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「それでは佐橋児童衣料梅田店、再オープンです」
司会者の宣言に拍手が起こり、姉や招待された取引先の人たちがテープカットをした。
マスコミ各社が集まり姉に目線お願いしますと声を張り上げている。
麗はそれを端で拍手をしつつ見守っていた。
そうしてマスコミをぞろぞろ従え、姉自ら店を案内し始めた。
まずは売り場面積、なんと二倍である。しかし、家賃は1.5倍で済んだそうだ。
麗が須藤家に嫁いだために、須藤百貨店側が忖度してきた結果らしい。
営業部長が麗を褒め称えてくれた。
店を一つ潰した麗とは違い、姉は華々しく店を新装開店させた。
素晴らしいことだ。
開放感のある空間にはキャラクターが隠れていたり、触ると音が鳴る秘密のボタンがあったりと、子供を飽きさせない工夫が随所に盛り込まれている。
大人向けには佐橋児童衣料の工場で服を生産している映像が壁に投影されている。
極めつけはキッズラッピングレジと名付けられたレジが半分設けられており、子供たち自らかわいらしい袋に自分で入れて簡単なラッピングができるらしい。
なんと、一部は外国人従業員が英語で対応してくれるので、英語の勉強もできるそうだ。
早速、招待した上顧客や子供がいるインフルエンサーが店で買い物を始めている。
一般の客が入れるのは一時間後。
だが、もう行列ができており、整理券も配られている。
そのときは、麗も手伝いのため接客に入るつもりだった。
「麗ちゃん、麗ちゃん! 来ちゃった」
「お嬢ちゃん、お疲れ様」
人事部長と工場長という異色の組み合わせに麗は頭を下げた。
「お疲れ様です」
今にも子供のために作られた音が鳴るボタンを押しそうなくらいワクワクしている人事部長をやれやれと工場長が見ている。
「お二人がご一緒とは珍しいですね」
「工場長が、本社に用事があって来てたからせっかくだし、誘ったんだ」
長い付き合いなのだろう、しゃーなしに来たったわとぼやく工場長とぽやぽやした人事部長はもしかしたら気が合うのかもしれない。
「そうそう、午後から石田さんたちにピンチヒッターで入ってもらうことになってるよ」
「ほんとですか! 嬉しい」
ピンチヒッター制度は麗が社長時代に唯一自分で立案し、人事部長に提案した制度だ。
石田たちが残ってくれたから実現できた制度で、唯一の誇れるものと言ってもいい。
「石田さんって、あんとき工場に来た人らかいな?」
「そうです。その節はありがとうございました。工場長自ら案内してくださったおかげで、再びやる気になって頂けたんです」
礼を言うと、工場長が頬を掻いた。
「別に。明彦キュンがわざわざ電話してきて工場見学させたってくれって頼んできたからしゃーなし受け入れてあげただけや」
(え?)
麗は動けなくなった。
麗は工場長に何度も電話して頼んだ。その熱意が通じたのではなかったのか。
「そうそう、麗ちゃんが考えたピンチヒッター制度も須藤さんがわざわざ実現できるところまで計画書を作ってくださったんだよ。愛されてるね、麗ちゃん」
(明彦さんが計画書を、作った? 工場長にも明彦さんが頼んだの?)
そんなの知らない。聞いてない。
「かーーー、あんな優しいイケメンに愛されて、あんたほんま羨ましいわ。大事にしぃや。でけへんなら、いつでも私がもらうで」
工場長の言葉に須藤さんから断られるに決まってると人事部長が遠慮なく笑って、バシッと叩かれている。
本当に仲のいい二人なのだろう。
「あげませんよ〜、私のダーリンです」
アハハと麗も笑う。
だって、そうしないといけないから。
何がダーリンや羨ましいやっちゃと、工場長に麗もまたバシバシツッコまれた。
(あーあ、私ったら何を成し遂げた気になってたんだろ、恥ずかしいな)
そりゃあそうだ、姉ならともかく、麗なんぞの思いつきを形にするには後ろ盾が必要に決まってる。
何が仕事にプライドが見つかった、だ。
何が会社を好きになって欲しい、だ。
姉が帰ってきたのだから、もうお飾りで社長の座につく必要はなく、姉のシスターコンプレックスキャラも定着している。
接客は麗じゃなくても別にいい。
好きだったはずの子供服がすごく、色褪せて見えていた。