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FORSAKENに毒の暴走事故が起きてから、数日。
サバイバーロビーでは、誰もが気付いていた。
シェドレツキーと1x1x1x1。
あの二人の距離が、明らかに変わっていることに。
「おい、バカシェドレツキー!」
ロビー中に聞こえる大声。
「今日のコードパスタ、まずいぞ!!」
「文句言いながら完食してるじゃん、お前。」
「もったいないから食っただけだ!!」
「はいはい。」
「はいはいじゃねぇ!!」
毎日こんな調子だった。
相変わらず喧嘩ばかり。
でも、ひとつだけ違うことがある。
1xの身体から揺らめく炎。
以前のような禍々しい黒緑ではない。
澄んだエメラルドグリーン。
見ているだけで、不思議と心が落ち着く優しい色だった。
「……変わったな。」
デュセッカーがぽつりと呟く。
ヴェロニカも画面へメモを書き込む。
『観察メモφ(・・』
『ツンデレ治療には抱擁が有効らしい。』
『医学会に報告したい。』
その頃。
シェドレツキーはロビーの奥へ来ていた。
誰も近寄らない廃棄エリア。
壊れたベンチ。
砕けた発電機。
削除されたオブジェクト。
消えかけたコード。
忘れられたデータだけが積み重なる場所だった。
「うーん……」
ガラクタを漁る。
「リンクソードの鞘の部品、この辺にあったはずなんだけど……」
ガラガラ……
スクラップの山を崩した、その時。
「……痛いな。」
足元から、静かな声が聞こえた。
「昔から君は、人の頭を踏む癖でもあるのかい?」
「うわあぁっ!?」
シェドレツキーが飛び退く。
崩れた瓦礫の中から、一人の男がゆっくり起き上がった。
灰色の肌。
丸い頭。
緑色の胴体。
青い脚。
「……2x2?」
シェドレツキーが目を見開く。
そこにいたのは。
神話時代。
禁忌の魔導書『ネクロブロキコン』を書き上げた賢者。
2x2だった。
ただし。
以前とは違う。
身体のあちこちがノイズ混じりに欠けている。
FORSAKENに取り込まれた結果、半ばスクラップNPCになっていた。
「やあ。」
2x2は平然と言う。
「久しぶりだね。」
「2x2……!」
「君たちの喧嘩は相変わらず賑やかだ。」
肩をすくめる。
「上から全部聞こえていたよ。」
「イチャイチャしてるな。」
「してない!!」
即答だった。
「なんでみんな同じこと言うんだ!」
2x2は小さく笑う。
「否定する割には仲が良さそうだけど。」
「違うって!」
「はいはい。」
完全に信じていない顔だった。
しばらく笑ったあと。
2x2の表情が静かに変わる。
「……本題に入ろう。」
スクラップの隙間から、一枚の古びた羊皮紙を取り出す。
そこには古代コードがびっしり刻まれていた。
「君たち。」
「いつまで、その不安定な実体化を続けるつもりだい?」
シェドレツキーの笑顔が消える。
「……どういう意味だ?」
2x2は羊皮紙を眺めながら続けた。
「君が抱き締めたことで、1xの憎しみはかなり浄化された。」
「でも。」
「彼はまだFORSAKENではキラーという存在だ。」
「スペクターの支配下にいる。」
「このままでは、いつかまた暴走する。」
静かな声だった。
「じゃあ……」
シェドレツキーが一歩踏み出す。
「方法があるのか?」
「1xを救う方法が。」
2x2は小さく笑った。
「僕を誰だと思っている。」
「ネクロブロキコンを書いたのは僕だ。」
「世界を壊す方法を書いたなら。」
羊皮紙をひらりと広げる。
「壊れた魂を繋ぎ直す方法も書いてある。」
シェドレツキーが息を呑む。
「これは……」
「魂の再統合術。」
2x2は羊皮紙をシェドレツキーへ押し付けた。
「君たちの魂は元々ひとつ。」
「でも昔みたいに無理やり融合する必要はない。」
「1xの人格も。」
「意思も。」
「全部残したまま。」
「君の影になる。」
「……影?」
「そう。」
2x2が頷く。
「シャドウリンク。」
「彼は君の影として存在する。」
「必要な時だけ姿を現し。」
「普段は君の影へ還る。」
「そうすれば。」
「スペクターは彼を単独のキラーとして縛れない。」
「二人で一つの存在になるからね。」
シェドレツキーは羊皮紙を見つめた。
そこに書かれていた古代コードは。
どこか温かかった。
神話の頃。
二人でチキンを半分こして笑っていた頃を思い出すような。
優しい術式だった。
「2x2……」
思わず顔を上げる。
「ありがとう。」
「俺たちのために……」
「勘違いしないでくれ。」
2x2は淡々と首を振る。
「僕は作者だ。」
「自分の本の伏線を回収したいだけさ。」
そして少しだけ笑った。
「それに。」
「君の愛しい不純物が。」
「今頃ロビーで寂しさをごまかして壁を蹴ってる。」
「急いであげたらどうだい。」
「……!」
シェドレツキーは吹き出した。
「アイツ、本当にやりそう。」
羊皮紙を胸へ抱く。
「ありがとう、2x2!」
そう叫ぶと、一目散に廃棄エリアを飛び出していった。
静寂が戻る。
2x2は羊皮紙の束を閉じる。
「……これでいい。」
小さく息を吐いた。
「まったく。」
「神様も。」
「バグも。」
「本当に手の掛かる連中だ。」
スクラップの隙間から差し込んだ一筋の光が、静かに2x2を照らしていた。
そしてシェドレツキーの手には今。
FORSAKENという終わらない悪夢を覆す、たったひとつの希望が握られていた。