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1件
あっ最高ですありがとうございます(?)
こんにちは〜
なんか今回セリフ多めです♪♪
叶『』葛葉【】
数日後。
配信を終えた部屋は、まだ熱を残しているみたいに静かだった。
葛葉はヘッドセットを外して、机に置く。
画面の向こうに向けていたテンションが抜け落ちて、肩が少しだけ重くなる。
【……今日、やたら息合ってたな】
『だね。コメントも分かりやすかった』
通話は切っていない。
でももう、配信モードじゃないことはお互い分かってる。
【お前、最後のとこさ】
『ん?』
【間、詰めただろ。あれ絶対わざと】
『バレた?』
軽い調子。でも声は低い。
葛葉は苦笑して、椅子の背にもたれた。
【ああいうの、癖になるからやめろ】
『じゃあ、嫌だった?』
【……嫌なら言ってる】
一拍。
通話越しなのに、沈黙が重なる。
『今から、行っていい?』
唐突な一言。
葛葉は一瞬、息を止めた。
【は?】
『冗談じゃないよ。ちゃんと聞いてる』
【……来るなら、コンビニ寄ってから来い】
『了解。いつものやつ?』
【覚えてんなら、それでいい】
通話が切れる。
部屋の静けさが、さっきより落ち着かない。
———
ドアが閉まる音。
葛葉は振り返らずに言った。
【遅い】
『5分だよ』
ビニール袋の音。
ソファに座る気配がして、空気が変わる。
【配信の話、する?】
『今はしない』
叶の声が近い。
横に並ぶ距離じゃない。少しだけ、詰めてくる。
【……最近さ】
『うん』
【クロノワって名前、便利だよな】
叶は少し考えてから答える。
『盾にもなるし、理由にもなる』
【だろ。俺ら、そこに甘えてる】
沈黙。
否定は、ない。
『でもさ』
【ん】
『甘えてるの、僕は嫌いじゃない』
葛葉は視線を落としたまま、低く笑った。
【ほんと、ずるい】
『知ってる』
叶の指が、今度は手首じゃなく、ソファの縁に触れる。
逃げ道はある。選択肢もある。
【……今日、泊まってく?】
『いいの?』
【明日、配信あるし】
『じゃあ、早く寝よ』
立ち上がる気配。
でも、すぐには動かない。
【なあ】
『なに』
【表も裏もさ】
『うん』
【選んでるのは、俺らだよな】
叶は静かに頷いた。
『だから続いてる』
それ以上は言わない。
言葉にしなくても、分かっているから。
配信では見せない距離。
名前も設定も一旦置いた、ただの夜。
それでも明日になれば、また“完璧な相棒”になる。
その確信だけが、二人の間に静かに残っていた。
朝。
カーテンの隙間から差し込む光に、葛葉は先に目を覚ました。
隣で寝ている叶は、配信中よりずっと無防備で、呼吸も静かだ。
一瞬だけ、見てはいけないものを見ている気分になる。
【……ほんと、ずるい】
小さく呟いた声に、叶のまぶたがわずかに動く。
『起きてる?』
【今、起きたとこ】
叶は体を起こして、髪を軽くかき上げる。
目が合って、少しだけ気まずい沈黙。
『昨日、何も越えてないよね』
【……確認するな】
『大事だから』
葛葉は鼻で笑って、ベッドの縁に腰掛けた。
【ライン守れるのに、心臓には悪いんだよ】
『それは、お互い様』
叶も起き上がって、距離を空けて座る。
触れない。触れないけど、離れすぎない。
【今日、何時からだっけ】
『夜。企画もの』
【あー……テンション切り替えめんどい】
『でも出来るでしょ。葛葉だもん』
【そういうとこだって】
叶は小さく笑った。
『配信始まったらさ』
【うん】
『昨日のこと、全部しまおう』
【……簡単に言うな】
葛葉は立ち上がって、キッチンの方へ向かう。
【コーヒー飲む?】
『飲む』
【砂糖は?】
『今日はなしで』
その答えが妙に“分かってる”感じで、葛葉は一瞬だけ手を止めた。
【昨日の続き、ってさ】
『うん』
【どこまでを続きにするか、ちゃんと決めとけよ】
『決めてるよ』
叶の声は迷いがない。
『表はクロノワ』
【裏は?】
少しだけ間があって。
『名前のない俺ら』
【……それ、ずるい】
『朝から言うね』
マグカップを置く音。
湯気の向こうで、視線が交わる。
【今日もさ】
『うん』
【何もなかった顔で並ぶんだろ】
『当たり前』
叶は立ち上がって、いつもの距離まで下がる。
昨日までの近さが、ちゃんと“しまわれる”。
『でも』
【ん】
『夜になったら、また会おう』
葛葉は一瞬黙ってから、短く答えた。
【……ああ】
配信では見せない選択。
見せない関係。
それでも、選び続けている“リアル”。
今日もまた、完璧な相棒として並ぶ。
その裏で、確かに続いていくものを抱えたまま。