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「新店、順調だな。売上も目標を超えそうだ」
「ほんま、良かったわ。私も嬉しい」
麗は笑顔を作った。姉の秘書という名目ではあるが、麗にできる仕事など可愛い妹役しかない。
だから、最近はずっと朝から晩まで、更に残業もして新装開店した店のレジ応援に入っている。
それは、姉や明彦と顔を合わせたくないという理由でもあった。
だが、今日はそうはいかない。麗は明彦に車で迎えに来てもらい、業務時間中に店を抜け出していた。
父の社葬をするからだ。
ただ、お坊さんも呼んでいないし、お経すらあげないつもりらしい。
会場の隅に父の小さい写真だけ置いてゲストにご会談してもらうのだ。
皆きっと楽しんでお酒も弾むだろう。故人の話など悪口くらいしか出なさそうだ。
新装開店から一週間、世間に再オープンを忘れられる前に話題作りのために社葬をするらしく、姉はテレビカメラの前で何かまた感動的なことを言うつもりのようだ。
でも麗には、父の霊前にお前にはこの程度の価値しかなかった人間なのだと見せつけるための、姉の復讐のようにも思えた。
そんな社葬が行われるホテルの一室を、明彦か控室代わりにわざわざとってくれていた。
麗は洗面所で喪服に着替え、通勤用のカバンから、黒のカバンに入れ替えるため、スマホや財布をベッドに置いた。
そして、結婚祝いに義母からもらった真珠のイヤリングをつけるため鏡を見る。
不器用なのでうまくつけられない。
キツくつけておかないと落としそうで怖い。
四苦八苦していると無言の明彦にイヤリングをとられ、大きくて長い指が麗の耳を撫でながらつけていく。
ピクリと、背筋が震えた。
「麗」
名前を呼ばれるだけで、追い詰められている気分になるのは何故だろう。
明彦は麗のために沢山のことをしてくれている。
明彦に心を傾けないと恩知らずすぎるほどに。
「大丈夫か、葬式には出たくなかったら出なくていい」
「流石にそういうわけにはいかんわ。私は一応娘やし」
「葬式に出るのは父親のためか? 麗音のためじゃないのか」
腕を捕まれ、目を見て話をしなければならなくなる。
鋭い言葉。鋭すぎる言葉。
「その話、今したくないねん。やめてくれへん?」
麗は自分でも信じられないくらい冷たい言葉が出た。
だが、明彦は黙ってくれず、真剣な表情なのに、瞳の奥はまた輝いている。
「麗音に利用されて、されつづけて、それでも尽くすのが麗の幸せなのか?」
「やめて」
「いつも置いてかれるくせに、いつまで待っているつもりなんだ?」
「やめて!」
「麗音は金のために、麗を俺に売ったんだってまだわからないのか?」
「やめてっ!!!」
麗はヒステリックに叫んだ。大きく首を振って髪を振り乱す。
「全部、わかってるから、やめてや、いい加減にして! 私を追い詰めて、なんでそんな楽しそうなん? 何が楽しいんっ!」
そうすると、明彦の手が離れた。
「……気づいていたのか」