注意
・この物語はフィクションです。現実のあらゆるものとは概ね関係ありません。
・基本的にはシーランドさん史に沿って進んでいくギャグ風味にしたかった史実ネタ小説です。
・実在の人物をモデルにした人物が複数名出てきますがあくまでモデルです。実際の人物とは関係ありません。
遡ること数十年前の穏やかな午後 、東のなんかデカくてアカい奴と何回目かもわからない国交断絶をしていたり、鉄のカーテンが現役では有りつつも概ね平和な日の事である。
いつもの様に紅茶を飲んでいると、ドタドタとした騒がしい音と共に見知らぬ国家?が飛び込んできた。
「、、、どちらさまですか?」
「Hello、Britain!この度シーランド公国として独立することになったので挨拶に来ました!」
はて、シーランドとは何処だっただろうか?そんな名前の地域を内包していた記憶は無いのだが、、、
「えぇと、あなたは何処の地域ですか?見覚えも聞き覚えも無いのですが、、、」
「はい、マンセル要塞の最北端です!ベーツ公による独立が宣言されて生まれました!承認してください!」
なるほど、そりゃあ知らないわけだ。確か、パディ・ロイ・ベーツ、、、彼がベーツ公と呼ぶ男は放送法違反で訴えられていたか。国家として独立すればそれは国営放送になる。
そこでベーツはあそこに目をつけたわけか。
「いや、認められるわけないでしょう!?」
「何故ですかー!?」
「とりあえず立ち退いて頂きたいので裁判に、、、」
「そんな、僕はBritainの領海外なのに!」
しばらくこんな調子で言い争っていると、また別の声が降ってきた。
「Britain、確かに彼は英国司法の管轄外です。諦めなさい。」
「うわ、父上!?、、、いつからそこに?」
「いえ、偶然通りかかったら楽しそうな声が聞こえてきたので、つい口を出してしまいました。」
「、、、それはどうも。」
そう言うと足早に父は去っていった。
「うーん、よくわからないけど、つまり僕を国として認めてくれるって事ですか?」
「それとこれとは話が違います。ただあなたが私の領土では無いというだけです。」
そもそも、国際法上彼には領土が無いので認めようが無いのである。
「そんなー!でもBritainの領土じゃないならいいや、帰ります!」
「えぇ、どうぞ。」
「はぁ、、、やっと帰ってくれましたね。あぁでも、紅茶でも出して差し上げれば良かったかもしれません。」
まぁ、過ぎた事を悔やんでも仕方がないので、紅茶を淹れ直していつも通りの暮らしを営むことにしよう。
「いやーそれにしても、僕の最初の外交は大成功で終わりましたね!何も差し出さず、Britainに独立を認めさせたなんて!」
まぁ、そうは言っても国家としての承認は得られなかったのだけど、、、 それでもこれが偉大な一歩である事に違いは無い!
「やっぱり、僕って天才かもしれません!」
「いや、天才ではないだろ。」
そう自分を褒め称えていると、見知らぬ声が酷い答えを返してきた。
「なんでそんな事言うんですかー!?、、、というか、何処にいるんです?」
「後ろだよ後ろ。」
後ろを振り向き顔を上げると、Scotlandらしい国が居た。
「Scotland!いつから後ろに居たんですか?」
「家からずっと居たぞ?」
なるほど、家からずっと付いてきてたって事はつまり、、、
「ストーカーって事ですか!?」
「いや、違うからな!?」
「じゃあ、なんなんですか?」
「そりゃお前、おチビちゃんはちゃんと家まで送り届けるのが大人ってもんだろうが。」
「はぁあ!?僕の事子供だと思って、舐めてるんですか!?」
確かに僕は生まれたてだけど、立派な国家として生まれた存在だという自負がある。そんな僕をただの子供として扱うだなんて!酷さここに極まれりって奴に違いない。
「いや、実際俺達の子供みたいなもんだろ?」
「そう言われるとそうな気が、、、うーん?」
「あぁ、独立しても我が子は我が子!親として送り届けるんだよ。」
なるほど、それなら合点が行く。
「わかりました、Scotパパ!僕を無事送り届けてください!」
「パパ!?、、、いや、おう、任せろ!」
何故か驚かれたが、Scotland本人が言っていたのだから僕は間違ってないと思う。
Scotlandに港まで送って貰い、家に帰ると何だか騒がしい事になっていた。どうやら海賊が襲撃に来たらしい。
「ベ、ベーツ公!どうしましょう!?」
「大丈夫だ、幸運な事に我々には強力な対抗手段がある。」
「そ、それは一体、、、?」
「あぁ、これだ。」
そう言いながら公が取り出したのは、まさかの酒瓶だった。
「それをどうするんですか?まさか、呑気に酒盛りでもするおつもりで!?」
「勿論違うさ。、、、 マッチを持っているか?」
「え?まぁ持ってますけど、、、どうするんですか?」
そう聞くと、公は自身のハンカチを瓶の蓋に詰め、マッチで火をつけ言った。
「それはな、、、こうするのだよ!」
その次の瞬間、公が海賊達に瓶を投げつけていた。
「ナ、ナイスショーット!、、、なるほど、アルコールの引火性を使った火炎瓶って奴ですね!」
「あぁ。、、、さぁ、まだ酒瓶は沢山ある。君も投げなさい。」
「わかりました!」
こうして、シーランドさん達が海賊達との熾烈な攻防戦を繰り広げている間に日は沈んでいくのだった、、、
時は進んで大体十年後、シーランドではまた突風が吹き上がろうとしていた。
「国営カジノを作る!?」
「あぁ。そのために先ずは財務省を作ろうと思う!」
「なるほど!でも、財務大臣のアテはあるんですか?」
財務省を作るなら先ずは財務大臣を見つけるのが先決だと思うけれど、、、ここにはまだベーツ公一家と見回りの兵士一人しか民が居ない。どうするのだろう?
「あぁ、既に打診してある!1週間後にここ来る予定だ。」
そんなこんなで1週間後、財務大臣として抜擢された男がシーランドにやってきた。
「どうも、西ドイツから来ました。アレクサンダー・アッヘンバッハです。」
「自己紹介の通り彼、アッヘンバッハは西ドイツで弁護士をしていた男だ。スカウトしてきた!」
「こんにちはアッヘンバッハ大臣!これから我々シーランド公国として頑張りましょうね!」
まさか、西ドイツからのスカウトだとは思わなかったけれど、公が選んだのなら間違いは無いだろう。
「ははは、我が国。まだ気が早いさ。まだ大臣の任命式をしていないだろう?」
「あぁ、たしかに!でも、任命式って何をするんでしょう? 」
「あぁ、その、そこまで大層な事はしてくれなくて良いのだが、、、」
「そんなわけにもいかないさ、なんせ君は我が国最初の省の大臣なのだからね!、、、とりあえず、ご馳走の手配はしてあるから我が国、パーティーの準備をしてくれ。私とアッヘンバッハ殿は少し話し合いをするからね。」
「わかりました!」
そう言うと公と大臣さんは去っていってしまった。僕一人で素敵な準備を整えられるかは少し不安だけど、精一杯頑張ろう!
とりあえずテーブルに小花柄のクロスを敷いて、、、
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大体2時間が経ったぐらいでパーティーの準備が終わった。
綺麗なテーブルにキラキラとした飾りつけ、ご馳走達もしっかり並べられた姿はまさに完璧なパーティー会場だろう!
そろそろ、公と大臣さんの話し合いは終わっただろうか?呼びに行ってみよう。
「ベーツこ、、、ありゃ? 」
「えぇ、ですから!この方が利益が上がるんですよ!」
「だからと言ってその案は飲めない!」
二人を呼びに向かうと、未だに話し合い中のようだった。というか、喧嘩になっているような、、、?
「あ、あの〜お二人とも、、、?」
「ん?あぁ、我が国。準備は終わったのかい?」
「はい、それでお二人を呼びに来たんですけど、、、まだ時間掛かりますかね。」
「、、、いや、大丈夫だ。アッヘンバッハ、この話はまた後でしよう。」
「、、、えぇ。」
そんなこんなで大臣さんの任命パーティーが始まったものの、、、終始どこかぎこちなくて気まずかった。
それからの国は平穏とは言えない様な日々だった。(と言ってもまだ一週間程度だけれど。)
毎日の様に公と大臣さんが僕の方向性に関して口論しているのだ。たった一人の兵士は見回りの度に半ば呆れているし、公子も苦い顔をしている。
「うーん、それにしても今日は長いですね、、、」
「仕方ないさ、アッヘンバッハ殿の案は父には受け入れがたいものだからね。かく言う私もあまり賛同出来ないが、、、」
「マイケル公子!、、、正直、僕には大臣さんの案とかはよくわかりません。ただベーツ公に従うだけです。」
「あぁ、もしかして貴方はアッヘンバッハ殿の案について聞いていないのか。」
「あはは、お恥ずかしながらそうなんですよ。」
そう、僕は大臣さんと公が対立しているのは知っているが実際の案については何も知らないのだ。
「そうか、、、アッヘンバッハ殿はな、ここをリゾートホテルにしようとしているんだよ。」
そうだったのか、、、うん?え?
「リ、リゾートホテル!?、、、それってつまり国じゃ無くなってしまうんじゃ、、、」
僕の小さな体をリゾートホテルにしてしまったら、僕は国として存在できなくなってしまいそうだ。
「あぁ、国という体は崩れないだろうが、、、完全に形骸化してしまうだろうな。」
「、、、そうなると、僕個人としては大臣さんの案には賛同出来ないですね。」
「やっぱりな。まぁ、見ての通り父は強く反対しているからそうなる事は無いだろう。」
「だといいんですが、、、」
なんだか、僕には良くない事が起きる予感がする。
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「Shit!!!やっぱり僕の予感は間違ってなかった!」
なんということだろう!大臣がクーデターを起こして国を乗っ取ってしまうだなんて、、、!
「あぁ、、、それに息子を人質に取られてしまった。」
「マイケル公子、、、とりあえず、どうにか戦力を整えて国を奪還しなくては、、、」
だが、どうしたら良いだろう?あちら側には大臣の雇った数多の傭兵がいる。それに比べて僕たちは僕と公の2人だけだ。明らかに戦力差が有りすぎる、、、
「、、、どうしましょう。」
「、、、一つだけアテがある。」
「本当ですか!?」
「あぁ、私の軍人時代の古い知り合いを当たれば少しは戦力が集まるかもしれない。」
「それなら、、、!」
「あぁ、少し時間は掛かるが国を奪還できるだろう!」
希望が見えてきて良かった、、、!公子の為にも、大臣とあの偽物を捕縛して早く僕の体を取り返さなくては!
そんなこんなで3日後、僕達の元には20名あまりの人々が集まった。彼らは皆、これから国を奪還する同志達である。
「、、、パディ、ヘリの準備が整った。いつでも出発出来るぞ!」
「あぁ、ありがとう。、、、さて、諸君!この度はシーランド公国奪還作戦への協力、本当に感謝している。厳しい戦いになるだろうが、我々は仲間として、共に頑張ろうじゃないか! 」
「きゃー!ベーツ公かっこいいー!」
さぁ行こう!国を取り返しに!
マズいマズいマズい!一大事だわ!
「アッヘンバッハ首相、大変です!」
「どうしたシーランディア。」
「追放した筈のベーツ達が戻ってきたんですのよ!」
「なっ、、、!?傭兵達に迎撃させるんだ!」
「それが、既に彼らは捕縛されてしまって、、、ここまで来るのも時間の問題ですの!」
彼らの急襲に気づいた時には既に国土の半分以上が制圧されてしまっていた。幸い、私はあの馬鹿達に気づかれなかったけれど、、、傭兵達は為す術無く捕縛されてしまったのだ。
「どうしましょう、、、」
「、、、我々で迎撃するしかあるまい。」
「武器がありませんのに?」
「あぁ、フライパンか何かでも武器にはなる筈さ!」
「あぁはい、、、」
半ば諦めたような首相の声の通り、私はフライパンを手に取った。こんなもので迎撃なんて到底出来ないだろうけど、何もせず死ぬよりはずっと良い。
それからはとても早く、
私がフライパンを手に取った瞬間、彼らが乗り込んで来て首相と私を捕縛した。
傭兵達は直ぐに解放されたけれど、首相(と私)はシーランドのパスポートを持っていたからそのまま拘留。罰金刑が言い渡された。
、、、それにしても、
「何故私は未だ存在しているの?」
そう疑問を呟くと、隣の馬鹿が同調してきた。
「そんなの、僕が聞きたいですよ!どうして偽物が未だ生きてるんですか!?」
「それがわからないから呟いたんですのよ!あんた馬鹿ですの!?」
「はぁ!?馬鹿って言う方が馬鹿ですよ!」
「なっ、、、!?〜〜〜〜!」
「〜〜〜!〜〜〜〜〜!」
そんな2人の口論と共にシーランド奪還作戦は幕を閉じるのであった。まぁまだまだ問題はあるがそれはそれ、これはこれである。
「アレは我々の管轄外ですので、直接あちらに仰ってください。」
「あー、そうですか、、、わかりました。」
あぁ、どうしてこんな面倒な事になったのだろう。
自国の人間が他国?でクーデター起こして、失敗してとっ捕まってるだなんて、、、というか、その、、、シーランド公国という奴は国と扱って良いのだろうか?法的に国土が無いのだが。
まぁ、この場合は一度限りでも国とかそういう権力機構として扱う他あるまい。どうせこんなのはレアケースだろうし、、、
「はぁ、、、お腹が痛い。」
「カモミールティーでも飲みますか?」
「あぁ、お気遣いどうも。、、、でも大丈夫です、もう帰りますから。」
「そうですか。」
とりあえず、シーランド公国なる存在にコンタクトを取ろう。
はぁ、、、憂鬱だ。
件の事件から1週間、今日もあの奪還作戦で大分荒れてしまった自身の本体を復興していると、公が何やら慌てた様子でやってきた。
「我が国!大変なニュースだ!」
「ベーツ公!何があったんですか?、、、まさか、あの偽物共がまた変な事を!?」
「いや違う、西ドイツからの接触だ!」
「WestGerman!?それはまたどうしてでしょう?」
もしかして、僕達を国として認めてくれたりするのだろうか?
「どうやら、アッヘンバッハの身柄の返還を求めているらしい。、、、これはとても素晴らしい事だ!」
「そうなんですか?」
「あぁ!明文化された訳では無いが、これは実質西ドイツから国として認められたと言うことにほかならないからね。」
「なるほど、それは素晴らしいですね!」
まさか、本当に認めてもらえると同義な事だとは!これが青天の霹靂って奴に違いない!
「3日後にここへ来るそうだから、しっかりと準備をしよう!」
「わかりました!」
さぁ急いで頑張ろう、しっかりと相手を持てなして立派な国として見られる為に!
大急ぎで準備を整えた3日後、WestGermanがヘリに乗りやってきた。
よし、しっかり頑張って立派な国として振る舞おう!
「G、、、いや、Hello私はドイツ連邦共和国です。西ドイツとも呼ばれますね。本日はどうぞよろしくお願いいたします。」
「いやいや、こちらこそ。この度の訪問は我々に取っても喜ばしいことですので。、、、と、申し遅れました。私はパディ・ロイ・ベーツ、此処シーランド公国の大公です。そして、、、」
よしきた!
「GutenTag、シーランド公国です!本日はよろしくお願いしますね!WestGerman.」
「あ、あぁよろしく。」
何故か少し困惑した様な返答をされたが、僕は何か間違えたのだろうか? わからないけれど、怒られたわけでは無いから良しとしよう。
「コホン、来てそうそうにはなりますが、早速本題に入らせていただきます。、、、我が国の国民、アレクサンダー・アッヘンバッハ氏の身柄を引き渡していただきたい。」
早速、事前の連絡の通りの要求が来た。
これに対する回答は僕は公から聞いていないけれど、なんとなく予想は付く。
「勿論です、賠償金も取り消しましょう!」
「勿論、ただで引き渡して欲しいとは言わ、、、え?」
「えぇ、ですから、引き渡しますよ。賠償金も取り消しで。」
やっぱり、僕の予想通りだ!
事実上国として扱ってくれたのだから、最大限の感謝と喜びを持った回答をするに決まっている!僕だってそうするし。
「我が国、彼らを連れてきてくれ。 」
「ん?彼ら?」
「わかりました!」
そう言って僕は小走りで彼らを迎えに行った。
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「大臣!偽物SeaLandia!」
「騒がしいですのよ!馬鹿Land!」
「馬鹿って、、、まぁ今日は許してあげますよ!」
僕は今気分が良いのだ。
「、、、それで、何の用ですの?」
「2人のお迎えが来たんです、付いてきてください!」
「はぁ!?お迎えってどういう、、、」
「成る程、祖国か、、、」
「首相!、、、首相の祖国と言うと、West Deutschland?」
「あぁ。きっと彼らが迎えに来てくれたんだろう。」
「その通り!待たせてますから、早く行きますよー!」
「あぁ。」
「あっ置いてかないで首相!」
「ベーツ公!WestGerman!2人を連れてきました!」
公達の元へ戻ると、公とWestGermanが何やら談笑していたらしい。
「あぁ、おかえり我が国。」
「あの、アッヘンバッハ氏の隣に居るのは?」
「あぁ、彼女はシーランディア。彼の起こしたクーデターで生まれたシーランド見たいなものです。」
「はじめまして、Sealandiaですわ!」
「、、、成る程?」
WestGermanはイマイチ良くわからなそうに答えていた。まぁ実際、あいつは意味わからないヤツだからさもありなんだ。
「、、、えぇと、それでは我々はこれで帰らせていただきます。本日はありがとうございました。」
「いえいえこちらこそ!僕を国として認めてくれてありがとうございます!」
「あ、あぁ?、、、コホンそれではまたいつか。」
そう言うと、WestGerman達はヘリに乗り込み去っていった。
「それで、アッヘンバッハ。その、、、シーランディアをどうするんだ?話を聞く限り存在出来ている事自体おかしいと思うんだが。」
灰色混じりに濁った青い海を見下ろすようにヘリで進む傍ら、俺は疑問に思った事を聞いてみた。
「あぁ、祖国。別に彼女の存在はおかしくありませんよ。何故なら私は戻ったらシーランド公国亡命政府を立ち上げるつもりですから!彼女はその前身です。」
ん???
俺ドイツさん、自国民の言っている意味がわからないの、、、
「そ 、そうか。まぁ、好きにしたら良いんじゃないか?」
俺には関係ないし、、、
WestGermanに大臣達を引き渡してから1週間後、僕に手紙が届いた。 僕に手紙が届くなんて珍しい、差出人は、、、
「はぁああ!?」
まさか、あの偽物からの手紙だなんて!まぁとりあえず読んでみよう。
『拝啓、花咲き誇る素敵な景色のような頭を持つSeaLand様へ、いかがお過ごしでしょうか?私、Sealandiaはこの度シーランド公国亡命政府となりました事をご報告致します。
またいつか、私達が戻る時までに素敵な穴と石を見繕っておいてください。 Sealandia. 』
「なっ、、、なんですかこの手紙!凄い厭味ったらしい!」
短いけれど、あいつの取り繕いきれなそうまニヤニヤした顔が浮かび上がって凄くムカつく手紙だ。
こんな短い文で人を苛つかせられるなんて、ある意味天才なんじゃないか?
こうなったら僕もあいつに素敵な手紙を送らないと気がすまない、、、よし、
「ベーツ公!便箋とペンをください!」
そんなこんなでクーデター事件は完全に幕を降ろしたものの、シーランドさんの文通闘争はまだまだ始まったばかりである、、、
時代は一気に進んで我々の生きる21世紀突入間近、今では生活必需品と行っても過言ではないインターネットが一般に出てきて5年も経たない頃。
シーランドでは新たな事業が始まろうとしていた。
「そうだ、爵位販売しよう!」
Americaに持ちかけられて始めた事業計画を話し合う傍ら、ふと公子が名案を口にした。
「良いですね!、、、そしたら、例の事業と一緒にやっちゃいますか?」
「ゲホッ、、、待て待て待て、そんな京都行こうみたいに言うな。爵位販売ってなんだそれ!そもそも例の事業とは?全部しっかり説明してくれ。」
公の名案の後、急にBritainからの客人RoyalAirForceが噎せ返り、言葉を捲し立て始めた。
「うわ、急に話しかけないでくださいよ!RoyalAirForce。」
「いや、そもそも客人を掘ったらかすなよ。」
「だって、RoyalAirForceはもうこの国の常連さんじゃないですか。Time is moneyって奴です!」
「、、、さては私舐められてるな?」
「あはは!細かい事は良いじゃないですか!、、、それで、例の事業の事ですね。企業秘密です!って言いたいところだけどRoyalAirForceには特別に教えてあげます!」
「あぁ。」
「アレは大体半年前、、、Americaがマイケル公子にインターネット事業の構想を売り込みに来た事から始まります。」
「その事業の名はHeavenco。この国にインターネットサーバーを設置し、検閲を受けず自由にインターネットを使用できるという素晴らしいものでした。」
まさか、あのAmericaが直々に話を持ちかけてきたと聞いた時はRabbitにも負けないぐらいに飛び上がったものだ。
「こんな素晴らしい事業、乗らない理由がない。って事で計画を進め中なのです!」
「成る程な、文字通りHeavenの様なインターネットサーバーを作るってわけだ。」
「その通りです!、、、ところで、マイケル公子は何処に?」
彼に説明をしている間に何処かへ行ってしまったらしい。
「公子サマなら爵位販売の構想を練ってくるって言って出ていったが、、、何処へ行ったかは知らんよ。」
「そうですか、、、」
昨年の年始頃の素敵なインターネット事業の発起やら、最近恒例になりつつある火薬庫の塊紛争への介入の影響でドタバタしているものの、概ね平和な午後。私は紅茶を飲みながらふとシーランドとの邂逅の頃に思いを馳せていた。
「えぇ、、、たしかあの時は後悔したんでした。紅茶を出してさしあげれば良かったと。」
我ながら、こんな30年以上前の 些細な事を良く覚えているものだ。
なんて、感嘆していると見知った国家?が飛び込んできた。まるであの時の様に。
「Hello、シーランド。訪ねてくる前に連絡をしなさいと何度言えばわかるのです?」
「あはは、それはごめんなさい!でも素敵なニュースがあるんですよー!」
謝る気持ちがあるのか無いのか、、、まぁ良いけれど。それより、ニュースの方が気になる。
「ふむ、そのニュースとは?」
「ズバリ!爵位を売り始めたんです!KnightsからDukeまで、好きな我が国の爵位が購入できますよ!」
は?爵位販売?たしかに我が国でも下級爵位を販売した事はあるが、そんな贖宥状みたいにぽんぽこ爵位を売るとは、、、法的正当性は無いから良いのか?
「Britainも一つどうです?」
「いえ、結構です。」
私は既に爵位を持っているので今更必要では無い。
「そんなー!まぁ良いですけどね!」
「、、、そういえばシーランド、Heavencoの調子はどうですか?」
アメリカがシーランドに持ち込み始まった事業、Heavenco。沢山の人が関わり(私も少しばかり協力していた。)世界的に報道されていたがサービス開始日が遅れ世間の熱は既に冷めてしまっている。
「いやーそれが、鳴かず飛ばずで閑古鳥状態ですよ。しかも、公子達とAmerica側の内部対立が凄くって!大変ですよー、、、」
「それはそれは、、、まぁ、頑張ってください。応援はしています。」
これ以上応援以外の何かをする気は無いが。
「ありがとうございます!それじゃあ帰りますね!」
「えぇ、どうぞ。帰りの付き添いに父上2号でもつけますか?」
「要らないです!僕は子供じゃ無いんですからもう!」
たしかにそうかもしれないが、私からしたら子供見たいなものだ、、、とは言わないでおこう。
「それはすいません。それではまた、次は事前に連絡をくださいね。」
「善処しまーす!」
「、、、これはまた連絡無しで来ますね。そういえば、また紅茶を出すのを忘れていました。」
まぁ、良いけれど。
「とりあえず、自分の紅茶を入れ直しましょう。」
「うーん、僕の天才さをもってしてもどうにもならない、、、」
Britainに爵位の宣伝をしてから1週間、爵位の売り上げはじわじわと上がっているけれどHeavencoは相変わらず鳴かず飛ばずだ。
内部対立も激しくなってきているし、どうすれば良いんだろう?
なんて考えていると、最近聞き慣れた声が耳に飛び込んできた。
「シーランド、お前はどっちに付くんだ?」
「America、、、どっちって、決まってるじゃないですか!僕はベーツ公達に付いていく存在ですよ?」
「HAHAHA、だよなぁ。 、、、正直な事言うと俺達の方だけでも結構揉めててさ、ぶっちゃけ俺単独が大公サマ達に譲歩してもどうにもならねぇんだよ。」
そう言うAmericaの声には何処か疲れが滲んでいた。
「なんか、大変そうですね。」
「いや、お前も他人事じゃないけどな。」
「そんなー、、、」
______
___
時はまた進んで3年後、とうとうHeavenco運営が内部分裂と急速な効率悪化、資金難により解散してしまった日。
シーランドさんは悲しみに暮れていた。
「うぅ、、、どうして、どうしてですかー!」
「まぁまぁ、元気出せって。」
「RoyalAirForce、、、無理ですよ!これが悲しまずにいられるわけ無いじゃないですか!」
折角インターネットブームに乗っかってAmerica達と協力していたのに!America本人が内部分裂の果てに追い出されるわ急速にResource不足になるわ、、、
「もう滅茶苦茶ですよー!ぐすん、、、」
「あーもう、泣くんじゃない!解散しちまったもんは仕方ないだろ。別の成功に目を向けな!、、、そういえば、爵位販売はどうなったんだ? 」
「うぇ、、、?それはまぁまぁ良い感じですよ!RoyalAirForceも一ついかがです?」
「結構だ。まぁ、それが成功してるんだからいいじゃないか。な?」
「それもそうですね!ありがとうございますRoyalAirForce!」
こうなったらもっと爵位を宣伝だ!
「単純な奴、、、」
「何か言いましたか?」
「いや、何も。」
「というわけで、宣伝に来ました!」
「シーランド、何故あなたはこういう時私の下へ来るのですか?」
何故ってそりゃあ、、、
「Britainが1番近所だからですよ!」
「はぁ、、、そもそもあなた売り始めた時最初に家に来ましたよね?」
「そういえばそうでした!てへっ」
「全然可愛くないですよ。」
「何故ですかー!?」
今の僕は表情もポーズもこんなに可愛いのに!どうしてそんな事が言えるのだろう? ScottLandもそうだったけれど、Britain達は皆酷いというか、デリカシーって奴がないんじゃないか?
「、、、仕方ない、BBCか何かで宣伝して差し上げましょう。 」
「本当ですか!?やったー!」
前言撤回、Britainは最高だ!
「ただし、次からはちゃんと連絡をいれてから来てくださいね。」
「いや、駄目に決まっているでしょう。」
絶対零度冷酷無情な心を持っていそうなこの声は、、、!
「父上!」
「アレは民放です、国家が介入して良いものではありませんよ。、、、全く、お前は昔から甘すぎる。そんな風だから息子に寝首をかかれるのです。」
「、、、それとこれとは別の話でしょう。」
「いいえ、同じ事です。それとも何、父に逆らうつもりですか?」
なんだか一触即発の空気になってしまった。これはもう、、、
「よ、用事を思い出したので僕はもう帰りますね!それでは!」
「あぁ、ちょっと!」
逃げるが勝ちだ。
「すたこらさっさー、、、それにしてもここは広いですね、、、」
都市から少し離れたEnglandのちょっとした田舎にそびえ立つゴシック・リヴァイヴァル的なこの館は僕の体よりも広くて、しかもBritainの居る書斎から玄関迄の距離がとにかく長いのだ。
なんて短い間考えていると、あの2人とはまた違う、のんびりとした声の持ち主がやってきた。
「あれ、シーランドじゃん。やっほ〜」
「Wales!久しぶりですね!」
「うん、久しぶり。、、、君またアポ無しで来たんでしょ。」
「いや〜、、、連絡が面倒くさくて。」
SeaLandiaへの手紙は直ぐ出せるのだけど、Britainへの連絡はどうしても毎回忘れてしまう。これは自分でも不思議でならない。
「まぁ気持ちはわからなくも無いけどさ。ブリテンまた子育て失敗しちゃったねぇ。」
「何それどういう事ですかー!?」
僕はBritainの子供ではないと思うのだけど。いや、AmericaやCanadaがBritainの子供なら僕も子供なのか?うーん、、、不服。
「あはは、ごめんごめん。どちらかというと君の親はイングランドか。」
「それならBritainの方がマシです!あの人怖い!」
というか、Englandと僕ってそんなに似てるかな、、、?
「わかる、あいつ怖いよねぇ、、、」
そう言いながらWalesは遠い目をしながら身震いした。なら尚更なんで、、、
「なんで、Englandが僕の親って事になるんですか?僕はこんなにかっこよくて可愛いのに!」
「いやぁあいつと君、しょっちゅうアポ無しで来るところが似てるなって思ってさぁ。」
「、、、あれ?Englandってここに住んでるんじゃないんですか?」
「あっ知らなかった?ここは19世紀にブリテン個人のマナーハウスとして建てられた場所で、イングランドは基本ロンドンのタウンハウスに住んでるし、僕やスコットランドも個人の邸宅があるんだよ〜」
「そうだったんですね。こんなに広いから、てっきり皆ここに住んでるものだとばかり思ってました。」
それに、僕が来る時は大抵他にも誰かしらが居るものだから疑うことすらも無かった。、、、というか、こんなに広い屋敷に1人で住んでいるなんてBritainは寂しくならないんだろうか?
「昔はいっぱい住んでる奴らが居たんだけどねぇ皆独立しちゃったから。」
「あぁ、、、なるほどです。」
「うん。、、、と、玄関ホールに着いたね。それじゃあまたね〜」
「はい!また!」
「あっWalesに爵位を宣伝するのを忘れてました、、、まぁいっか!」
3年ぶり2度目の英国訪問宣伝を終え、帰路に付いたシーランドさんは今日も今日とて爵位販売道を歩むのだった、、、
さて、またまた時代は進み着々と現代へ近づいてくる10年代後半戦。日本では現上皇様の異例の生前退位で元号が変わるぞと、国全体が不思議な熱気に包まれていた時期。
それは シーランドでは平和で目出度い冒険の節目の年である。
そんな目出度い年に、これまた目出度い事にシーランド公による公演会が開催される運びとなった。
「いやー忙しいですね!こんな大規模な公演会の準備なんて、生まれてこの方初めてですよ!」
とは言ってもただただ椅子をチェックして拭いたりして行く単純作業なのだけど、量が多くて投げ出したくなってしまいそうになるのだ。
まぁ、この椅子は問題ナシ、、、この椅子は、、、埃を取って、、、、なんて事をかれこれ一時間もやっていれば飽きが来るのも仕方ないだろう。
そんな単純作業の真っ只中、この公演の主役になる声が降ってきた。
「シーランド、作業は順調だろうか?」
「マイケルこ、、、いえ、今はあなたがベーツ公でしたね。準備は今のところ順調に進んでますよ!いかんせん椅子の量が多いのでまだ半分しか終わっていませんが、、、」
「そうか。、、、今年で父が亡くなって5年か、早いものだ。」
「、、、はい、本当に早いものですね。」
僕を生んだ偉大な父とも言える先代のベーツ公は5年前に亡くなってしまった。
まぁ丁度Heavencoの計画が始まった辺りから隠居して、現ベーツ公が実質的な国の長ではあったのだけど、、、やっぱり悲しいし40年以上の呼び方を変えるのも難しい。
「、、、辛気臭い話は辞めよう、今はこの記念すべき冒険の節目の準備を整えなくては!」
「、、、そうですね!」
「あぁ、私もまた他の準備をしてこよう。頑張りたまえよ、シーランド。」
「はい!ベーツ公も頑張ってください!」
「さぁあと半分、頑張ろう、、、!」
少ししんみりしてしまったけれど、公からの激励も貰った事だ。
僅かに遠くなる気に見ないふりをしつつ、全ての準備を万全に整えて素晴らしい日に臨むのだ。
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あの気の遠くなる楽しい準備から3日、勿論会場の準備が終わったからと言って準備そのものは終わるはずもなく、幾度も当日の段取り確認を重ねた。
けれどもそれも終わりだ、なにせ今から始まる最後の段取り確認を終えたら30分後には本番なのだから!
「、、、さて、遂にこの日がやってきたわけだが。、、、大丈夫か ? 」
「勿論大丈夫ですよ!ベーツ公!」
「それなら良かった。こうして最後の確認をすると集まったが、、、、まぁ今更確認することも無いな。」
「確かにそうですね。」
「いやいやお二人?さん、流石にそれは、、、」
ヘルメットを被った猫の様な空気を作り上げると、それを破壊せんと引き止める声が上がった。確か、この声の持ち主は照明担当の人だったかな。
「でも照明の確認なんてもう、今日は出来ないですよ?」
「確かに、、、ならもう良いか、、、」
「あぁ。だからもう本番まで水を飲むなり身だしなみを整えるなりしてリラックスしておこう。」
「YesSir!」
「どちらかというとDukeじゃないか?」
「確かに、では、、、YesDuke!」
______
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身だしなみを整えていると時間は直ぐに過ぎるもので、ブザーの音と共にとうとう本番が始まってしまった。
出ていく前に舞台袖からそっと会場を覗いてみると、沢山の人々で椅子は埋まりきっていて、ついさっきまでは天才的な僕ならきっと大丈夫だ!なんて思えていたのに緊張で怖気付いてしまう。
けれども始まったからにはもう、ステージへ出て行かなくては行けない。
意を決して行こう、僕の自慢の集中力で今、目の前に集中するのだ!
「ーーー。ーーーー、ーーー。」
「ーーーー、ーーーー!」
さて、どうにかステージへ出て自身の分の挨拶を終えた。
これ以降僕にはこれと行って言う事だとか役割だとかは無く、ただ公の隣でかわいい顔をして立っているだけでいい。
まぁそれでも緊張はするのだけど、僕はもう大人だから決して表には出さないのだ。
今日の公演会は最近発刊された公の著書の紹介、内容に沿った話を中心に進んでいく。
丁度今も本の紹介をしている真っ最中だ。
まだまだこの会は始まったばかりだけれど、正直既に辛くなってきた。これから1時間ずっとニコニコ立っているだけと言うのはある意味拷問なのかもしれない。
天才すぎるが故にいつの間にか僕は業を負ってしまったのか、、、
まぁ公の話を聞いていれば良いのだろうけど、正直打ち合わせで既に聞き飽きてしまったので今また聞く気にはなれない。
少し、心を無にしてみようか。勿論可愛い顔のままで、、、
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心を無にしてみてからどれぐらい経ったのだろう。一度公の声に耳を傾けて見ると、どうやら締めに入ろうとしているようだ。
この次の次から紡がれる言葉は僕にとって素晴らしく意義があり、聞き飽きない言葉だ。(勿論、公の言葉はどれも素晴らしいけれど。)
さぁ耳にほぼすべての集中力を集約しよう。この会の終わりを、そして冒険の節目であり新たな出発の言葉を聞き逃さないように!
「、、おそらく、我が国は世界で最も要求の少ない国です。」
「我々はいつもいかなる神や宗教の崇拝を誰にも強制しませんでした。」
「それが我が国が長きに渡って存続出来た
理由なのかもしれません。」
「願わくば今後50年間もこの冒険を
続けていきたいと思います!」
コメント
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『俺ドイツさん、自国民の言ってる意味がわからないの…』で吹き出しました。現実逃避してるドイツさんなんか可愛い……(?)