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「劉宮の髪って綺麗な髪だな」
自然とそんな言葉が零れ落ちてしまった。
授業中、肩よりも下で揺れている黒くて長い髪。
授業に夢中になって、指先で弄る毛先まで綺麗でおまけに甘く香る。
授業どころじゃないほど魅了されてついそんな言葉が出てしまった。
「あ……ありがとう」
驚いた劉宮さんは、目をぱちぱちさせて呆然としていたが、お礼を言うとさっさと前を向いてしまった。
それまで会話もしなかった俺に急に髪を褒められて、気味が悪かったかな。申し訳ないな。
もう少し仲良くなってから髪を触らせてもらえばよかったのかな。
不安になったが、艶やかな髪から覗く真っ赤な耳を見て俺の考えは杞憂だと悟る。
人見知りか、はたまた警戒してなのか、さっさと会話は終わったが一応悪い反応ではないらしい。それだけでほっとした。
それからしばらくして、劉宮の髪は今まで以上にサラサラで風になびくたびに嫌味じゃない高級な甘い香りを放っていた。
女性は、あの極上の髪のためにどれぐらい手入れするのだろうか。どれぐらい手入れしたらあの髪になるのだろう。
でもいつしか――。俺はその髪に触れてみたいという願望から、髪を褒めた時の劉宮の反応を見たくなった。
「ありがとう」ってそっけない言葉と正反対で真っ赤な顔で仏頂面になってしまう。
そんな不器用な彼女がなぜか愛しくて、胸が焦がれていた。
朝、部室の掃除と換気当番ではやめに登校した日。
窓を開けたら、部室の裏で同じクラスの女子数人を見かけ、目を凝らすとその中心に、クラス委員の美里さんがいた。
「……は? やれっていってるんじゃなくてお願いしてるんだけど」
「できるわけない、でしょ」
クラス対抗の合唱コンクールが始まったが、放課後の練習に部活生が全く出てくれないと、麻琴も疲労していたが彼女も青ざめて疲れ切った顔をしていた。
その表情は、連日のクラス委員の仕事のせいではなく現在集団で囲まれ脅されていることだとすぐに分かった。
「なに勘違いしてんの? あんたみたいなブス、どうみても引き立て役じゃない」
「みじめよねえ」
「お願いを聞いてくれたら、合唱コンクールも学際も協力してあげるってば。おねがい」
「――逆を言えば、私らに逆らったら、学際も合唱コンクールも散々よ。内申点、やばくなるんじゃない?」
下品な笑い声に乱暴に窓を開けて、笑顔で話しかけてみた。
「おはよう。朝から皆、元気だね」
蜘蛛が散っていくかのように、美里さんの周りの女子生徒が消えていく。
彼女は噛んだガムの包み紙を持って震えているので、覗き込んでみた。
「どうしたの?」
「……なんでもないよ。大丈夫」
彼女も人に頼るのが苦手そうな子で、俺が話しかけると先ほどの女子たちと同じように逃げていった。
「……」
いじめ、というほど酷いものではないのか。これぐらいで大げさにしてみたら彼女たちの迷惑にかけるのかな。
それとも、今止めないと悪化してしまうのかな。
俺はつい思ったことを口にしてしまうし、この前俺が女子を注意したのを真琴はだめだと言っていた。
なので、あいつにもう一度、相談してから行動しようと思っていたんだ。
「ああ、女って自分より目立ったり、綺麗な存在にコンプレックスあるんじゃないかな。集団で足並みそろっていないと、悪目立ちするみたいな」
「ふうん」
「劉宮さんは、祖父が大きな歯科医院を経営しているし、育ちが少し一般人と違って浮いてるんだよね」
「そうか……?」
怪訝そうな顔で聞いてしまったようで、真琴も同じようにしかめっ面になった。
「お前と同じだよ。劉宮さんは悪気なく、数万するようなシャンプーを口に出したり、ブランド品で身を包んだり、自慢するつもりがない自然体なのが鼻につくんじゃない」
「だからいじめるっていうのは、愚かで頭がおかしい行動だと思うのだが」
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砂原 紗藍
#再会