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   ***

「へぇ~、すごいじゃん、カケルくん。ヒーローみたい!」

 茜さんは心底感心するように口にして、けれど小さくため息を吐きながら、

「でもさぁ、なんでそれを隠す必要があるわけ? 人助けしたんだから、堂々としてればいいのに! もしかしたら、警察から感謝状と金一封とか貰えたかもしれないのに……」

 僕はそんな茜さんに眉を寄せつつ、

「目立つのは嫌なんだよ。僕は日々淡々と過ごしたいだけ」

 答えると、茜さんは唇を尖らせながら、

「勿体ないなぁ。欲がないよねぇ、カケルくんってば」

「良いでしょ、別に」

 僕は肩を竦めて答えたのだった。

 夜八時半。

 食事が終わり、真帆ねぇがお風呂に入っている間に、僕と茜さんはふたり、リビングでテレビを観ながら夕方のことを話していた。

 二週間前に遥さんという会社員の女性を助けたことを、僕は茜さんには話していなかった。

 話せば、それはそれで面倒臭そうだと思ったからだ。

 実際、今こうして茜さんに絡まれて内心めちゃくちゃ面倒臭い。

 本当はこのまま黙っておきたかったのだけれど、真帆ねぇや遥さんと一緒に戻ってきたことに対して茜さんが、

「あのお客さんはなに? どんな依頼だったわけ?」

 と質問してきたのを、僕が馬鹿正直にその経緯を話してしまったのが間違いだったのだ。

 或いは僕の深層心理の中で、誰かに話したいという欲求があったのか。

「それで、なにかお礼の品とか貰ったの?」

「いや、何もないよ。ただお礼を言われただけ」

「な~んだ、お菓子くらい貰ったのかと思って期待したのに!」

「残念だったね、茜さん」

「カケルくんもちょっと残念だったりしたんじゃないの? 本当はお礼に何か期待してたんでしょ?」

 おらおら、とほっぺたを突っついてくるその指を払い除けながら、

「そんなわけないでしょ? そもそも、僕は面倒ごとには関わりたくないんだから」

「お礼を貰うのは面倒ごとじゃないでしょうよ」

「面倒だよ。変に気を使わないといけないし」

「なにそれ、思春期の男心? 斜に構えてる感じ?」

「違うってば。あぁ、でも、その代わりに真帆ねぇが仕事してたけど」

「仕事? どゆこと? そもそも、命の恩人であるカケルくんを探すことが依頼じゃなかったっけ?」

「それはそうなんだけど、それとは別に、周囲の音量を変えられる魔法具を買っていったんだ、遥さん」

「周囲の音量を変える魔法具? そういえば、倉庫の隅にあったような……? でも、なんでそんなものを?」

「遥さん、周りの色んな音を耳が全部拾っちゃって、四六時中騒音に悩まされているみたいな特性が産まれた時からあるんだって。それを解決するために、真帆ねぇが改めて仕事してた」

「ふぅん? んじゃまぁ、結果的にカケルくんがお客さんを引っ張ってきたわけか」

 その言い方に、僕は何となく引っかかってしまう。

「……その言い方、良くないと思うよ。遥さんはあくまで僕にお礼を言いたくてお店に来ただけだし、そもそも僕が遥さんを助けたのだって、見返りを求めてやったことじゃなくて、咄嗟のことだったんだから」

 そう。実際、咄嗟のことだった。目の前に立っていたおじさんが、黄色い線の手前に立っていた遥さんを突然突き飛ばして駆け出したのだ。僕はそんなおじさんを横目で見ながら、とにかく遥さんを助けなければと思って、彼女の腕を強く握って手前に引っ張っていたのだ。

 遥さんは尻もちをついて辺りを見回したあと突然泣き出すし、おじさんは他の大人や駅員さんに取り押さえられて大騒ぎになるし――あの瞬間、あの場はもうめちゃくちゃだったのだ。

 あぁ、これはこのあと警察が来て色々面倒なことになるパターンだ。この女性も助けられたことだし、とりあえず早く学校に行ってしまいたい。面倒なことから逃げ出したい。

 そう考えた僕が結局とった行動が、あとのことは大人たちに任せてその場を立ち去ること、だったのである。

 遥さんを助けたのはあくまで咄嗟のこと。彼女の命を守るため。見返りなんて、心底どうでも良かったのだ。

 それなのに、それをあんなふうに茜さんに言われてしまっては、何だか妙に腹立たしい。

 そんな僕の様子に、茜さんは少し焦ったように両手を振って、

「あ、なんかごめん。そんなつもりで言ったわけじゃないんだけど……」

 と、そこへ、

「なんですか~? 喧嘩ですか~?」

 真帆ねぇが濡れた髪をタオルで乾かしながら、リビングに入ってくる。

「そう、喧嘩だよ」

 僕が答えると、茜さんは「えっ、えぇっ!」と目を見開いて、

「ち、違うからね! 真帆さん! 喧嘩じゃないの! 私が悪いの!」

「あらあら、そうなんですか? それじゃぁ、茜ちゃんにはカケルくんにお詫びをしてもらわないといけませんねぇ」

「あ、そうだね!」

 真帆ねぇの言葉に、僕は面白くなってニヤリと笑う。

「真帆ねぇ、どうしようか」

「え? 真帆さんに訊くの? それは辞めて!」

「そうですねぇ…… あ、私、アイスが食べたいです。カケルくんは?」

「あ、僕も食べたい」

「えっ? ええっ!」

 茜さんは僕と真帆ねぇを交互に見やって、

「――もう! ふたりがかりでからかってくるなんてズルい! いいよ! 買って来ますよ!」

「わ~い、ありがとうございます、茜ちゃん! 私、あずきバーが良いです」

「じゃぁ、僕はガリガリ君で」

「あぁ、はいはい! じゃぁ、いってきます!」

「いってらっしゃ~い、気を付けてくださいね!」

「よろしく~!」

 どかどかとリビングを出ていく茜さんの後ろ姿を見送りながら、僕と真帆ねぇは、くすくすと笑いあったのだった。

 ……魔力磁石・了

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