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『そうよ。だから、倫之くんとっていうのはびっくりしたけど、きちんと話がまとまってほしいと思ってるの。特に女性はね、子供産める年齢にどうしても限界があるんだから』
「…………」
母の言いたいこともわかる。わかるけど。
『だからね、のんきなこと言ってないで、ちゃんと考えて』
「わかったから。ごめん、そろそろ休憩時間終わるから」
そう言って通話を終えた。会社の昼休みを狙ってわざわざかけてくるほど、母にとっては重要かつ迅速に対応すべき問題になっているらしい。
思わず、大きなため息が出た。
とてもじゃないけど、今さら「芝居」だなんて言えない。 けれど、これはまぎれもなくお芝居で、嘘の交際なのだ。
──それなのに。
同窓会で終了するはずだった、私と倫之の「芝居」。
だがどういうわけか、同窓会が終わった後も、倫之は定期的に連絡してくる。観たい映画があるから付き合ってくれとか、新しくできたショッピングモールに行ってみないかとか。
いくらでも相手のアテはあるだろうに、わざわざ私を誘う意図がわからない。
……なのに、それにいちいち応じている私もどうかと思う。ほぼ毎週のペースで提案される誘いを、この三ヶ月、一度も断っていない。
倫之の理由はわからないが、私の理由ははっきりしている。誘われて悪い気がしないからだ──もっとはっきり言えば、嬉しいから。
そんなことを思う自分は、あまりにも意外だった。
だって、倫之は、ご近所さんの幼なじみ。それだけの関係でしかない。
……そういう認識だったはずなのに。
「由梨、聞いてる?」
呼びかけられてはっとする。
その途端に、周囲の声と空気の感覚が戻ってきた。
──ここは、最近人気の高いイタリアンレストラン。 休日は当然ながら予約でいっぱいだけど、倫之が今日の予約を取っていてくれたので、お昼を食べにやって来た。
朝から美術館の展示を観に行った、その後のこと。
私が、ある影絵作家の作品に興味を持っているということは、何かのついでにちょっと話しただけだ。なのに倫之はそれを覚えていて、近くの美術館で画業五十周年展が開催されると調べてきて、チケットまで取ってくれた。
そこから歩いて十分ほどの距離にあるこの店もチェックして、予約した。私がイタリアン好きなことを折り込み済みで。
「ごめん、ちょっと考え事してた。何?」