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言ってしまった、という感覚が遅れて押し寄せてきた。胸の奥に溜め込んでいたものをそのままぶつけてしまったせいで、呼吸は浅く、指先にはまだわずかな震えが残っている。部屋は静まり返っていて、さっきまで確かに存在していた空気の騒つきさえ嘘みたいに消えていた。オレは 視線を逸らしたまま、これ以上何も言う気にはなれなかった。これ以上言葉を重ねれば、きっと取り返しのつかないことまで口にしてしまう気がしたし、何より今の自分の顔を見られたくなかった。こんなふうに取り乱しているところを見せるのは、あまりにも格好がつかない。 数秒の沈黙のあと、ゴンがゆっくりと息を吐く気配がした。その音は小さいのに、不思議と耳に残る。怒るでもなく、呆れるでもなく、ただ一度間を置いたような呼吸だった。
「……そっか」
落ち着いた声だった。思っていたよりもずっと静かで、キルアは思わず顔を上げそうになったが、ギリギリのところで踏みとどまる。 ゴンは続ける。
「キルア…そういうふうに思ってたんだ」
責める響きはなかった。ただ事実を受け取って、そのまま言葉にしているだけの声だった。そのことが逆に、胸の奥にじわりと広がる。オレ は答えなかった。肯定するのも、否定するのも、どちらもできなかった。ただ、沈黙だけがその場に残る。 少しして、ゴンがベッドから立ち上がる気配がした。床を踏む音がゆっくりと近づいてくる。その一歩一歩がやけに長く感じられて、心臓がまた強く打ち始める。 すぐ近くで足音が止まった。 逃げるように視線を逸らしたままでも、そこにいるのが分かる距離だった。
「キルア」
名前を呼ばれる。さっきと同じ声なのに、今度は少しだけ近い。オレは 小さく息を吐いてから、観念したように顔を上げた。 目が合う。 ゴンは真っ直ぐこちらを見ていた。いつものように、真っ直ぐで、でもさっきまでより少しだけ柔らかい表情で。
「心配してくれてたんだよね」
確認するような言い方だった。 一瞬だけ言葉に詰まり、それから小さく視線を逸らして、わずかに頷いた。
「……まあな」
短い返事だったが、それで十分だった。 ゴンは少しだけ表情を緩める。
「そっか」
もう一度、同じ言葉を繰り返す。その声音には、さっきよりもはっきりとした納得が含まれていた。 そして少し間を置いてから、続ける。
「ごめん」
その一言に、キルアは反射的に顔を上げた。
「は?」
思わず聞き返してしまう。 謝られる理由が分からなかった。 ゴンは視線を外さずに言う。
「キルアが止めようとしてたの、ちゃんと分かろうとしなかったから」
その言葉は、妙にまっすぐで、余計な飾りがなかった。だからこそ、言い訳でも取り繕いでもないことがすぐに分かる。オレ は少しだけ眉をひそめた。
「……別に、お前が謝ることじゃねーだろ」
そう言いながらも、声の強さはさっきよりずっと落ちていた。 ゴンは小さく首を振る。
「でもキルア、嫌だったんでしょ」
核心を突く一言だった。 キルアは答えに詰まる。否定はできない。けれど、素直に肯定するのも少し照れくさい。 結局、小さく息を吐いてから、視線を外したまま言った。
「………まあ、ちょっとな」
ゴンはそれを聞いて、ほんの少しだけ安心したように息を吐いた。
「うん…」
その反応が、どこか拍子抜けで、同時に少しだけ肩の力を抜かせる。 怒られると思っていたわけではないが、少なくとも気まずさはもっと残ると思っていた。それが、こんなふうにスッと受け止められると、逆にどうしていいか分からなくなる。 しばらく沈黙が続いたが、その沈黙はさっきまでのものとは違っていた。重さが少しだけ抜けていて、息苦しさが薄れている。 ゴンはそのまま、ほんのわずかだけ距離を詰めて、隣に腰を下ろした。さっきまで空いていた空間が自然に埋まる。
一瞬だけ体を強張らせたが、今回は離れなかった。 肩が軽く触れるか触れないかの距離。 それが妙に落ち着く。
「次からはちゃんと言ってね」
ゴンがぽつりと言う。 キルアは横目でチラッと見る。
みどりいろwith友!!
「何を」
「心配してるって!」
簡単に言う。 あまりにも簡単に。 キルアは少しだけ顔をしかめた。
「……簡単に言うなよ」
「なんで?」
「言いにくいだろ、そういうの」
ゴンは少しだけ考えるように黙り、それからあっさりと答える。
「オレは言うよ」
その言葉に、キルアは小さく息を詰めた。 真っ直ぐすぎる。 こいつは本当に、そういうところがある。どう返すこともできない。オレは 目を伏せて、少しだけ笑った。
「……知ってる」
小さく呟く。 その声には、さっきまでの尖ったものはほとんど残っていなかった。 しばらくの間、二人は何も言わずにそのまま座っていた。完全に元通りとは言えないが、それでもさっきまでのすれ違いが嘘みたいに、距離は確かに戻りつつあった。 隣にいる気配が、ちゃんとそこにある。 それだけで、ようやく息をつけるような気がした。