どうもこんにちは!
私の名前はヴェル・ルナリア。
セレスティア魔法学園の入学試験を受けにきたんだよ!
そこで出会った男の子……
なんとなく、ただなんとなく、落ち着きのない子だなと思って、話しかけてみただけだった。
そんな子が、まさか、まさかサンダリオス家の末裔だったなんて。
テレビで存在くらいは知っていたけど、顔までは映されていなかったから気づかなかった。
驚き……それもあるし、なんというかやっぱり……
オーラがいきなり、ぶわっと……!!!!!!
セレスティア魔法学園は、グランドランド大陸最大の魔法学園として名を馳せている。
ここでは、一人ひとりが持つユニークな魔法を、3年間という時間をかけてじっくりと育て上げ、立派な魔法使いへと成長させる場所だ。
古びた石造りの校舎や、深い森に囲まれた広大な敷地は、まるで伝説の中から抜け出したような威厳に満ち、全国から集まる若者たちの憧れの的となっている。
今年は3万人の受験生がこの学園への入学を目指して集まり、過酷な試験に挑むことになる。
だが、その中から選ばれ、学園の門をくぐれるのはわずか100人だけ……
3万分の100という狭き門を突破するには、才能だけでなく、勇気と絆が試される。
セレスティア魔法学園の入学試験会場は、深い森に囲まれた巨大な円形闘技場だった。
古びた石壁には苔がびっしり生え、風化した表面には過去の魔法使いたちの戦いの爪痕が刻まれている。
高さ30メートルの観客席は、受験生の家族、貴族、学園の教師や見物人で埋め尽くされ、ざわめきが絶えない。
薄曇りの空の下、風が木々の葉を揺らし、時折、低いうなり声が森の奥から響いてくる。
空気は緊張と期待で張り詰め、受験生たちの息遣いさえ聞こえそうな静寂が訪れる。
この日の課題は「暴走ドラゴン討伐」
各ペアが別々の闘技場で独立して挑む、命懸けの試練だ。
レクト・サンダリオスとヴェル・ルナリアは、到着時間が近かったため、試験官によってペアにされた。
試験開始前、受験生たちは闘技場中央の待機場に集められていた。
地面は砂利が敷かれ、足音がカサカサと響く。
周囲には簡易な木製の柵が立ち、試験官たちが厳しい目で受験生を見張っている。
そこに、レクトとヴェルの姿があった。
レクトにとって、この日は特別だった。
サンダリオス家の末裔としての重圧が、彼の肩にずっしりと乗っている。
彼の魔法は「変なフルーツの魔法」。
喋るマンゴー、飛び回るグレープフルーツ、爆発するパイナップル、などなど様々、奇抜で予測不能な果実を召喚する力だ。
サンダリオス家は数々の最強の魔法で名を馳せた名門だった。
だが、数ヶ月前
家族の前で初めて魔法を披露したときに失望の溜息を吐かれた。
「こんな魔法がサンダリオスの名を継ぐだと?恥を知れ」などと吐き捨てられ、家を追い出された。
雨の降る夜、屋敷の門が閉まる音が耳に残り、叫び声は誰にも届かなかった。
それ以来、彼はガルドの家でお世話になって、この試験で自分の魔法の価値を証明しようと決意していた。
口元に無理やり作った笑みを貼り付け、強く見せようとする態度の中には、脆さが隠れている。
心の中ではいつも思う——「俺は本当にサンダリオスに相応しいのか?」
一方、ヴェルはレクトの隣に立っていた。
田舎町出身の少女で、擦り切れたオレンジのパーカーを着て、薄茶色の髪は乱雑に束ねられ、風に揺れている。
赤く大きな瞳が揺れ、少し怯えた表情が垣間見える。
彼女の「振動魔法」は震度2程度の微弱な揺れしか生み出せず、故郷では「ダメダメ魔法使いの娘」と呼ばれていた。
レクトを見たとき、「落ち着きのない子だな」と何となく感じたそうだ。
彼がサンダリオス家の人間だと知った瞬間、心臓が跳ねたが、彼の魔法についてはまだ何も知らない。
待機場で、受験生たちの間にざわめきが広がる。
「サンダリオスだって?魔法の名門か!」
「母も父も姉もやばいよな!お前もやっぱり凄い魔法を見せてくれるんだろー?」
と声が飛び交い、レクトに尊敬の視線が注がれる。
彼は内心で冷や汗をかく。
「期待されてる…でも、俺の魔法じゃ…」と思いながら、無理やり笑顔を保つ。
ヴェルが隣で「ウンウン!レクトくんの魔法、どんなものか楽しみ……!」と呟く。
そして
貴族出身のカイザもレクトに尊敬の目を向ける一人だった。
黒髪をなびかせ、青い瞳に傲慢な光を宿し、黒い雷光が走る装飾付きの杖を手に持つ。
背後に従える相棒は筋骨隆々のビータで、重厚な盾と槍を携えている。
カイザの魔法は「雷撃魔法」で、強力な稲妻を操る破壊力を誇る。
彼はレクトに近づき、
「サンダリオスの名を継ぐなら、あっと驚くものを見せてくれるんだろうな、期待してるぜ」
と笑顔で言うが、その声には挑戦的な響きがある。
受験生たちは「サンダリオス家の魔法ならドラゴンなんて一撃だ」と期待を寄せ、レクトを取り囲む。
彼は笑みを浮かべつつ、心の中で呟く。
(一撃なんて無理だよ…俺の魔法、フルーツだぞ…)
一方、受験生はヴェルには冷たい視線を向けていた。
彼女がレクトの隣に立つ姿に、受験生たちの表情が曇る。
「あいつ、田舎者じゃないか」
「継ぎはぎのパーカーなんてみすぼらしいな」
と囁きが広がり、カイザの相棒ビータが鼻で笑う。
「震度2の振動魔法?そんな力でドラゴンに勝てるわけない。サンダリオスに失礼だろ」
と吐き捨てる。
別の受験生が
「名門と組むなんて場違いだ。足手まといになるだけだよ」
と冷ややかに言い、ヴェルを避けるように距離を取る。
彼女は肩を縮め、目を伏せて地面を見つめる。
カイザが
「まあ、サンダリオスならお前一人でも十分だろう。そいつは置いていけよ」
とレクトに肩を叩き、相棒と共に去っていく。
レクトはその状況に困惑する。
周囲の視線が刺さり、心臓がドクドクと鳴る。
「俺がサンダリオスだってだけで、こんな期待…でも、俺には…」と頭が混乱する中、ヴェルの小さな声が耳に届いた。
「私、帰った方がいいかな…」
彼女の手が震え、パーカーの裾をぎゅっと握り潰す。
その声はほとんど聞こえないほど小さく、風にかき消されそうだった。
レクトは静かに周囲を見回す。
尊敬の視線が重く、心の中では気まずさでいっぱいだ。
——雨の降る屋敷、門の外で届かなかった叫び声。
あの日の孤独がフラッシュバックし、彼は目を閉じる。
一瞬だけ震える息を吐き、ヴェルの俯く姿に目を向ける。
彼女の背中に、自分の姿が重なった。
(俺も、あの時…誰かに味方でいてほしかった)と胸が締め付けられる。
強くあろうと無理やり笑みを浮かべ、彼は一歩前に出る。
「……なぁ、みんな聞いてくれ」と声を張り上げるが、少し掠れている。
「俺はサンダリオス家のレクトだ、確かに名家の血を引いてる。でも、俺のパートナーはこのヴェルだ。彼女を笑うなら、俺も一緒に笑いものになる覚悟がある。」
その言葉に、観客席がざわつき、カイザが振り返る。
受験生たちの間に困惑が広がり、
「何だって?」
「サンダリオス家がそんな弱音を?」
と声が漏れる。
レクトはシャツの襟を正し、
そっと手を叩く。
だが、その手は一瞬震え、彼はそれを隠すように拳を握る。
宙に「喋るマンゴー」が現れ、
「よう、みんなくそくらえだぜ!俺の方が賢いんだからな!」
と叫び、くるくると飛び回る。
さらに「飛び回るグレープフルーツ」を召喚し、紫の果実がブンブン飛び、地面にぶつかって弾ける。
一つがカイザの足元に転がり、
「お前、顔がブサイクだな!」
と喋ると、観客席から笑い声が上がる。
受験生たちは
「何だあの魔法!」
「サンダリオスなのにこんな変な魔法なの!?」
と唖然とし、カイザが「ふざけるな!!!」と呟く。
ヴェルはこの瞬間、初めてレクトの魔法を知った。
「え…フルーツ?」と目を丸くし、内心で少し安心する。
(名門なのに、こんな変な魔法…私と同じで、大したことないのかな、、、)
彼女は彼の魔法を見て、どこか親近感を覚えていた。
レクトはそんな彼女の視線を感じつつ、心の中で苦笑する。
(やっぱり笑いものか…でも、これが俺なんだ)と自分に言い聞かせる。
彼はヴェルの前に立ち、彼女の肩に手を置く。
声は低く、少し震えている。
「俺の魔法、変だよな」
「……!!!」
「家族にも幻滅されて怒られて…
捨てられたよ。
俺一人残ったときも、こんな魔法しか使えなくて…。
でも、これで俺はやり直すためにここに来た。
君も同じじゃないの?ヴェルちゃん
俺は君の味方だ。どんな目で見られても、一緒に戦うよ」
その言葉を聞いて、
ヴェルは涙ぐみながら見上げ、「…ありがとう、レクトくん」と小さく頷き、震える手で彼の手を握る。
「私も強くなりたいの……っ、もう街でいじめられたくないの……!」
レクトは彼女の手の冷たさを感じ、
(ヴェルも俺と同じで怖いんだな)と気づく。
その瞬間、彼女を放っておけない気持ちが強くなった。
「……あと、呼び捨てでいいよ」
とヴェルは追加で呟いた。
「え?あ、分かった……」
そのまま返した。
カイザが「ふん、弱気な奴だな」と言い、ビータに目配せして去る。
受験生たちの視線は冷たさを残しつつ、二人の絆に一抹の興味を抱いたようだった。
待機場のざわめきが収まると、試験官の一人が前に進み出る。
彼女はフロウナ先生と呼ばれ、セレスティア魔法学園でも名高い教官だった。
長い銀髪を背中に流し、青いローブに身を包んだ彼女の瞳は鋭く、威厳に満ちている。
手に持つ杖からは微かな魔力が漂い、彼女の存在感が場を圧倒する。
フロウナ先生は静かに杖を地面に突き、澄んだ声で話し始める。
「諸君、私はフロウナ、
セレスティア魔法学園の教官だ。
今日は入学試験として、暴走ドラゴン討伐を課す。
このドラゴンは、私の魔法によって召喚される幻獣だ」
彼女が杖を軽く振ると、空気が歪み、観客席のスクリーンに漆黒のドラゴンの姿が映し出される。
体長12メートル、赤い目がギラつき、口から滴る涎が地面を焦がす。
鱗は黒鉄のように硬く、爪の一撃で岩を砕く力を持つ。
観客席から悲鳴が上がり、受験生たちの顔が強張る。
フロウナ先生は続ける。
「私の『幻獣召喚』は、過去の戦場で倒された魔獣の魂を再現する魔法だ。
このドラゴンは実体を持つ幻影であり、
倒されれば消滅するが、その力は本物だ。
炎を吐き、尾で地を割り、鱗はほとんどの魔法を跳ね返す。
諸君にはペアで協力し、このドラゴンを討伐してもらう。
別々の闘技場で同時に試練を行い、それぞれの力量を測る。
魔法の威力だけでなく、知恵と連携が試されるぞ。準備はいいな?」
彼女の言葉に、受験生たちが息を呑む。
レクトは一瞬だけ目を伏せる。
あの日の記憶が改めてまた蘇り、胸が締め付けられる。
(俺のフルーツでこんなのに勝てるのか?)
と不安が頭をよぎるが、隣のヴェルを見ると、少しだけ気持ちが落ち着いた。
(でも、大丈夫だ、俺はひとりじゃないし……!)
ヴェルは「フロウナ先生、すごい…」と目を輝かせる。
フロウナ先生が杖を掲げ、
「試験、開始!」と告げると、鉄格子の扉が軋みながら開き、各闘技場にドラゴンが召喚される。
試験が始まる直前、レクトとヴェルは短い時間で作戦を立てる。
「ど、……どうする?あんな大きなドラゴン……どうやって倒そう、、?」
ヴェルは不安げにそう言った。
レクトは、
「……俺のフルーツでドラゴンの気を引くよ。そしたらヴェルの振動で足元を崩してくれ。どうだ?」と提案。
彼の声には緊張が混じりつつ、無理やり明るく振る舞おうとする努力が感じられた。
ヴェルは「うーん…私の振動、弱いけど、頭とか弱そうな部分に当てれば隙ができるかも」と返す。
「いいな、それ!頭を狙おう。最後は俺の隠し玉、ドラゴンフルーツってやつでトドメだ。まだ上手く使えないけど…今回は賭けてみるよ」とレクトが言う。
「ドラゴン…フルーツ?何それ?」
とヴェルが首をかしげると、「見てのお楽しみだよ」と彼は照れ笑いを浮かべた。
小屋でガルドと過ごしているうちに、自分の能力についてはちょっとだけ理解したようだ。
内心では
(失敗したら終わりだ…)
と冷や汗をかきながらも
、彼女に不安を見せまいと強がっていた。
第一闘技場にカイザと相棒のビータが入場する。
スクリーンに映し出され、観客席が静まり返る。
フロウナ先生の魔法で現れたドラゴンが咆哮を上げ、炎が闘技場を焦がす。
カイザが一歩前に出て、「貴族の力を見せてやらああああ!」と叫ぶ。
杖を振り上げ、青白い稲妻が空を切り、ドラゴンの胴体に直撃。
轟音と共に火花が散るが、鱗に阻まれ傷は浅い。
ドラゴンが反撃し、炎の奔流を吐き出す。
ビーダが盾を構え、炎を弾く。
盾が赤熱し、熱風が闘技場を包む。
カイザが再び雷撃を放ち、脚を狙う。
稲妻が鱗の隙間に突き刺さり、ドラゴンがよろめく。
尾を振り回して地面を割り、砂煙が上がる中、ビーダが「今だ!」と槍を手に突進。
盾で尾を防ぎ、腹に槍を突き立てる。
血のような幻影が滴り、ドラゴンが咆哮を上げる。
カイザが最後の雷撃を頭部に集中させ、鱗を貫き、頭蓋に達する。
ドラゴンは苦悶の声を上げ、光の粒子となって消滅する。
観客席が沸き、カイザが杖を掲げて「これが俺の実力だ!」と叫ぶ。
フロウナ先生の声が響く。「カイザ組、力強い連携で討伐成功。合格。」
レクトはスクリーンを見て、「やっぱりすごいな…俺にこんなの無理だろ」と心の中で呟く。
第二闘技場にレクトとヴェルが立つ。
スクリーンに映し出され、「サンダリオスのバカフルーツ」「田舎のバイブ娘」と囁きが飛び交う。
フロウナ先生が杖を振ると、ドラゴンが召喚され、咆哮と共に炎が吐かれる。
レクトは心臓がバクバクするのを感じながら、「…作戦通りに行こう」と声を絞り出す。
「ウン……!」と手を叩く。
「喋るマンゴー」が現れ、「お前の顔、腐ったリンゴだな!(?)」と挑発し、注意を引きつける。
「飛び回るグレープフルーツ」が飛び回り、目に当たって視界を遮る。
観客席から笑い声が漏れるが、ドラゴンが前足を振り下ろし、マンゴーが潰れ、グレープフルーツが散る。
「くそっ、簡単にやられる…!」とレクトは焦る。
ヴェルが「振動で動きを乱すよ!」と叫び、両手を地面につける。
震度2の振動が土を震わせ、ドラゴンの足元で共鳴を始める。
地面が波立ち、ドラゴンがよろめく。
レクトが「今だ!」と「粘着バナナ」を召喚し、粘液が前足に絡みつく。
「これで少しは…!」と希望が湧くが、ドラゴンが後ろ足で地面を踏み、振動が打ち消され、粘液が弾ける。
尾の一撃が二人を襲い、レクトが「危ない!」と咄嗟にヴェルを庇って吹き飛ばされる。
壁に叩きつけられ、シャツが裂けて、ズボンに砂がこびりつく。
炎に追いつめられ、フロウナ先生がドラゴンを一時停止させ、笛を吹く。
「……なっ、、」
「そんな……」
レクトは壁に背を預け、息を切らす。
「またダメか…俺、やっぱり…」と頭を抱える。
カイザが「サンダリオスも落ちたもんだな」と笑う声が遠くから聞こえ、胸が締め付けられる。
待機場で、レクトは壁にもたれ、
拳を握る。
目が潤み、それを隠すように顔を背ける。
あの雨の夜、門の外で叫んだ自分の声が頭を離れない。
「俺にはこれしかないのに…何でダメなんだよ」と自分を責める。
ヴェルは膝を抱え、「私の振動じゃダメだった…」と俯く。
その声に、レクトはハッとする。
彼女の震える背中を見て、
立ち上がり、
「ヴェルが弱いんじゃない。俺が…俺がちゃんとできてないだけだ。もう一回やろう」
と手を差し出す。
声は震え、無理やり強がっている。
ヴェルが「でも…」と躊躇うが、
「ヴェルを笑いものにはさせない。俺が…俺が守るから」
と目に力を込める。
「…………」
彼女は「うん…、、レクトくんも無理しないで!」と手を握る。
その温もりに、レクトは(一人じゃないんだな)と初めて感じた。
フロウナ先生が「再挑戦を許可する。次で討伐できなければ失格だ」と告げる。
二人は闘技場へ戻る。
観客席からは「また失敗するぞ」と冷ややかな声が上がるが、レクトは心の中で呟く。
「今度こそ…俺の魔法で証明するんだ」
第二闘技場で、フロウナ先生が再びドラゴンを召喚。
レクトが「今度は…やるしかない!」と「喋るマンゴー」を召喚。
「お前臭いぞ!」と挑発し、「飛び回るグレープフルーツ」で視界を塞ぐ。
ヴェルが「振動を集中させるよ!」と膝をつき、前足に震度2の揺れを絞る。
地面が崩れ、ドラゴンがよろめく。
レクトが「粘着バナナ」を連続召喚し、四肢を封じる。
「これで動きを…!」と息を整える。
だが、ドラゴンが炎を吐き、二人は再びピンチに。
観客席から「もうダメだろ」と声が上がる中、レクトは叫ぶ。
「ヴェル、諦めずに魔法を続けろ!まだ隠し玉がある!!!!!」
「……!」
両手を広げると、そこから赤と緑の物体が大きく現れる。
「ドラゴンフルーツ、召喚!」
巨大なドラゴンフルーツが現れ、鋭い棘がドラゴンの鱗を貫き、内部から爆発的な衝撃波を放つ。
巨大なフルーツ。
魔力切れしてしまう一か八かの魔法だった。
ドラゴンが咆哮を上げ、頭部が吹き飛び、光の粒子となって消滅する。
レクトは膝をつき、「やった…やっと…」と息を吐く。
拍手が湧き、フロウナ先生が
「レクトとヴェル組、再挑戦での奇抜な討伐。合格」
と告げる。
カイザは「俺の方が早かった」と言い張るが、二人の連携に驚く。
レクトはヴェルに手を差し出し、「…やったな」と震える声で笑う。
胸の中では、
(お母さん達も……見てたかな……)
と一瞬だけ思う。
ヴェルは「うん、やったよ!レクトくん、すごい…!」と涙を拭う。
最初は彼のフルーツ魔法を見て
(私と同じで期待外れ)と安心していたヴェルだったが、
共闘を経てレクトに憧れを抱く。
でも、彼の脆さや優しさを知った今、
彼女にとってレクトは遠いヒーローではなく、対等な友達だった。
「次は私ももっと頑張るからね。一緒に強くなろう!レクトくん!」
と笑うヴェルに、レクトは
「…ヴェル、呼び捨てでいいよ」と照れ笑いを返す。
その笑顔に、彼は初めて本物の安心を感じていた。
フロウナ先生が二人の背中を見ながら、
「痛みを背負った強さと絆か…面白い子たちだ」と呟く。
拍手が響き続け、セレスティア魔法学園での新たな一歩が始まった。
次話 4月26日更新!
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