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今日は彼女の方が先にいた。
駅のベンチに腰をかけた彼女は、足をプラプラさせながら、遠くを眺めているようだった。
僕が近づくと、こちらに顔を向けることなく私に話しかけた。
「女の子を待たせるなんて、紳士のとる態度じゃないわね。」
昨日と同じ麦わら帽子が、彼女の顔を遮るせいで、彼女の表情は見えなかった。
私は彼女の隣に腰をかけた。
「紳士だって、会う時間を伝えてくれなきゃ、来るべき時間はわからないよ。」
「夕日を見るって約束したじゃない。良い具合をきちんと考えるべきよ。」
「君にとっての良い具合と、私にとっての良い具合が合わなかっただけじゃないかな。」
ふんっ、と鼻を鳴らしつつも、彼女はあまり怒っているようには感じなかった。
「ねえ、あなたのことについて聞かせて欲しい。」
「私のこと?別に大して面白くないよ。勉強ばかりして、人ともあまり話すこともないから、話すべき思い出も、語りたいと思える友人も、、、。」
話しを続けようとしたところで、私は彼女の顔を見て驚いた。
「今更気づいたの?」
彼女の表情からは何も読み取れなかった。ただひとつ、それをみて私が困惑したのは確実だった。
「泣いていたんだね。いつから?」
「さあ、いつからでしょう?」
彼女は確かに泣いていた。けれど、やはり表情からは何も読み取れない。ただ、話し方は妙に軽快で、少し不思議だった。
「何か気に障ることを言ったならば、謝罪するよ。」
「いいえ。あなたは悪くはないわ。」
彼女はどうして泣いているのかを言わなかった。
少しの沈黙の後、口を開こうとした私を彼女は遮るように続けた。
「泣いてる理由をきくことは、泣いている人にとって良いことかしら?」
見透かされているようだった。私は答えた。
「わからない。でも、理由を聞けば何かの助けになれるかもしれない。」
「そうね。でも、リスクもあるわ。」
「どういうリスク?」
「その人が抱えている問題が、その人にしか解決できない時。もしくは、理由を話すことなんて望んでいない時。それは大きいリスクね。」
「後者はわかるけど、前者はどういうこと?」
「あなたが差し伸べてきた手を掴むことができない申し訳なさと、自分の不甲斐なさ、あなたが私を助けられないことで、改めて誰も私を助けられないということ痛感させられること。そんな感じかしら。」
いつのまにか、別の誰かを仮定している話が、私と彼女の間の関係に置き換わっていたことに驚いた。
「君は、その、、辛いことがあったんだね。」
彼女は僕に微笑みかけながら答えた。
「悪くない励まし方ね。」
少したつと彼女の涙はなくなった。
ふと遠くを見ると、太陽が沈み始めた頃だった。
「美しい夕日ね。とても美しいわ。」
彼女は立ち上がって2、3歩くと、こちらを振り向いた。
「正直いうと、私が泣いていた理由は大したことじゃないわ。」
「じゃあ、聞いても良い?」
彼女は深呼吸をして、優しい笑顔でこう言った。
「あなたに会えて嬉しかったの。」
心が少し、ざわついた気がした。