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入学試験から数日後の朝、
アラームに急かされてレクトが飛び起きると、
ガルドが「荷物だぞ」と声をかけた。
レクトは目を輝かせ、箱を開けた。
中には深緑色の制服が丁寧に畳まれていた。
「うわぁ、かっこいい!」
レクトは制服を手に取り、頬を緩めた。
生地は滑らかで、触るとほのかに温かい。
「ガルド、見て! 俺の制服だよ!」
ガルドは薪を運びながらチラリと見た。
「お、立派じゃねえか。まるで本物の魔法使いだな」
レクトは頷き、制服を大切に畳んだ。
今日はセレスティア魔法学園の入学式。
そのまま胸を踊らせながら、
レクトはついに小屋を出る。
入学式の日、
レクトはセレスティア魔法学園の正門前に立っていた。
レクトは新しい制服に袖を通し、緊張で手が汗ばんでいた。
「すごいな……」
彼は門を見上げ、圧倒された。
サンダリオス家の屋敷に負けないほど豪華だ。
そしてレクトは、そのまま不安が頭をよぎる。
「俺のフルーツの魔法は、受け入れてもらえるか」
そんな不安だった。
「レクト! おはよー!」
明るい声が響き、振り返るとヴェルが手を振って走ってきた。
ヴェルは入学試験で知り合った女の子だ。
栗色の髪をポニーテールにし、赤い目はキラキラ輝く。
試験のドラゴン討伐で協力し、
2人で試験合格を果たしたことは昨日のように覚えている。
「おはよう、ヴェル!」
レクトはホッと笑った。
「やっと会えた! なんか、緊張して朝から胃がキリキリしてるよ」
「ふふ、わかる! 私もドキドキしてるもん」
ヴェルは笑い、レクトの肩をポンと叩いた。
「でも、せっかく合格したんだから、楽しもうよ! ほら、行こ!」
二人は門をくぐり、敷地へ踏み入れた。
そこは活気に満ちていた。
新入生たちがブカブカの制服姿で集まり、笑い声や興奮した会話が響く。
花壇には星形の花が咲き、噴水は水をキラキラ跳ね上げる。レクトは目を丸くした。
「まるで夢の世界みたい……」
「でしょ! ここで魔法を学ぶんだよ。ワクワクするよね!」ヴェルはスキップしながら言った。
二人は大広間へ向かった。
そこは入学式の会場で、巨大な水晶のシャンデリアが天井から吊り下げられ、
壁には歴代の魔法使いの肖像画が並ぶ。
レクトは少し圧倒されながら、ヴェルの隣に座り、式を待った。
入学式の目玉は「組み分けの儀式」だった。
魔法学園の入学試験新入生は壇上に上がり、
「星読みの帽子」をかぶる。
この帽子は魔法で作られ、生徒の心や資質を見抜き、
4つの寮―
夢と希望がキラキラ輝くチーム
心の奥をそっと照らす穏やかなチーム
熱い情熱で未来を切り開くエネルギーのチーム
自由に歌って笑顔が響く明るいチーム
に割り当てる。
ハ○ーポッ○ーで死ぬほど観たやつである。
レクトの名前が呼ばれた時、
心臓がドキドキ高鳴った。
特に寮にこだわりはないが、こうやって割り当てられるのは普通にドキドキするものである。
彼はそのまま壇上へ。
帽子は古びた布製で、つばには星の飾りが揺れる。
被ると、頭の中で低く優しい声が響いた。
「レクト・サンダリオス……
傷ついた心と、強い意志を持つ少年だ。
優しさと、秘めた可能性……
ふむ、星光寮がふさわしい!」
「星光寮!」
司会の教授が告げると、大広間が拍手に包まれた。
レクトは帽子を脱ぎ、星光寮の席へ向かった。
そこにはヴェルがいて、ニコニコと手を振っていた。
「やった! レクト、同じ寮だよ!」
ヴェルが小声で囁いた。
「これから一緒に頑張ろうね!」
「うん、めっちゃ嬉しい!」
レクトは心から笑った。
星光寮は「夢と希望がキラキラ輝くチーム」と言われ、絆を大切にする生徒が多い。
ヴェルと同じ寮になれたことが、レクトに大きな安心を与えた。
式の後、二人で星光寮へ向かった。
寮は学園の東側にあり、星形の窓と青い旗が目印の塔だ。
部屋はそれぞれ一人部屋があり、
レクトとヴェルは隣だった。
「やった、これまたご近所!」とヴェルが笑うと、
レクトも「そうだな……っ!」と応じた。
入学式を終えた夜、2人はすぐに眠りにおちた。
翌朝、
レクトとヴェルは最初の授業に向かった。
授業は「基礎体力強化」で、
教室ではなく広大な訓練場で行われた。
担当はフロウナ教授、銀髪を高く結い、鋭い緑の瞳が威厳に満ちた女性だ。
入学試験でドラゴンも出している先生である!
彼女はセレスティア魔法学園でも名高い魔法使いで、その指導は厳しくも的確だと評判だった。
「諸君、魔法は精神力だけでなく、体力も必要だ」
フロウナの声は訓練場に響き、静かな力強さがあった。
「今日は『星走りの試練』を行う。己の限界を超えなさい」
「星走りの試練」とは、
障害物コースを走り抜ける課題だ。
浮遊する石の足場、炎の輪、風の障壁、泥の沼が並び、魔法の使用は禁止。純粋な体力と判断力が試される。
「それではよーい、スタート!」
試練が始まると、レクトは全力で走った。
浮遊する石の足場では、バランスを崩しそうになり、冷や汗をかいた。
「落ち着いて、レクト!」
ヴェルの声が背中を押す。彼は深呼吸し、一つずつ石を飛び移った。
炎の輪では、赤い炎がゴウゴウと燃え、熱気が顔を焼く。
「怖い……」と怯んだが、熱さは一瞬で、通り抜けると「やった!」と叫んだ。
風の障壁では、強風に押し戻されそうになったが、
ヴェルと並んで体を低くし、力を合わせて突破。泥の沼では靴がズブズブ沈み、二人で笑いながら這い上がった。
最終的に、レクトとヴェルは中位のタイムでゴール。
汗だくで泥だらけだったが、ハイタッチして笑い合った。
「キツかったけど、楽しかった!」
ヴェルが息を切らしながら言った。
「うん! なんか、強くなれそうな気がする!」
レクトは空を見上げ、爽やかな風を感じた。
適当ほざきすぎである。
フロウナ教授は静かに頷いた。
「初日としては悪くない。だが、満足するな。魔法は努力の結晶だ。明日も挑みなさい」
「はい……!」
レクトはフロウナ教授の言葉に頷いた。
その頃、サンダリオス家の屋敷では、
冷たい空気が漂っていた。
炎を踊らせる父のパイオニア、
嵐を生み出す母のエリザ、
影を操る姉のルナは、
豪華なダイニングで夕食を取っていた。
パイオニアは名門の当主として威厳に満ち、エリザは美貌と冷淡さを併せ持ち、ルナは魔法の才能で両親の期待を一身に受ける。
「そういえば父さん、
セレスティア魔法学園から手紙届いてたの」
ルナが封筒を差し出した。
パイオニアは無関心に封筒を開け、
新入生の名簿に目を通した。
「こんなものを、どうしてサンダリオス家に……?」
「さぁね」
パイオニアはそのまま読み進めた、その時
「レクト・サンダリオス」
の名前で手が止まった。
「何だと……? あのガキが魔法学園に?」
彼の声は怒りに震え、フォークがテーブルを叩いた。
エリザとルナも新入生の名簿に目を移す。
そして母のエリザが顔を歪めた。
「レクト? あのフルーツしか出せない役立たずが? ふざけないで! サンダリオス家の名を汚す気!?」
姉のルナは冷静に言った。
「名簿に間違いはないんだよね……?」
パイオニアは目を細めた。
「ありえん。あのガキは我が家の恥だ。変なフルーツを振り回して、
笑いものだったガキが、
なぜセレスティアに? ……
世に知れ渡る前に、退学させなければ」
彼の声には嫌悪が滲むが、どこか複雑な響きがあった。
レクトを捨てたのは彼の魔法が原因だったが、心の奥では別の感情が揺れていた――
自分でも
気づかぬまま。
エリザはため息を吐いた。
「あの子供にこれ以上好き勝手させられないわね。 サンダリオスの名を背負う資格なんてない!」
ルナは黙って名簿を見ていた。
「父さん、どう対応する?」
パイオニアはワイングラスを握りしめ、呟いた。
「セレスティア魔法学園に連絡しろ。
レクトがサンダリオス家と無関係だと伝えろ。
だが……」
彼は目を細め、暗い笑みを浮かべた。
「この件、監視する必要があるな。あのガキが我が家の名を汚さぬよう、な」
エリザが頷いた。
「ええ、絶対に許さないわ。あの子のフルーツは間違いなくサンダリオスの汚点なんだから…!」
彼女の声は憎しみに満ちていた。
屋敷の窓の外、
夜の闇が深まる中、
サンダリオス家の不穏な動きが静かに始まっていた。
その夜、
レクトは星光寮の屋上でヴェルと星を眺めていた。
ルミナリスの夜空は宝石のようで、星がキラキラ瞬く。屋上には木のベンチがあり、二人で並んで座った。
「今日の試練、キツかったけど楽しかったね」
ヴェルが膝を抱えて言った。
「レクトは、セレスティア魔法学園に来てよかったって思ってる?」
「うん、めっちゃよかった」
レクトは即答した。
「ガルドが俺を匿ってくれて、この学園のことを教えてくれた……。
家族とまた仲直りする為に、道を示してくれた。」
ヴェルはレクトを笑顔で眺める。
「俺は今その道を、ちゃんと歩けてる……!」
そしてレクトはヴェルに笑顔を向けた。
「私も! 実家じゃ『くそざこ魔法』ってうるさかったけど、ここなら自由に魔法を学べる。
ねえ、どんな魔法使いになりたい?」
レクトは考えて答えた。
「俺はもちろん、家族がサンダリオス家の1人だって認めてくれる魔法使いになりたいよ……
ヴェルは?」
そしてヴェルも少し考えて、
口を開く。
「私の魔法はこんな、「震度2の揺れ」しか起こせないし、コップの水が揺れるくらい。みんなの炎や風に比べると、笑いものだけどさ……。
でも、
村じゃこの魔法で畑や井戸の役に立ってたの。
前の授業で、壊れた橋の石を揺らして動かす案を出したら、先生が「実用的」って褒めてくれて、ちょっと自信出た。
周りの目は冷たいけど、この学園で、どんな小さな魔法でも誰かを助けられる魔法使いになりたいな。
こうやってレクトと話せてるの、ほんと嬉しいよ。」
二人は笑い合い、
星空の下で夢を語った。
レクトの心には、あの日の絶望の傷がまだあった。
だが、ヴェルが隣にいる。
ガルドが遠くで応援してくれる。セレスティア魔法学園という居場所がある。
それだけで、彼は前に進める気がした。
「ヴェル、これからも一緒に頑張ろうね」
レクトは照れながら言った。
「もちろん! 私たち、最高の魔法使いになれるよ!」
ヴェルは親指を立て、ウィンクした。
星が瞬く夜、
レクトは新しい一歩を踏み出す決意を固めた。
だが、彼の知らぬところで、家族の影が忍び寄っていた――。
次話 5月3日更新!