入ると、
海翔がいつも通り席にいた。
「おはよう」
「……おはよう」
その一言だけで、
澪の心臓は少し落ち着いた。
⸻
三時間目の途中。
黒板の文字を追っていた視界が、
ふっと歪む。
(来る……)
今度は、逃げない。
でも、流されもしない。
澪は深く息を吸った。
——選ぶ。
胸の奥で、
心臓が強く鳴る。
ドクン。
視界に、二つの未来が浮かんだ。
一つは、
誰にも言わず、
一人で抱え込む未来。
胸は痛くない。
でも、孤独。
もう一つは、
海翔たちに伝え、
皆で向き合う未来。
心臓が、
強く脈打つ。
(……こっち)
迷いはなかった。
選んだ瞬間、
映像は一本に収束する。
頭痛はない。
代わりに——
胸が、はっきりと「肯定」した。
(これが……)
予知じゃない。
選択だ。
⸻
チャイムが鳴り、
授業が終わる。
澪は立ち上がって、
振り返った。
「海翔」
「玲央」
「えま、しおり、みさと、りあ」
全員が、澪を見る。
「話したいことがある」
声は震えていなかった。
廊下に出て、
静かな場所で、澪は言った。
「私の力、変わった」
驚きの表情。
でも、誰も否定しない。
「もう、勝手に未来は見えない」
「選ばない限り、来ない」
一拍置いて、澪は続けた。
「……そして」
「私は、みんなと向き合う未来を選んだ」
海翔は、ゆっくり頷いた。
「それでいい」
「それが、澪の力だ」
りあが、少し泣きそうな顔で笑う。
「……一人じゃない、ってことだよね」
「うん」
澪ははっきり答えた。
⸻
その頃。
恒一は、教室の窓から校庭を見ていた。
——来ない。
あの独特の“ズレ”も、
予知の気配も。
(……選ばせてる)
理解した瞬間、
初めて焦りが生まれた。
澪はもう、
未来に縛られる存在じゃない。
自分で、道を決める。
(……厄介だ)
でも同時に——
胸の奥が、ざわついた。
それは、
今まで感じたことのない感情だった。
⸻
澪は夕方、校舎を出る。
空はまだ曇っている。
でも——
心臓は、静かだった。
見えない未来は、怖くない。
なぜなら、
選ぶ力は、もう自分の中にある。
澪は歩き出す。
——未来は、
見えるものじゃない。
選び続けるものだ。