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#デジタルイラスト
汚染
39
あめ猫@サボり魔
8,090
ありきたりな雑炊
50
FORSAKENに毒の暴走事故が起きてから、数日。
サバイバーロビーでは、誰もが気付いていた。
シェドレツキーと1x1x1x1。
あの二人の距離が、明らかに変わっていることに。
「おい、バカシェドレツキー!」
ロビー中に聞こえる大声。
「今日のコードパスタ、まずいぞ!!」
「文句言いながら完食してるじゃん、お前。」
「もったいないから食っただけだ!!」
「はいはい。」
「はいはいじゃねぇ!!」
毎日こんな調子だった。
相変わらず喧嘩ばかり。
でも、ひとつだけ違うことがある。
1xの身体から揺らめく炎。
以前のような禍々しい黒緑ではない。
澄んだエメラルドグリーン。
見ているだけで、不思議と心が落ち着く優しい色だった。
「……変わったな。」
デュセッカーがぽつりと呟く。
ヴェロニカも画面へメモを書き込む。
『観察メモφ(・・』
『ツンデレ治療には抱擁が有効らしい。』
『医学会に報告したい。』
その頃。
シェドレツキーはロビーの奥へ来ていた。
誰も近寄らない廃棄エリア。
壊れたベンチ。
砕けた発電機。
削除されたオブジェクト。
消えかけたコード。
忘れられたデータだけが積み重なる場所だった。
「うーん……」
ガラクタを漁る。
「リンクソードの鞘の部品、この辺にあったはずなんだけど……」
ガラガラ……
スクラップの山を崩した、その時。
「……痛いな。」
足元から、静かな声が聞こえた。
「昔から君は、人の頭を踏む癖でもあるのかい?」
「うわあぁっ!?」
シェドレツキーが飛び退く。
崩れた瓦礫の中から、一人の男がゆっくり起き上がった。
灰色の肌。
丸い頭。
緑色の胴体。
青い脚。
「……2x2?」
シェドレツキーが目を見開く。
そこにいたのは。
神話時代。
禁忌の魔導書『ネクロブロキコン』を書き上げた賢者。
2x2だった。
ただし。
以前とは違う。
身体のあちこちがノイズ混じりに欠けている。
FORSAKENに取り込まれた結果、半ばスクラップNPCになっていた。
「やあ。」
2x2は平然と言う。
「久しぶりだね。」
「2x2……!」
「君たちの喧嘩は相変わらず賑やかだ。」
肩をすくめる。
「上から全部聞こえていたよ。」
「イチャイチャしてるな。」
「してない!!」
即答だった。
「なんでみんな同じこと言うんだ!」
2x2は小さく笑う。
「否定する割には仲が良さそうだけど。」
「違うって!」
「はいはい。」
完全に信じていない顔だった。
しばらく笑ったあと。
2x2の表情が静かに変わる。
「……本題に入ろう。」
スクラップの隙間から、一枚の古びた羊皮紙を取り出す。
そこには古代コードがびっしり刻まれていた。
「君たち。」
「いつまで、その不安定な実体化を続けるつもりだい?」
シェドレツキーの笑顔が消える。
「……どういう意味だ?」
2x2は羊皮紙を眺めながら続けた。
「君が抱き締めたことで、1xの憎しみはかなり浄化された。」
「でも。」
「彼はまだFORSAKENではキラーという存在だ。」
「スペクターの支配下にいる。」
「このままでは、いつかまた暴走する。」
静かな声だった。
「じゃあ……」
シェドレツキーが一歩踏み出す。
「方法があるのか?」
「1xを救う方法が。」
2x2は小さく笑った。
「僕を誰だと思っている。」
「ネクロブロキコンを書いたのは僕だ。」
「世界を壊す方法を書いたなら。」
羊皮紙をひらりと広げる。
「壊れた魂を繋ぎ直す方法も書いてある。」
シェドレツキーが息を呑む。
「これは……」
「魂の再統合術。」
2x2は羊皮紙をシェドレツキーへ押し付けた。
「君たちの魂は元々ひとつ。」
「でも昔みたいに無理やり融合する必要はない。」
「1xの人格も。」
「意思も。」
「全部残したまま。」
「君の影になる。」
「……影?」
「そう。」
2x2が頷く。
「シャドウリンク。」
「彼は君の影として存在する。」
「必要な時だけ姿を現し。」
「普段は君の影へ還る。」
「そうすれば。」
「スペクターは彼を単独のキラーとして縛れない。」
「二人で一つの存在になるからね。」
シェドレツキーは羊皮紙を見つめた。
そこに書かれていた古代コードは。
どこか温かかった。
神話の頃。
二人でチキンを半分こして笑っていた頃を思い出すような。
優しい術式だった。
「2x2……」
思わず顔を上げる。
「ありがとう。」
「俺たちのために……」
「勘違いしないでくれ。」
2x2は淡々と首を振る。
「僕は作者だ。」
「自分の本の伏線を回収したいだけさ。」
そして少しだけ笑った。
「それに。」
「君の愛しい不純物が。」
「今頃ロビーで寂しさをごまかして壁を蹴ってる。」
「急いであげたらどうだい。」
「……!」
シェドレツキーは吹き出した。
「アイツ、本当にやりそう。」
羊皮紙を胸へ抱く。
「ありがとう、2x2!」
そう叫ぶと、一目散に廃棄エリアを飛び出していった。
静寂が戻る。
2x2は羊皮紙の束を閉じる。
「……これでいい。」
小さく息を吐いた。
「まったく。」
「神様も。」
「バグも。」
「本当に手の掛かる連中だ。」
スクラップの隙間から差し込んだ一筋の光が、静かに2x2を照らしていた。
そしてシェドレツキーの手には今。
FORSAKENという終わらない悪夢を覆す、たったひとつの希望が握られていた。