テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
#デジタルイラスト
汚染
39
あめ猫@サボり魔
8,090
ありきたりな雑炊
50
FORSAKENの試練の地――風が唸る、朽ち果てた廃採掘場。
その日は、開始直後から異様だった。
ゴオォォォォォォォッ!!
空が黒緑色へと染まり、地面の裂け目から毒の炎が噴き上がる。
濃密な瘴気は街全体を覆い、発電機さえジュウジュウと音を立てながら腐食して崩れていく。
「な、何これ!? 触れただけで存在データ削れてるんだけど!? (;゚Д゚)」
ヴェロニカが飛び退く。
「全員下がれ!」
シェドレツキーが叫んだ。
「これは普通のキラーの攻撃じゃない!」
ビルダーマンたちを避難させながら、シェドレツキーとデュセッカーは毒の中心へ駆け出す。
そして、その先で見たものに息を呑んだ。
「ガァァァァァァァァァッ!!」
黒緑の炎の中心。
ドミノクラウンを被った1x1x1x1が、頭を抱えながら絶叫していた。
赤い瞳は狂ったように点滅し、半透明の身体の奥では黒い肋骨が軋んでいる。
握られたヴェノムシャンクは黒い脈動を繰り返し、異様なほど巨大化していた。
まるで剣そのものが、1xの心を喰らっているようだった。
時間の黎明に閉じ込められていた数百年の孤独。
シェドレツキーに捨てられた過去の惨めさ。
そして「本当は愛されたかった」という狂おしい執着。
それらすべてが『FORSAKEN』の悪意ある環境と共鳴し、
ヴェノムシャンクを媒介にして暴走を始めたのだ。
「失せろ……!」
「失せろぉぉぉぉぉッ!!」
ドォォォン!!
毒の衝撃波が四方へ吹き荒れる。
「ぐっ!」
「くっ……!」
シェドレツキーもデュセッカーも吹き飛ばされ、岩壁へ叩きつけられた。
「シェドレツキー……!」
1xは苦しそうに胸を押さえた。
「俺は……ただ……」
「お前の一番になりたかっただけなのに……!」
「なんで俺を捨てたァァァァァ!!」
黒い核が暴れる。
ドクン。
ドクン。
ドクン。
鼓動のたびに毒が世界へ溢れ出し、空気そのものが腐っていく。
このままでは暴走に耐えきれない。
1x自身の存在コードが崩壊する。
完全に消えてしまう。
「……1x」
シェドレツキーはゆっくり立ち上がった。
そして。
カラン――
愛剣リンクソードを、自ら地面へ放り投げた。
「シェドレツキー!」
デュセッカーが目を見開く。
「何をしている! 武器を!」
しかし。
シェドレツキーは振り返らなかった。
丸腰のまま。
黒緑の毒炎へ。
一歩。
また一歩。
真っ直ぐ歩いていく。
「……なにやってんだ、お前」
1xが息を呑む。
巨大化したヴェノムシャンクを振り上げる。
刃先がシェドレツキーの喉元へ止まった。
ジュッ……
熱だけで首筋が裂け、赤い血が流れる。
「武器を持てよバカ!」
1xが叫ぶ。
「斬るぞ!」
「今度こそ本当に溶かすぞ!!」
「……いいよ」
静かな返事だった。
「……え?」
「俺を殺して気が済むなら殺せ。」
「でも。」
シェドレツキーはもう一歩踏み込む。
毒刃が胸へ触れる。
服が焼ける。
皮膚が爛れる。
それでも止まらない。
「俺はもう、お前から逃げない。」
「お前に毒を抱えさせたのは俺だ。」
「怪物にしたのも俺だ。」
「だから。」
「その毒も。」
「その憎しみも。」
「全部、俺が受け止める。」
「お前が一生俺を憎むなら――」
「俺は一生、お前の前に立ち続ける。」
「嘘だァァァ!!」
1xが叫ぶ。
「どうせまたサバイバーのところへ行く!」
「俺を置いて!」
「逃げるんだろ!!」
「逃げないッ!!」
シェドレツキーが叫び返した。
そして。
毒炎の中へ飛び込む。
ガバッ!!
「……ッ!?」
シェドレツキーは、そのまま1xを力いっぱい抱き締めた。
毒が腕を焼く。
服が溶ける。
肌が裂ける。
それでも離さない。
「ば、バカァァァ!!」
1xが真っ赤な目を見開く。
「毒が回ってる!」
「溶ける!」
「離せ!」
「離さない。」
シェドレツキーは首を横に振る。
「絶対に離さない。」
そして耳元で、震える声で囁いた。
「ごめんな。」
「1x。」
「お前は不純物なんかじゃない。」
「お前は。」
「俺のたった一人の半身だ。」
「……ぁ」
カラン……
ヴェノムシャンクが手から滑り落ちた。
地面へ突き刺さる。
その瞬間。
黒緑の炎が静かに消えていく。
毒の嵐も。
黒い空も。
腐った風も。
すべてが少しずつ晴れていく。
暴れていた核は。
トクン……
トクン……
穏やかな鼓動へ戻っていた。
「……バカ」
1xは震える声で呟く。
半透明の手が、シェドレツキーの服をぎゅっと掴んだ。
「遅ぇんだよ……」
「言うのが……」
赤い瞳から、大粒の涙がぽろぽろ零れる。
「ずっと……」
「ずっと聞きたかったのに……」
シェドレツキーは何も言わず、その背中を優しく抱き締め返した。
風だけが静かに吹いていた。
遠くから見守っていたヴェロニカは、涙を拭いながらメモ帳を開く。
『観察メモ』
『毒の暴走を止めた方法』
『抱き締めて謝る』
『なお本人たちは重すぎて参考にならない。』
『あと緑のキラー、完全に泣き虫だった。φ(・・』
少し離れた場所では、デュセッカーが静かに微笑む。
「……ようやく届いたか。」
廃採掘場に差し込む一筋の光。
二人の足元には、小さな緑色の光が芽吹いていた。
それは毒でも炎でもない。
長い年月を経て、ようやく生まれた――赦しの光だった。
コメント
2件
𓏸︎︎︎︎𓈒*°꒰ঌ( ✝︎昇 ˘꒳˘ 天✝︎ )໒꒱*°𓈒𓏸︎︎︎︎