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全然みれなくてごめんなさい!! 続きたのしみにしてました、、ありがとうございます😊✨
『甲子園球場は8回裏、阪神タイガースが依然3点のリード。ノーアウトランナー2塁でバッターボックスには2番、中野。先程の打席ではセンター前ヒットを放っています』
それなりの点差はついているからあまり気負うことはないけれど、ここで得点圏にいる近さんを返してダメ押しの追加点を挙げたい所だ。
しかし相手の球の軌道が上手く掴めず、あっという間に2ストライクまで追い込まれてしまった。
「焦るな…!」
己に言い聞かせるように、僕は低く呟く。
3球目、高めのコースを飛んできた釣り球には手を出さない。意識を極限まで研ぎ澄ませて、次の球を見極める。
「そこだ!」
『痛烈な当たり!打球はぐんぐん伸びてスタンドへ入る!中野拓夢、ここで魅せました意地の2ランホームラン!2人返って5対0、阪神タイガース!』
渾身のスイングで振り抜いたバットは大きな音と共に中心から砕け、高く上がったボールが凄い勢いでスタンドへと吸い込まれていく。
「やった…!」
ファンの歓声や鳴り物が地響きのような轟音となり球場全体を包む中、僕と近さんがバックホームする。
それから9回表を0で抑えてチームは無事に勝利し、ヒーローインタビューを終えてロッカールームへ戻っても僕はまだ夢を見ているような気分だった。
あの歓喜の轟音は今まで何度も耳にしてきた筈なのに、いざそれが自分へ向けられたとなると何だか不思議な気持ちになるものだ。
「お疲れ、これは文句無しでムーの勝ちやな」
「近さんも、お疲れ様です」
労いの言葉に応えると、近さんは楽しそうに笑って僕の頬をつつく。
「ほら、早よ帰り支度しい?皆帰ってもうたしな」
「あ…」
慌てて周りを見回すともう僕達以外には誰もおらず、近さんも既に着替えを済ませてこちらへニコニコと笑いかけていた。
僕も、少しぎこちない手つきになりつつ急いで着替えて荷物を纏める。
「何でちょっと楽しそうなんですか…っていうか、待っててくれたんですね」
「そら待ってるよ、約束やもん」
「…正直、はぐらかされると思ってました」
「そんな酷いことせえへんよ、可愛いムーを悲しませたくない」
…えっ?
今、可愛いって…言った?
「近さん、今、僕のこと、」
「うん?可愛いよムーは。だから俺、いつも見ててん」
瞬間的に、顔が熱くなるのが分かる。恐らく耳まで真っ赤になってしまっているのだろう。
「なあ、ムー」
「なん、ですか」
背ける間も無かった顔を不意討ちで覗き込まれてしまった。こうなってしまったら最後、僕はもう完全に近さんの掌の上だ。
「今夜、ムーの可愛い所もっと見たいなあ…あかん?」
そんなふにゃふにゃの笑顔を向けられちゃ、NOだなんて言える訳ないでしょ?
「敵わないよ、あなたには」
ぶっきらぼうに呟いて、徐ろに近さんの手をぎゅっと握る。息を呑みながら僕の手を握り返してくれたから、「可愛いだけじゃないって、教えてあげますね?」って返してとびっきりの笑顔を一つ。
果たして、今度はどっちが勝つのかな。
まあ、負けるつもりなんてないけど。
今日最高の笑顔で、僕は近さんにそっと寄り添った。