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第二話
新しい友と言う名のライバル
夏の朝。
群馬県・嬬恋高校。
広いグラウンドには、県内のアルペンスキー選手たちが次々と集まっていた。
「わぁ……!」
白鷺宴は、車から降りた瞬間、目を輝かせた。
ジャージ姿の選手たち。
群馬スキー連盟のワッペン。
見覚えのある顔。
宴は思わず冬夜の服を引っ張る。
「お、お父さん……!」
「ん?」
「あの人……ジュニオリで見たことある……!」
小声なのに興奮が隠しきれていない。
冬夜は少し笑った。
「そうだな。ここでは有名な選手も多い」
宴の心臓はバクバクだった。
ずっと動画で見ていた人。
ジュニオリや色々な大会で見ていた人。
速くて、かっこよくて、“別世界の人”みたいだった選手たちが目の前にいる。
でも。
話しかける勇気はなかった。
人が多い。
知らない人ばかり。
昔よりは話せるようになった。
それでも初対面はまだ怖い。
宴は冬夜の後ろに少し隠れる。
そんな娘を見て、冬夜は無表情のまま小さくため息をついた。
——大丈夫か、うたちゃん……。
心の中ではめちゃくちゃ心配だった。
「お、白鷺じゃねぇか!」
後ろから声が飛ぶ。
振り返ると、昔の選手仲間たちが笑いながら近づいてきた。
「久しぶりだな」
「今コーチやってるんだって?」
冬夜は軽く会釈する。
「まあな」
御堂光、草津スキークラブのコーチ
陽気な性格が特徴
「てか、お前去年来てなかったのにどうして今年は来たんだ?お前のところのクラブは小学生までだったろ」
冬夜は口をひらくと
「娘を…応援に来た」
御堂コーチは固まった
「…は…お前が…娘居たのか」
その瞬間、大きな声で
「なんで言ってくれなかったんだヨォ!赤飯炊いてやったのに!」
冬夜は近づく御堂コーチを手で押しながら
「炊かなくていい!それに、宴は元孤児だ。」
「言えるわけねぇだろ」
御堂コーチは、んーとした後
「確かに!」
「軽いな、相変わらず」
昔のコーチとも話し始める。
でも冬夜の視線は、ちらちら宴へ向いていた。
ちゃんと馴染めるか。
怖がってないか。
そればかり気になる。
⸻
開会式が始まった。
体育館にはたくさんの選手が並ぶ。
県トップクラスのジュニア選手たち。
宴は緊張で背筋をぴんっと伸ばしていた。
「……すごい」
小さく呟く。
すると。
「はじめまして!」
突然、横から明るい声が飛んできた。
「!?」
宴がびくっと振り返る。
そこには、ポニーテールの女の子が立っていた。
明るい笑顔。
日に焼けた肌。
元気いっぱいって感じの子だった。
「私、神崎優香!」
にこっと笑う。
「宴ちゃんと同い年だよ!」
その瞬間。
宴は思い出した。
——この子、ジュニオリで見た!
全国大会で上位に入っていた選手だ。
宴の目が丸くなる。
優香は楽しそうに続ける。
「小6の時、私もジュニオリ出ててさ!ずっと前から気になってたの!」
「宴ちゃん、上手だよね♪」
宴の頭が真っ白になった。
自分よりずっと上手い選手。
そんな人に褒められることなんて、今までほとんど無かった。
「よ、よろしく……お、おねがいしま、す……」
声がガチガチになる。
優香はクスッと笑った。
「宴ちゃん、緊張しすぎでしょw」
「大丈夫だよ!ここには悪い人とかいないからね!」
その言葉に、宴は目をぱちぱちさせた。
——なんて優しい人なんだろ。
そう思った。
⸻
そこから優香は、宴を色んな選手のところへ連れていった。
「この子、白鷺宴ちゃん!」
「めっちゃ速いんだよ!」
「え!?あの片品の!?」
「よろしく〜!」
気づけば、周りに人が増えていた。
みんな普通に話しかけてくれる。
笑ってくれる。
宴は少しずつ肩の力が抜けていった。
そして、思った。
——この人、陽キャだ。
優香はずっと喋っていた。
元気。
距離感近い。
コミュ力高すぎる。
宴とは真逆だった。
⸻
測定会が始まる。
十五分間走。
バランス測定。
ジャンプ力。
五十メートル走。
腹筋。
台飛び。
次から次へと種目が進んでいく。
「はぁっ……!」
体育館には息切れする声が響く。
全員クタクタだった。
特に十五分間走は地獄だった。
「む、無理……!」
「死ぬって……!」
選手たちが床に倒れ込む。
でも宴は、そんな空気が少し楽しかった。
みんなで頑張る感じ。
笑い合える感じ。
それが嬉しかった。
⸻
体育館の隅。
腕を組みながら見ていた冬夜は、静かに目を細めていた。
宴が笑っている。
スキーの友達と。
自然に。
楽しそうに。
その姿を見た瞬間。
冬夜の目に涙が浮かんだ。
隣にいた川場スキークラブのコーチが吹き出す。
「お前、そういう感じのキャラだったっけ?」
冬夜は慌てて顔をそむける。
「……うるせぇ」
でも口元は少し笑っていた。
⸻
昼休み。
宴たちは体育館のステージに座り、お弁当を広げていた。
周りには選手たちがいっぱい。
「宴ちゃんってどこ中なの?」
「身長高くない!?」
「足長っ!」
質問が飛び交う。
宴は笑顔で答えていた。
そんな中。
「ねぇ、宴ちゃんのコーチ誰?」
その質問に、宴は普通に答えた。
「お父さんなんだけど、白鷺冬夜って名前」
——その瞬間。
空気が止まった。
「ええぇぇぇぇ!?!?」
宴がびくっと肩を震わせる。
「白鷺選手ってあの白鷺選手!?!?」
「え!?オリンピックの!?」
「あの塩対応と無感情で有名だった!?」
「しかもお父さんなの!?」
宴は目をぱちぱちさせる。
——え、お父さんってそんなに有名なの?
優香まで興奮していた。
「え、私初耳なんだけど!?」
「えぇぇすごっ!!」
宴は少し照れながら笑った。
「で、でも優しいよ……?」
すると全員が同時に言う。
「想像できない!!」
宴はぽかんとした。
⸻
午後は講習会だった。
スキーの基礎知識。
栄養。
怪我予防。
トレーニング理論。
みんな真剣にノートを書いている。
宴も必死にメモしていた。
「……なるほど」
分からない漢字もあったが、頑張って書く。
冬夜が遠くから見て少し笑った。
⸻
講習が早く終わると、体育館で自由時間になった。
「バスケしよーぜ!!」
誰かが叫ぶ。
気づけばみんなコートへ走っていた。
宴も優香に引っ張られる。
「宴ちゃんもやろ!」
「えっ、えっ!?」
だが。
試合が始まった瞬間。
「うまっ!?」
周りが驚いた。
宴の動きが速い。
ドリブルも綺麗。
シュートも普通に入る。
「宴ちゃん何者!?」
「運動神経バケモンじゃん!」
宴は慌てる。
「ち、ちが……!」
でもちょっと嬉しそうだった。
⸻
そして。
長い測定会が終わった。
帰る人たちが集まり始める。
その時。
「宴ちゃーん!」
優香が大きく手を振った。
「また夏合宿でね!」
宴も笑顔で手を振る。
「うん!またね!」
……数秒後。
宴の動きが止まった。
「……ん?」
「夏……合宿?」
固まる。
——合宿って何?
⸻
帰りの車。
宴は助手席で冬夜を見る。
「お父さん」
「ん?」
「優香ちゃんに、“また夏合宿でね”って言われたんだけど……夏合宿ってなに?」
冬夜が固まった。
「あ」
数秒沈黙。
「……すまん。言い忘れてた」
宴は目を丸くする。
冬夜は苦笑いした。
「夏合宿は主に二泊三日だな」
「尾瀬の山登ったり、サップしたり、体育館でトレーニングしたりする」
「もちろん俺も行く」
宴は一瞬固まり——
「よかったぁ……」
心底安心した顔でシートにもたれた。
冬夜は小さく笑う。
窓の外では、夏の夕日が山を赤く染めていた。
次回 夏合宿
コメント
1件
よかった……!第二話、すごく温かい気持ちになりました🤍 宴ちゃん、初めての場所で緊張してるのに、優香ちゃんみたいな子が「大丈夫だよ!」って手を引っ張ってくれて。コミュ力の違いに圧倒されつつも、嬉しそうに馴染んでいくのが本当に可愛かったです。運動神経がバケモンすぎて周りが驚くシーンも好きでした。 そして何より——最後の「夏合宿って何?」からの冬夜さんの「あ」が笑えました(笑)。次回がますます楽しみです!
#スポーツ
眠野ねつき無断転載とか❌
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