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空は暗雲を漂わせていた。だが、気分は良い。ガニメデの両腕を切断できたからだ。それほどまでにこの形態は凄いということらしい。だが、相当なエネルギー量を使うみたいだ。握っていた刀――来国長が黒と光の粒子となって霧散する。形態変化で作った産物だから、刀といえど本当に刀の成分なのかと言われると正直分からない。だが、それだけ模倣しているとは言える。体がだるくなる。やつの出方を見つつ、休憩するとしよう。
ガニメデは両腕を斬られたのち、痛みに逃げ惑うように地表へと降りていた。
「クソが、クソがクソがクソがああああああ! こんな雑魚に、人類史にも載ることもないクソ民族に俺の両腕がああああああああ!!!」
ガニメデは両腕の切断面からドバドバと血液を垂れ流している。デバイスに起動命令をする。
「両腕を凍結させろ!」
デバイスは命令を認識し、切断面を凍結させ止血する。さらに止血させた面から氷の腕が生えるように造形させた。
「クソが……ハア、スゥ……てめえはグチャグチャにしないと気がすまないぞおおお!」
ガニメデは治療した腕を確認して、俺に向かって叫ぶ。
俺だってな、リンを殺された痛み、村の民を殺された痛み、まだ戦っている者の助けができない痛み……。まったくよ、腹の奥から煮えたぎる。怒りが湧き上がる。
「うるせえよ!! お前は四肢を一つずつ切り落として、痛みという痛みを苦しみながら感じさせて殺してやる。楽に死ねると思うなよおお!!!」
俺は叫び、地表へと降りる。ガニメデの元へと高速で接近する。ガニメデは地表に片手をつき、「凍てつけ」と叫ぶ。その瞬間、地中から氷の槍が無数に生えて貫いてくる。俺を近づかせないつもりか。そんなもの。来国長を創り出し、切り落としながら距離を縮めていく。そしてガニメデへ近づくにつれ、氷の柱は鏡合わせのように迷宮のような造りへと変貌していく。奴まで辿り着き、斬りかかろうとした時――
「馬鹿が。そいつは偽物だ、鏡の反射だ」
すると、柱に取り付けられた氷の爆弾が起動した。
俺は咄嗟に刀でガードするが、爆発した威力が凄まじく、冷気が俺の体を飲み込む。しかし、最初の時のように氷漬けにされることはない。来国長を赤熱させ、刀の熱で冷気を水蒸気にして逃れる。二度と同じ手は食うかよ。だが、おかしい。霧のように周りがモヤになり視界が悪い。これが奴の狙いか。
――ヒュンッ、ヒュンッッ
ガニメデの姿は見えない。モヤの向こうから氷の槍を投げてきた。死角から投げられた氷の槍を右へ左へと刀で捌くが、手数が多く何本か突き刺さる。
「カハハハッ、そのまま串刺しにしてやるぜ!」
「黙れ!」
このままだと拉致があかない。
其の徐(しず)かなること林の如く。
荒ぶる感情を胸の奥へ沈め、意識を研ぎ澄ます。視界は霧に閉ざされ、奴の姿は見えない。だが、風の流れ、氷の槍が空気を裂く音、地面に伝わるわずかな振動――すべてが俺の五感に触れてくる。
ヒュンッ、ヒュンッッ。
霧の向こうから飛来する氷の槍を、俺は最小限の動きで捌いていく。来国長の刃が白い軌跡を描き、槍を次々と断ち切った。だがその時、視界の端で何かが揺らめいた。
氷の柱の表面。鏡のように磨かれたその表面から、ぬるりと人影が浮かび上がる。
「――見つけたぞ」
現れたのはガニメデ。いや、ガニメデの姿をした氷像だった。だがそれは一体ではない。二体、三体、四体……鏡の柱から次々と現れ、俺へと襲いかかる。氷の腕が絡みつき、体を押さえつける。冷気が骨の奥まで侵食してくる。
「カハハハハ! どうだ! 氷の俺たちに捕まった気分はよォ!」
霧の奥から本物の声が響く。
俺の体を拘束する氷のガニメデたち。その向こう、暗雲に覆われた空の上で、巨大な影がゆっくりと形を成していた。雲を押しのけるほどの、山のような氷塊。ガニメデは空中に浮かびながら、片腕を掲げている。
「これで終わりだあああああ!!」
轟音とともに、巨大な氷塊が落下してきた。
だが――
「甘いんだよ」
体内の力を一気に解放する。来国長の刃が紅く燃え上がり、拘束していた氷のガニメデを一閃で斬り裂いた。氷の破片が霧の中に弾け飛ぶ。
そのまま俺は跳躍し、落下してくる氷塊へと向かって刃を振り抜いた。
轟ッ――!!
来国長が巨大な氷塊を真っ二つに叩き斬る。割れた氷塊が左右へ崩れ落ち、地面を揺らす爆音を響かせた。
「なっ――!?」
驚愕の声を上げたガニメデへ、俺は一瞬で距離を詰める。
「次はお前だ」
振り下ろした刃が、氷で作り直した右腕を斬り飛ばす。続けざまにもう一閃。左腕も宙を舞った。
「ぐあああああ!!!」
さらに回転しながら刃を横薙ぎに振るう。
ザンッ――!!
ガニメデの脚が膝から断ち切られ、巨体が地面へと叩きつけられた。
「まだ終わりじゃねえ……」
血と氷の破片にまみれながら、奴は歯を食いしばる。だがその時、遠くから甲高い咆哮がいくつも響いた。
森の奥から、王国の村にいたリザードマンたちが続々と現れる。奴らは傷だらけの主を担ぎ上げ、後退を始めた。リザードマンの一人が結晶の杖を高らかに上げ、眩い光を放つ。眩しい。
「覚えていろ……貴様ら全員……必ず滅ぼしてやる……!」
気がついた時には、姿が点のように遠いところにいた。吐き捨てるような声を残し、ガニメデたちは王国の方角へと撤退していく。目くらましに光を放ち、姿が消えた。
静寂が戻る。
俺は来国長を握ったまま、荒く息を吐いた。
体は限界に近い。それでも――
「逃げるな! リンを返してくれよ…仇を……」
暗雲の下、砕けた氷の山だけが戦いの痕跡として残っていた。