テラーノベル
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・水赤(stxl)
公式通り(歌い手)の世界線ですが、ドッペルゲンガーが出てきます。苦手な方はお気をつけください。
ホラーっぽく見えるシーンが部分的にありますが、全く怖くないです。(ハピエン)
5行下から本編です。
『続いてのニュースです。今日午前2時5分頃、40代男性が自分の分身を目撃したとの情報があり、その男性は……』
まさに今事務所を出ようとしたとき。最近よく聞く単語たちが耳に飛び込んできた。この手のニュースを聞くのは、今週で3回目だ。
「これ、またドッペルゲンガーってやつ?」
いつの間にか隣に来ていたれるも同じことを思ったのか、その言葉を口にした。
分身……ドッペルゲンガー。それは誰か人間と完全に同じ外見を持ち、幽体離脱が一因とされている。
そしてそれは、最近になって度々報道され、一種の社会問題となっている。
自分と同じ容姿をしているだけならまだいい。問題は別のところにある。
「ドッペルゲンガーに会ったら死の前兆ってほんまなんかな?」
そう、問題は今のれるの発言に集約される。
ドッペルゲンガーと出くわしてしまったら、間もなく死が訪れるという言い伝えがある。
れるは前に、自分のドッペルゲンガーに会ってみたいなんて言っていたが、ちむは絶対に遭遇したくない。
興味がないと言えば嘘になるが、それで本当に死に繋がるのなら、話は別だ。
ドッペルゲンガーの話をほぼ冗談と受け取りながら、それについて真剣に考える自分もいた。
思っていたよりも話が長引いて、日が沈みかけた頃になって、帰り道を2人で歩く。
歩いている途中も話は尽きなかった。他愛もない話をしながら、小さい歩幅でゆっくり進む。
そんな風に地道ながらも進んでいたのに、れるが突然ぴたりと足を止めた。
「なに?」
「ちむ……あれ、」
れるの視線の先に僕も目を向ける。それと同時に、そこにいた2人組もこちらに気づいて近づいてきた。
その間、僕はまさか、そんなの本当にありえるのか、と心臓をバクバクさせながら歩みを止めた。
けれど、その予感は的中してしまった。
「……れるとこえくん?」
その2人組のうち、身長の小さいほうが尋ねる。
「まじじゃん」
高いほうが答える。そいつは、僕と目線の高さが完全に一致している。
……いや、一緒なのは視線の高さだけじゃない。
顔も、髪型も、髪色も、服装も。何もかも、今の僕と一致している。頭のてっぺんからつま先まで、すべてが同じ。
そして、そいつの隣にいる人は、言うまでもなく、れるとまったく同じ姿をしている。
これが、噂の……
「ドッペルゲンガー……?」
れるが僕よりも先に小声でつぶやいていた。でも、僕らのドッペルゲンガーにしては、ひとつだけ違うところがあった。
「……なんでお前ら手繋いでんの?」
またしてもれるが先に尋ねた。若干引いている様子だった。僕はその発言に少し胸を痛めながらも、そりゃそうだよな、と無理やり納得していた。
その疑問を受けた2人は、「あー」と含みのある言い方をしながら、つないでいた手を離した。
「ちょっとふざけてただけ。てか、ドッペルゲンガー見て最初の感想それ?」
言いながら笑っている、もう一人の自分。目の前で自分と同じ姿形の人間が喋っているなんて、どうにも不思議だ。
ドッペルゲンガーのこえとれるが楽しそうなのとは対照的に、僕の心は冷えきっていた。
『ドッペルゲンガーを見たら死ぬ』
あの都市伝説を思い出したから。これが本当なら、僕だけじゃなくてれるさんも……。
「もしかして、死ぬかもとか思ってる?」
ひとしきり笑ったあと、ドッペルゲンガーのちむが聞いてきた。
「それなら絶対にさせへんよ」
僕の分身の意思を継ぐように、ドッペルゲンガーのれるがはっきりと答えた。ドッペルゲンガーに生死を操る能力でもあるのか?と疑問に思いながらも、ほっとしている自分がいる。
そんな安心しきっている僕のそばに、偽物の僕がさらに近づいてくる。そして、無遠慮にも僕の手首を掴んで、歩き始めた。
「ちょ、どこ行くの!?」
「家に帰るに決まってるでしょ。じゃあね、れるさん」
もう一人の僕はなんの脈略もなく話を中断して、家に向かって歩き始めた。本物の僕よりもずっと力が強い気がする。
振りほどけそうになくて、しかたなくそれに従った。
結局、その手を解放してもらえたのは、家の中に入ってからだった。まったく掃除していない自宅に他人を入れるのは気が引けたが、そういえば他人じゃないんだっけ、とかどうでもいいことを考えた。
そいつは自分が家主かのように、僕に「ここ座って」などと命令した。不機嫌そうなので大人しく聞き入れて座ると、案の定不機嫌そうに……というより、責め立てるように僕に尋問を始めた。
「お前……れるに言ってないでしょ?」
「……なにを?」
「はぁ? 分かってるんでしょ?」
僕の分身はますます不機嫌そうに眉をひそめた。そして、僕の恐れていた答えを口にした。
「自分の気持ち、だよ」
「………………」
きっと、これ以上とぼけても無駄だ。何しろ、自分のドッペルゲンガーだ。僕の思っていることも好きなものも、すべてがこいつには筒抜けになっている。
「……言わないことの何がだめなの」
半ば鬱憤晴らしのように、今にも消え入りそうな声でつぶやいた。その声色に気づいたのか、目の前のちむは声をやわらげて、さっきよりも穏便な口調になった。
「さっき手繋いでたし気づいてると思うけど、俺はれるの分身と付き合ってるよ」
「……それが何」
「言わなかったら後悔するよ、ってこと」
ちむの気持ちをすべて分かってるとでも言いたげなその発言が癪に触った。
ドッペルゲンガーだからちむの思考を丸ごと理解してるのかと思ったが、案外そうでもないらしい。
僕がれるに好きと伝えない理由。ちょっと考えれば分かりそうなものだが、こいつには道徳心が足りないらしい。
「……それって、れるが優しいから無理に付き合ってくれてるだけじゃないの」
憂さ晴らしみたいな言い方になっちゃったけど、こいつにはそれくらい言わないと、多分理解してくれない。僕が強めに言い返すと、向こうも強気になって反論した。
「告白しないのはれるを思ってのことだ、みたいな言い方するけどさ、本当は振られるのが怖いだけなんじゃないの」
「……」
それには言い返す言葉がなかった。実際、ほとんど当たっていたから。
自分の分身に目を合わせることすらできなくなって、足もとに視線を落とす。
黙りこくった僕のすぐ横に、偽物の僕は歩み寄ってきた。そのまま通り過ぎるのかと思えば、静かに……でも、はっきりとこう言った。
「本物のれるも、俺がもらっちゃうよ」
横を振り返ったときには、そいつはもう姿を消していた。
『俺がもらっちゃうよ』
そんなことを言われて、早1ヶ月。脅しにも似た催促をされてもなお、気持ちを伝える勇気は少しも出なかった。中身は多少違えど、僕と同じ見た目をしている奴に奪われることはないだろう、という慢心もあった。
あいつは全然僕に似てなんかいないし、僕の考えていることも分かってない。
あんなのをドッペルゲンガーなんて思いたくないなぁと一人たそがれていると、勢いよくドアが開かれた。
そこには、1ヶ月ぶりに見るあいつの姿があった。
「……なんでまたいるの」
「一応自分なのに、それはひどくない?」
そしてやっぱり1ヶ月前と同じように、自分が家主かのようにちむの部屋に座った。それにはもう口を噤むことにした。
しかし、当の本人……ちむのドッペルゲンガーは次の瞬間、とんでもないことを口にした。
「全然告白する気配なかったから、俺代わりに今日言っちゃったよ」
「はぁ……!? それって……、」
「好き、って」
「…………一応聞くけど、誰に……?」
「本物のれるだよ」
やってやったとばかりに笑う、偽物の僕。その憎たらしい笑顔を見た僕は、頭が真っ白になって、何にも言えなくなった。
「安心して。ちゃんと本物のちむのフリして言ったから」
「う、そだよね……?」
目の前で笑う自分が悪魔のようにしか見えない。むしろ、本物じゃなくて偽物が冗談として言ってくれたほうがずっとマシだった。
「本当だよ。それに、俺言ったよね? 早くしないととっちゃうよって」
自分の分身が饒舌に喋っている間も、僕自身の頭はキャパオーバーを迎えていた。全身を冷や汗が滝のようにつたう。
…………僕が、れるさんに好きって言った。
実際には僕が言ったわけではないけれど、実質そういうことになる。
「なんで…………」
「なに?」
「なんでそんなことするの……っ、」
気づいたらもう一人の自分の両肩を掴んでいた。頭をそいつの首もとに押し付けて、半ばやつあたりのように文句を並べる。
僕の怒っている様子を見ても、そいつはずっとヘラヘラしていた。自分のしたことを一切反省するつもりはなさそうだ。
それどころか、こんなことまで言い出した。
「まだ返事も知らないのに、俺を恨むのは早いんじゃない?」
「……何て言われたの?」
ふと顔を上げる。何一つとして表情を変えない、自分の分身。同じ人間のはずなのに、こいつの考えていることなんてまるで分からない。
「ないしょ」
目を細めて、「知りたいなら自分で聞けば」と付け足した。
その答えを聞いた瞬間、気づけば自分は家を飛び出していた。
向かう先なんて、たったひとつ。柄にもなく、走ってそこを目指す。
もうあいつが言っちゃったからには、結果は変えられない。どんなひどい断られ方をされようがどうでもよかった。とにかく、あいつの返事を聞きたくてしかたがなかった。
インターフォンを鳴らすと、すぐに解除された。着きたくなかったけれど、早く聞きたい。矛盾するこの気持ちこそが、自分の片想いの証左だった。
僕を部屋に通すれるさんも、心なしか元気がないように見える。やっぱり嫌だったのかな、ともう一人の自分がしたことながら嫌気が差す。
「あのさ、さっきの……」
勢いで来たせいで、言い訳を何も考えていなかった。何から説明しようかあたふたしていると、れるが先に口を開いた。
「……分かってるよ」
「え?」
「さっきの、ちむのドッペルゲンガーやろ?」
思わず目を見開いた。見た目はまったく一緒なのに、なんで分かるの?
「分かるよ、それくらい。それに、ちむがれるのこと好きとか、そんなわけないし」
眉を下げて笑うれる。その様子を見て、安堵から急に全身の力が抜けた。それは嬉しくも寂しくもあった。
姿が一緒でも、本物の僕と偽物の僕を見分けてくれたこと。それは純粋に嬉しい以外の何でもない。
でも、『好きとか、そんなわけない』……その一言は深く僕の心を抉った。今までの僕の気持ちを全否定されたみたいで、本当にその気持ちを抱いていることが申し訳なくて。
自分の好きがバレないこと、それが自分の望んだことじゃん。それなのに傷ついている自分がいることに気付かずにはいられなかった。
「…………わかんないじゃん」
「え?」
「もしかしたら、好きかもしんないじゃん……!」
今までずっと封じ込めてきた気持ちが、こんなにも簡単に決壊する。一度口にしたら、その続きは自分でも驚くほど自然に出てきた。
「ずっと…………すきだったよ」
意外にもあっけなく言い終えてしまった。れるの顔、全然見れない。見たくない。
居ても立ってもいられなくて、話を変えようとする。
「……やっぱりれるさんは、ちむのことなんもわかってない」
「……それは逆」
「え?」
「ちむもれるのことなんも知らんやん」
「はぁ?」
それをお前には言われたくねーよ、いつものノリで言おうとした。言う直前で、それはれるによって阻止された。
「れるもちむのこと好きって、知ってた?」
「…………っ、は? からかってんの?」
「なわけ」
信じられない。心拍数がまだ速い。それどころか、どんどん上がってる気すらする。
どんなに聞き返しても信じられなくて、何度も同じようなやり取りをする。
「……本当に言ってんの?」
「そうやって言ってるやん」
さっきまでの真剣な顔とは打って変わって、楽しそうに笑うれるさん。それにつられて、僕も思わず笑ってしまった。
好きとか、絶対に言うはずないと思ってたのに。
それどころか、れるも同じように思ってくれてたなんて。
『言わないと後悔するよ』
ふと自分のドッペルゲンガーの発言が頭に浮かんだ。
あのときは偉そうに聞こえて腹立たしかったけれど、今は感謝の気持ちでいっぱい。あいつのおかげで言えたようなものだから。
「……ありがとう」
「何が?」
「れるには言ってない」
「……じゃあ誰に言うとんの?」
「ないしょ」
「ドッペルゲンガーに会ったら死ぬとかさ、俺らからしたらいい迷惑だよね」
ソファに頭を預けながら、横に座っているれる……正確には、れるのドッペルゲンガーにそう語りかける。
「まじでそうよな、れるたちのおかげであの2人くっついたみたいなもんなのに」
「れるさんは何もしてなくない?」
「はー?」
「うわっ、ちょっと!」
横に座ってたれるさんがくすぐってくる。実際、れるさんは何もしてないっていうのに。
やっとくすぐりから解放されて、はーっと息をついていると、れるさんは「まぁでも」と座り直してから話す。
「確かに、ある意味ではちむは死んでるかもな」
「なんで?」
「本物のれるに、愛されすぎて溺死するんやない」
「……なら、」
ソファに座るれるの上にまたがって、れるの背中に手を回す。
「……おまえも、俺のことそれくらい愛して」
それを聞いたれるはぱちりと瞬きをしたあと、「もちろん」と俺を抱きしめ返した。
顔をれるの肩に埋めると、れるはくすりと笑った。
「どしたの?」
「いや、ドッペルゲンガーって言っても……やっぱり似てへんな、って」
「どこが?」
聞き返しても、れるは答えなかった。これ以上聞くのは不毛だと思って問いつめなかった。
「でも、ドッペルゲンガーになってもれるのこと好きなのは変わらないんやね」
「……それはお前もやろ」
「たしかに」
こんなくだらない話で笑い合うところも、本物のこえとれるにそっくりかもね。
似ているようで似てなくて、でもやっぱり似てる、もう一人の自分と、その恋人へ。
いつまでも俺らみたいに……いやそれ以上に、幸せでいてね。
コメント
1件
初コメ失礼しますっ! もうほんっっっとにシチュが好きすぎます( ◜ཫ◝) ドッペルゲンガーたちも本物もどっちもいちゃいちゃしてるの尊いぃぃぃ、、、 毎回神作ありがとうございますッッッッ!!!!!!!