テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
第47話「エルフの彼女と同棲する場合」
帰り道。
駅前。
相沢直人が言った。
「一緒に住む?」
森野リリカ。
停止。
耳。
真っ赤。
「……」
「森野さん?」
「聞こえませんでした」
ぴく。
「聞こえてる」
「電車の音で」
「今、電車通ってない」
「車の音です」
「静かだけど」
森野。
「もう一回言わないでください」
相沢。
「じゃあ答えは?」
「……」
「嫌?」
森野。
少し黙る。
「嫌とは」
「うん」
「言ってません」
耳。
動かない。
相沢。
「じゃあ」
「でも!」
「はい」
「急です」
「そう?」
「急です」
「付き合ってから」
「まだそんなに長くありません」
「確かに」
「それに」
森野。
指を折る。
「家賃」
「うん」
「通勤」
「うん」
「家具」
「うん」
「生活費」
「うん」
「家事分担」
「うん」
「住所変更」
「うん」
「会社への届け出」
「うん」
「その他」
相沢。
「急に現実的」
「同棲は生活です!」
「エルフでも?」
「エルフでも!」
二人。
駅。
森野。
「今日は」
「うん」
「保留です」
「分かった」
「保留ですから」
「うん」
「断ったわけではありません」
「分かってる」
「そこ重要です」
「はい」
森野の耳。
少し上がる。
翌朝。
営業企画部。
午前九時十二分。
田中美咲が。
森野を見る。
「森野さん」
「何ですか」
「昨日」
森野。
「何もありません」
ぴく。
田中。
「まだ何も聞いてない」
「……」
月島セシル。
「分かりやすいですね」
相沢。
パソコンを見る。
田中。
「相沢さん」
「何?」
「何したんです?」
「何も」
森野。
「そうです」
ぴく。
田中。
「二人とも怪しい」
部長。
「仕事しろ」
午前十一時。
会議。
部長。
相沢。
森野。
月島。
藤堂ユウ。
普通の営業企画会議。
売上。
キャンペーン。
新規案件。
最後。
部長。
「以上」
森野。
「はい」
部長。
「あ、森野さん」
「何でしょう」
「住所変わる予定ある?」
森野。
「え!?」
耳。
直立。
全員。
見る。
部長。
「何?」
「な、なぜ?」
「年末の人事情報確認」
「……」
「全員に聞いてる」
田中。
「森野さん」
森野。
「違います」
「何が?」
「何でもありません!」
会議終了。
廊下。
田中。
追う。
「住所変わるんですか?」
「変わりません」
ぴく。
「変わる?」
「まだ変わりません!」
「まだ?」
森野。
止まる。
「……」
田中。
目。
輝く。
「同棲?」
森野。
「違います!」
ぴく。
田中。
「同棲!」
「声が大きい!」
三十分後。
営業企画部。
全員知っていた。
相沢。
「早くない?」
森野。
「田中さん!」
田中。
「私は月島さんにしか」
月島。
「私は藤堂さんにしか」
藤堂。
「僕は部長にしか」
部長。
「俺は誰にも言ってない」
森野。
「そこだけ偉い!」
昼。
社員食堂。
森野。
相沢。
向かい。
森野。
「会社に知られました」
「まだ何も決まってないけどね」
「そうです!」
「じゃあ断る?」
森野。
「……」
耳。
ぴく。
相沢。
「分かりやすい」
「耳を見ないでください」
「無理」
森野。
箸を置く。
「相沢さん」
「はい」
「もし」
「うん」
「一緒に住むなら」
相沢。
「うん」
「どっちの家?」
「森野さんのところ広いよね」
「相沢さんの部屋は?」
「狭い」
「却下」
「即決」
「私の家なら」
「うん」
「会社にも近い」
「うん」
「スーパーも近い」
「うん」
「駅も」
「うん」
「ただ」
「何?」
「収納が足りません」
相沢。
「俺そんな荷物ないよ」
森野。
「私が多いんです」
「百四十三年分?」
「全部持ってません!」
「昔の写真」
「あります」
「日記」
「あります」
「明治の服」
「少し」
「大正の服」
「少し」
「昭和の服」
「かなり」
相沢。
「博物館?」
森野。
「家です!」
その夜。
森野の部屋。
二人。
メジャー。
相沢。
「ここに棚置けそう」
森野。
「幅七十まで」
「ベッドは?」
森野。
停止。
「……」
相沢。
「何?」
「ベッド」
「うん」
「どうします?」
「どうするって」
「今」
森野の寝室。
ベッド。
一つ。
相沢。
「買い替える?」
森野。
「……」
耳。
赤。
「大きいのに?」
「そう」
「二人で?」
「同棲なら」
森野。
「……」
相沢。
「ソファで寝る?」
森野。
「毎日は駄目です」
「じゃあ」
「……」
「ベッド」
森野。
耳。
真っ赤。
「家具店で考えます!」
「家具店まで保留?」
「はい!」
土曜日。
大型家具店。
相沢。
森野。
ベッド売り場。
店員。
「お二人でお使いですか?」
森野。
「まだ決まってません」
相沢。
「たぶん」
森野。
「相沢さん!」
店員。
「でしたらダブルかクイーンサイズが」
森野の耳。
ぴくぴく。
店員。
耳を見る。
一瞬。
「あ」
森野。
「はい」
「ニュースの」
「はい」
「エルフの方?」
「はい」
店員。
「耳がある場合」
森野。
「はい?」
「枕は何か特殊なものが?」
森野。
停止。
相沢。
笑う。
森野。
「普通です」
「横向きで寝ると」
「少し邪魔です」
「でしたら柔らかめの枕を」
森野。
「そんな対応あるんですか?」
店員。
「初めてです」
「ですよね!」
結局。
ベッド。
保留。
棚。
購入。
食器。
二つ追加。
森野。
レジで。
食器を見る。
「……」
相沢。
「何?」
「増えましたね」
「二個だけ」
「今まで」
「うん」
「一人分だったので」
「うん」
森野。
少し笑う。
「変な感じです」
帰宅。
棚。
組み立て。
相沢。
説明書。
森野。
板を持つ。
一時間後。
相沢。
「完成」
森野。
「傾いてません?」
「気のせい」
「傾いてます」
「床じゃない?」
森野。
「棚です」
二人。
やり直し。
さらに。
四十分。
完成。
森野。
棚の一段。
空ける。
「ここ」
「何?」
「相沢さん」
「俺?」
「はい」
「使っていいの?」
「同棲するなら」
相沢。
見る。
「決めたの?」
森野。
止まる。
「……」
耳。
ぴく。
「今のなし」
「森野さん」
「今のなしです!」
相沢。
笑う。
「ありがとう」
森野。
「まだ一段だけです」
「はい」
「全部使わないでください」
「はい」
「あと」
「何?」
「歯ブラシ」
「うん」
「置いてもいいです」
相沢。
「もうあるけど」
森野。
「泊まったとき用でしょう」
「違うの?」
「毎日用です」
言ったあと。
森野。
停止。
耳。
真っ赤。
相沢。
「それ」
「……」
「答え?」
森野。
しばらく。
黙る。
そして。
小さく。
「はい」
耳。
動かない。
「一緒に住みます」
相沢。
「本当に?」
「はい」
「研究のため?」
森野。
「違います」
「長寿実験?」
「違います」
「じゃあ?」
森野。
相沢を見る。
「一緒にいたいからです」
耳。
動かない。
相沢。
「俺も」
森野。
「ただし」
「はい」
「条件があります」
相沢。
「何個?」
森野。
スマートフォン。
メモ。
開く。
「現在二十三項目」
相沢。
「多い!」
第一。
家事分担。
第二。
生活費。
第三。
冷蔵庫。
第四。
洗濯。
第五。
風呂。
第六。
睡眠。
第七。
来客。
第八。
仕事を家に持ち込まない。
第九。
喧嘩しても会社では普通にする。
第十。
勝手に耳を触らない。
相沢。
「そこ重要?」
「最重要です」
第十一。
プリンには名前を書く。
相沢。
「これ必要?」
「必要です」
第十二。
名前がなくても勝手に食べない。
「同じじゃん」
「違います」
第十三。
森野の昔の日記を勝手に読まない。
第十四。
古い写真を勝手に田中へ見せない。
第十五。
神崎が来ても嫉妬しない。
相沢。
「努力します」
森野。
「努力?」
第十六。
水原さんと神崎が来た場合も普通にする。
第十七。
アリアが来ても百年前の話を聞きすぎない。
相沢。
「それは無理かも」
森野。
「相沢さん」
第二十三まで。
相沢。
「最後は?」
森野。
「長生きする」
相沢。
止まる。
「それ」
「はい」
「条件?」
「はい」
「何歳まで?」
森野。
少し考える。
「できるだけ」
「努力します」
「お願いします」
同棲開始。
二週間後。
相沢。
荷物。
段ボール。
六箱。
森野の部屋。
玄関。
森野。
「少ないですね」
「男一人だから」
「私」
「何箱?」
「数えたことありません」
「怖い」
最初の夜。
夕食。
二人。
同じテーブル。
歯磨き。
二人。
洗面所。
テレビ。
二人。
そして。
午後十一時四十分。
寝室。
新しく買った。
クイーンサイズのベッド。
二人。
立っている。
「……」
森野。
「……」
相沢。
「寝る?」
森野。
「寝ます」
「うん」
「普通に」
「普通に」
「睡眠です」
「分かってる」
「それ以上でも以下でも」
「森野さん」
「はい」
「説明すると余計恥ずかしいよ」
森野。
「……」
布団。
入る。
距離。
五十センチ。
一分。
森野。
「相沢さん」
「何?」
「近いです」
「五十センチある」
「近い」
相沢。
十センチ離れる。
「これで?」
「はい」
五分。
森野。
「相沢さん」
「何?」
「遠いです」
相沢。
「どうすればいいんだよ」
森野。
背中を向ける。
「知りません」
相沢。
笑う。
照明。
消す。
しばらく。
静か。
そして。
暗闇。
森野の手が。
相沢の手を探す。
握る。
相沢。
「近くていいの?」
森野。
「寝てください」
「はい」
翌朝。
午前六時四十分。
相沢。
目を覚ます。
森野。
隣。
髪。
完全に乱れている。
耳。
丸見え。
寝顔。
百四十三歳。
どう見ても。
普通の。
眠そうな女性。
相沢が。
小声で言う。
「かわいい」
耳。
ぴく。
相沢。
「起きてる?」
森野。
目を閉じたまま。
「寝てます」
ぴく。
「嘘」
「あと十分」
「会社」
「あと十分」
「遅れるよ」
「エルフは」
「うん」
「朝に弱いんです」
「種族のせいにするな」
こうして。
人間。
三十一歳。
エルフ。
百四十三歳。
年齢差。
百十二歳。
二人の。
長期共同生活が。
始まった。
そして。
同棲開始から。
三日目。
営業企画部。
田中が。
二人を見る。
「もしかして」
森野。
「何ですか」
「一緒に住み始めました?」
森野。
「……」
耳。
ぴく。
相沢。
「何で分かったの?」
田中。
「お弁当」
二人。
机。
同じ弁当箱。
同じおかず。
同じ卵焼き。
森野。
「……」
田中。
「完全に同棲」
森野。
両手で。
耳を隠した。
秘密にできた期間。
三日だった。
コメント
1件
nashirinさん、第47話読みました…! 同棲の話、もうずっとほっこりしっぱなしでした🤍 森野さんの耳が正直すぎて、見てるこっちまで照れる(笑) 「長生きする」って条件が一番刺さりました。百十二年分の未来をちゃんと考えてる感じが切なくて、でも温かくて。 お弁当がバレて三日で終わった秘密期間も可愛すぎます…!