戦争賛美や政治的意図など無し。
登場人物 憲兵,輜重兵
キャラとして見てください。
カプ表現多分無し。
自己防衛よろしくお願いします
駄菓子屋の軒先。
西の空が橙に溶け、地面を淡く照らしていた。
小さなのれんが風に揺れ、擦れるたびに、
ガラス瓶のラムネが小さくカランと鳴る。
ソースせんべいの甘じょっぱい匂いが、
夕風に混じって漂っていた。
憲兵は、煙草の自販機の前でポケットを探っていた。
内ポケット、上着の裏、ズボンの後ろ。
指先が空をなぞるばかりで、
欲しい “ あの感触 ” に、どうしても触れない。
── 財布を、置いてきた。
舌の裏で短く息を吐き、小さく舌打ちする。
どうやら今日の一服は、お預けらしい。
煙草の銘柄を選ぶ楽しみも、
火をつけた瞬間の安堵も、
全部、今この瞬間に逃げていく。
その時。
隣のベンチから「コリッ」と乾いた音がした。
何気なく振り向くと、
輜重兵が背もたれに体を預け、
空を見上げながら何かを口に転がしていた。
唇の端から、白くて細い棒がちらりと覗く。
それは煙草の先のようにも見えた。
憲兵「……一本くれ。」
輜重兵が目を瞬かせた。
輜重兵「え ?? 」
憲兵「煙草だ。一本、くれ。」
一拍の間。
輜重兵は少し考え、それから肩をすくめて笑った。
輜重兵「あー …… すんません、それ ── キャンディですよー 。 」
憲兵「 …… は ?? 」
輜重兵「棒付きのやつ。いちご味子どもがよく買ってくやつ。」
そう言って、ポケットからもう一本取り出す。
白い棒の先には、小さな丸い飴玉。
夕陽を受けて、かすかに光っている。
輜重兵「ほら、一本どーぞ。」
憲兵は無言でそれを受け取った。
何とも言えない間が、二人の間を滑っていく。
包装紙を剥がし、ため息とともに棒を口にくわえる。
……甘い。
煙草の代わりにはならない。
けれど舌の上に広がるやけに素朴な味が、
何故か、少しだけ落ち着く。
憲兵「 …… これはこれで、悪くないな。」
輜重兵 「でしょー、?? 」
輜重兵が嬉しそうに笑う。
輜重兵「煙草の代わりってわけじゃないけど、ちょっと疲れた時に食べると、元気出るんですよ。」
憲兵は黙って空を見上げた。
沈みゆく陽が、街の輪郭を金色に染めていく。
風が通り、のれんがまた揺れた。
憲兵「お前、よくここで買い食いしてるな。」
輜重兵「へへ、安いからねー。十円で幸せ買えるなら、悪くないじゃないですかぁ。」
憲兵は鼻で笑う。
憲兵「安上がりだな。」
輜重兵「そういう憲兵さんは、いつも高い煙草吸ってるじゃないですか。一本で何十円もするやつ。」
憲兵「嗜好品だ。生きるのに要る。」
輜重兵「甘いのも嗜好品ですよー。」
輜重兵が棒をくるりと回し、
口の中で音を立てる。
輜重兵「……ま、煙の代わりにはならないですけどね。」
憲兵は目を細め、
口の端に棒を挟んだまま、遠くを見た。
日が落ちかけている。
金から橙、そして紫へと、空の色がゆっくり変わっていく。
子どもたちの笑い声が遠ざかり、
商店街の通りに影が伸びていく。
しばらくの間、二人とも黙っていた。
輜重兵が、ぽつりと口を開く。
輜重兵「憲兵さん、煙草好きですよねー。」
憲兵「嗚呼。」
輜重兵「やめようとは思わないんですか。」
憲兵「やめる理由がない。」
短い言葉。
けれどその声音には、どこか疲れのような柔らかさが滲んでいた。
輜重兵「……でも、今日みたいに財布忘れたら、どうするんすか。」
憲兵「……こうして、菓子をくわえる。」
輜重兵「ははっ、素直ですねー。」
輜重兵が笑うと、
憲兵の口元にも、わずかに笑みが浮かぶ。
棒の先のキャンディが、ようやく小さくなりはじめている。
憲兵「……お前の言う通りだ。たまには甘いのも、悪くない。」
輜重兵「でしょ ?? 」
憲兵「……ただし、口が落ち着かん。」
輜重兵「じゃあ次はソーダ味にしましょう。煙より爽やかですよ。」
ふっと、風が二人の間を通り抜けた。
のれんが揺れ、空気が少し冷たくなる。
遠くで、最後のチャイムが鳴っている。
夕暮れの音の中で、
憲兵は舌の上のキャンディを転がしながら、
ほんの少しだけ、煙草のことを忘れていた。
コメント
2件
え!! 好きです!!神ですか??? 応援してます!!!
あのこう、、、なだらかな雰囲気大好きでして。 直接心を震わす文言はないのに内側から確かに伝わる一人一人の気持ちとかが染み込んできます!