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「なあ、今日来た編入生……。何処かで見たことないか?」
オリヴァーは首を傾げながら、セオドアにこそっと訊く。
「いや? ……黒髪の公爵家の養女だろ?あれだけ目立つ髪と瞳に加えて、あの風貌だ。一度会えば忘れないと思うが?」
「そうだよなぁ。……あれだけ目立つ、黒髪の美人だもんなぁ」
赤茶色の髪がボザボサになるのも気にせず、オリヴァーはガシガシと頭を掻いた。
「おい……食事中だぞ」
オリヴァーのマナーの悪さに、セオドアは眉を顰める。
ここはフォンテーヌ魔法学園の食堂の一角だ。位に関係なく、美味しい食事が楽しめる。
とはいえ、やはり貴族と平民には隔たりがあるため、自然と座る位置は決まってくるが。
教師も食事を取るので、かなりの広さになっていて会話するのも安心だ。
オリヴァーとセオドアは、奥の方の間仕切りがされている、高位貴族の定位置を使って食事をしていた。
バランスの取れたメニューを選択しているセオドアに比べ、オリヴァーはガッツリの肉、肉、肉のメニューを選んでいる。将来的に家を継ぐオリヴァーは、筋肉をつけるため良質なタンパク質を摂るよう心がけているらしい。
「でもさぁ……。何か、前に会った気がするんだよ」
「根拠は?」
「そりゃ、もちろん勘だ!!」
「………」
自信満々に言う脳筋の友人に、セオドアは適当に話題を変える。
「それより、殿下は大丈夫だろうか……」
「ああ、スフィアがあんな事してたなんて。俺には、まだ……信じられないっ」
ドンッとオリヴァーはテーブルをたたく。
「おい、彼女の名前は禁句だ。僕も信じたくはないが……。確かに、あれを食べて、彼女の側にいると堪らない幸福感があった」
「俺もそうだった……彼女の為なら何でもしてやりたかった」
「だけど、彼女が居なくなって冷静に見たカリーヌ嬢は、あんなことをする訳がない。僕らは一体……何を間違えたんだろう」
「やっぱりあれを食べたからか……くそっ」
「殿下が早く――戻ってくるといいな」
そうして、二人は食事を終えて食堂を後にした。
間仕切りの向こう側で、デーヴィドは食事をしていた。二人の会話が聞こえていたのかは……分からない。
ただ、食後の紅茶を口に運び「良かった」と一言だけ呟いた。
◇◇◇
その頃、沙織とカリーヌは――。
カリーヌの部屋で、イネスを招待して三人でランチを楽しんでいた。
ここは女子寮だから、当然ミシェルの姿はない。というか、男子禁制なのでミシェルはロビーにすら入れない。
三人は女子会トークで盛り上がっていた。流行の服やアクセサリー、人気の本や、美味しいケーキのあるカフェのこと。どこの世界でも、女子は話題に事欠くことはない。
沙織は何気なく、二人にクラスメイトについて尋ねてみた。
下級貴族の生徒は、公爵令嬢のカリーヌと侯爵令嬢のイネスには少し距離を置いているらしい。
二人がどんなに優しくても――学園が平等だと言った所で、高位貴族に話しかける勇気ある者は少ない。本当に、スフィアは異例の存在だったのだ。
「そういえば! 随分と目立っていた、深紫色の髪の方と、赤茶色の髪の方は、どちらの御子息ですか?」
コテッと首を傾げて訊いてみた。
「ああ! お二人とも、素敵ですよねっ! 下級生からも、とても人気があるのですよ」
イネスは、キラキラと瞳を輝かせて言った。どうやらイネスは、恋話が大好きらしい。
「深紫のお髪が、侯爵令息のセオドア・エヴァンズ様。赤茶のお髪が、辺境伯令息のオリヴァー・シモンズ様です。お二人共、アレクサンドル殿下と……とても仲が良いのです」
そう教えてくれたカリーヌは、少し悲しそうに微笑む。
「もしかして! サオリ様は、セオドア様かオリヴァー様がタイプでいらっしゃるのかしら?」
イネスはカリーヌを気遣い、アレクサンドルから話題をずらして盛り上げようとする。
「えええっ!? 本当ですかっっ、サオリ様!」
完全に、カリーヌがその話題に食い付いた。
「うーん……タイプですか? セオドア様もオリヴァー様も、まだ良く知らないので。お顔立ちだけで言うと、素敵な殿方だとは思いますが。ガブリエルお義父様やミシェルの方が、美しいですわ」
「そうですかぁ……」と、残念そうなイネス。
「うふふ、お父様とミシェルを褒めていただき嬉しいです!」
家族大好きカリーヌは、ニコニコだ。
「イネス様は、気になる殿方はいないのですか?」
話を振ると、イネスはボンッと赤くなった。
「な、内緒ですわっ」
(おー、確実に好きな子がいる反応だ。可愛いなぁ)
「ところで、卒業生のステファン様は人気があったのですか?」
率直な疑問を聞いてみた。
「それはもう、大人気でしたわ! カッコ良くて、優しくて、魔法も座学も優秀な先輩でしたっ」とイネス。
「はい、本当に誰からも慕われてらっしゃいました。私も、同じ委員会でお世話になりました」
カリーヌは、思い出すように笑みを浮かべた。
(あらぁ? これは、ちょっと脈アリなのでは? あっ、だけど見た目はシュヴァリエだからなぁ……)
複雑だな……と思いつつ、望みがありそうでホッとした。
「お嬢様、そろそろお時間で御座います」
エミリーが午後の授業に間に合うように、呼びに来た。
――そして三人は、午後の授業に遅れないように身支度を整え、すぐに学園へ向かった。