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誰も知らない、高嶺の花の裏側2
第69話 〚隣に立つという選択〛(海翔視点)
正直に言えば——
俺はずっと、「守る」っていう意味を勘違いしてた。
危ないなら、前に出る。
誰かが近づいたら、遮る。
澪が苦しそうなら、代わりに耐える。
それが正解だと思ってた。
でも。
澪の予知が変わった日から、
俺の中でも、何かが噛み合わなくなった。
⸻
昼休みの教室。
澪は窓際で、えまたちと静かに話している。
笑っているけど、前みたいな“守られる笑顔”じゃない。
(……強くなったな)
いや、違う。
強くなったんじゃない。
自分で立ってるんだ。
俺は、少し離れた席から澪を見ていた。
前なら、
常に距離を詰めて、
何かあればすぐ割り込める位置にいた。
でも今は——
無理に近づかなくても、不安がない。
それが、不思議だった。
⸻
放課後。
澪が一人で廊下を歩いているのが見えた。
以前なら、
迷わず追いかけていただろう。
でも、足が止まる。
(……行かなくていい)
理由は分からない。
ただ、澪の背中が——
“自分で選んで進んでいる”ように見えた。
しばらくして、澪が振り返る。
「海翔?」
呼ばれて、
俺は少し驚いてから近づいた。
「どうした?」
「ううん」
澪は小さく笑った。
「来てくれると思ってた」
その言葉に、
胸の奥が、少しだけ温かくなる。
並んで歩く。
距離は、近すぎない。
でも、遠くもない。
その“ちょうどよさ”が、
今の俺たちだった。
⸻
「ねえ、海翔」
「ん?」
「前はさ」
澪は前を見たまま言う。
「私を守ろうとしてくれてたよね」
俺は、正直に答えた。
「してた」
「……しすぎてたかも」
澪は首を振った。
「ううん」
「救われてた」
一拍置いてから、続ける。
「でも今は」
「隣にいてくれる方が、安心する」
——その言葉で、分かった。
俺がやるべきこと。
前に立つことじゃない。
全部を代わりに決めることでもない。
澪が選ぶ時、
隣にいること。
転びそうなら、支える。
迷ったら、話を聞く。
でも——
歩くのは、澪自身。
「……そっか」
それだけ言うと、
澪は少しだけ笑った。
⸻
遠くで、恒一の姿が見えた。
以前なら、
即座に警戒していただろう。
でも今は——
澪の様子を、先に見る。
澪は、何も感じていない。
心臓も、静か。
(……大丈夫)
それが分かるから、
俺は動かない。
守るって、
「遮る」ことじゃない。
信じて、任せることでもある。
⸻
校門の前で、澪が立ち止まる。
「ありがとう、海翔」
「何が?」
「隣にいてくれてること」
俺は、少し照れて視線を逸らした。
「……それなら、いくらでも」
澪は、満足そうに頷いた。
——その瞬間。
俺は確信した。
これから先、
何が起きても。
俺は、
前に立つ盾じゃない。
澪と同じ方向を見る、
隣の存在でいる。
それが、
今の俺が選んだ「守り方」だった。