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朝の教室に入った瞬間、空気がいつもより冷たく感じた。
視線が突き刺さる――昨日の出来事を知っているかのように、女子たちがささやき、笑い合っている。
「……ちっ」
小さく舌打ちが聞こえる。
○○の胸がぎゅっと締めつけられ、手のひらが汗ばんでいるのを感じた。
昨日、海で亮と過ごした穏やかな時間――
あの特別な時間を、クラスの女子の一人に見られてしまったことを思い出す。
それだけで、今日の教室は恐怖の空間になっていた。
「まじで無理なんだけど」
「ほんと、キモいんだけど」
理不尽な言葉が次々と飛んでくる。
○○は言い返せず、机に俯く。
誰も味方はいない――そう思ったその時、背後から低い声が聞こえた。
「……またか」
振り返ると、蓮が立っていた。
眉をひそめ、拳をぎゅっと握っている。
その眼差しは、守りたいという強い想いでいっぱいだった。
「……大丈夫か」
囁くように言われ、○○は少しだけ肩の力が抜けた。
けれど、蓮の表情はまだ怒りに満ちていて、何も言わずにはいられない様子だった。
「……大丈夫だよ」
小さく答える○○
「な訳ないだろ、」
蓮は鋭く突っ込む。
「……うん、ごめん」
俯いたまま、小さく謝るしかなかった。
その時、教室の後ろで女子たちの笑い声がまた響いた。
「見て、昨日のあの子、亮くんと一緒だったんだって」
「え⁉︎亮ってあの吉沢亮!?」
「そうそう」
「なんで!?」
「知らない、たまたまとか??」
胸がぎゅっと痛む。
でも、蓮の目が優しく○○を見守っていることに気づく。
たとえクラスが敵だらけでも、蓮がいる――それだけで少しだけ勇気が湧いた。
昼休み。教室の空気は重く、視線が痛い。
机の周りに集まる女子たちの口元には、にやりとした笑みが浮かぶ。
「ねぇ、昨日さ……なんで亮くんと一緒にいたの?」
「ほんと、意味わかんないんだけど」
「見たのよ!海で一緒にいるところを!」
○○は俯いたまま、声を出せない。
秘密の同棲――亮との関係は誰にも知られてはいけない。
だから、ただ静かに耐えるしかなかった。
しかし、そのうち一人の女子が苛立ちを隠せず、手を伸ばした。
「なんとか言えよ!」
○○の胸ぐらをつかむ。
心臓が跳ね、息が詰まる。
でも、声を上げてはいけない――秘密がバレる。
必死で耐えながら、俯いたまま目を閉じた。
その様子を、教室の隅からじっと見ている蓮。
拳を握りしめ、顔をこわばらせる。
――俺が黙ってたら、あいつは追い詰められてる。
「……もう、やめて」
小さく呟く○○に、蓮はそっと近づき、女子たちに言い放つ。
「お前らこれ以上○○のこと傷つけんなよ」
女子たちはまだ問い詰めようとするけれど、○○は蓮の視線に少しだけ勇気をもらう。
言えないことがあっても、守ってくれる存在がいる――それだけで胸が少しだけ落ち着いた。
しかし心の片隅には、昨日の海のことを見られた緊張感がまだ残っていて、亮に会う時間を思い浮かべると、ほっとした笑みがこぼれた。
――家に帰れば、全て忘れられるから。
第3話
〜完〜