テラーノベル
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ひとつ学年が上がった夏のころ、最初に変わったのは、爪だった。
杖を握るたび、指の先がひんやりした。
爪の先が白く透けて、光に手をかざすときらきら光った。
そのあと、髪も変わった。
朝、くしで梳かすと毛先がひっかかる。
抜けた髪の根元が白く、光っていた。
そのままだと、友達や先生から変だと思われそうだったから、白くなった部分をリボンで隠した。
誕生日に買ってもらったピンクのリボン。結んでしまえば見えなくなる。
音楽室で、みんなと並んで歌っていると、声が出ないことがあった。
息を吸おうとすると、何かがひっかかって、声が出ない。
先生の伴奏は先に進んでいくのに、わたしだけ、口を開いたまま音が出なかった。
こっそり咳をして、口元を手で隠す。
その拍子に、小さな真珠が、ころりと舌の上に転がった。
びっくりして、飲み込みそうになって、あわてて、吐き出した。
床には落とせなくて、ハンカチに包んで、ぎゅっと握った。
誰にも、気づかれなかった。 先生が、
「風邪をひいてるなら無理しなくていいよ」
と言ってくれたから、わたしは小さくうなずいた。
それから、毎日マスクをするようになった。体育のとき、マスクを外す理由を考えるのが面倒だった。
放課後、クラスメイトから遊びに誘われた。お菓子を持ち寄ってみんなで食べるんだと言う。
用事があるからごめんと、いつも通り断ると、その子はあっさりと引き下がった。
一応声を掛けてくれただけなんだろう。
みんなが眠っている間、わたしは戦った。
戦うたび、白いものは増えた。
ポケットの中。
かばんの中。
枕の下。
怖かったし、寂しかった。
でもわたしは魔法少女だから。
みんなを守るために、戦わなきゃいけない。
戦った夜は、胸の奥が、すうすうした。
何かを落としたあとみたいに、軽かった。
「ずいぶん強くなったね」
ある日、猫がそう言った。
「きみから生まれる真珠も、前よりきれいだ」
わたしは自分の手のひらを見る。
前なら逃げていた怪物を、今は、杖をひと振りするだけで倒せるようになった。
手の甲に、白いものが、薄く重なって光を反射していた。
指を傾けると、真珠は静かに応えた。
角度を変えるたび、淡く、やさしく、色を変える。
鱗みたいだ、と思った。
でも、魚のものより、ずっとなめらかで、ずっと、きれいだった。
これは、泣かなかったぶん。
逃げなかったぶん。
わたしの手は、こんなふうにきれいになっていく。
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