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#エリオット
あおあお
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FORSAKEN本部食堂。
重厚なシャンデリアの灯りの下、
スペクターは優雅に紅茶を口へ運んでいた。
赤いシルクハット。
赤いスーツ。
完璧に磨かれた革靴。
その隣には、
1eggs渾身の前菜。
魔界怪鳥のレバパテ。
黒曜石の皿へ芸術的に盛り付けられている。
静寂。
数秒後。
スペクターは淡々と呟いた。
「……悪くないね」
恐ろしく平坦な声だった。
「これなら人間どもの味覚も、
容易く支配できる」
「――――ッ!!」
1eggsの金色の瞳が輝く。
「……ありがたき幸せ……!!」
深く頭を下げる。
いつもの狂犬じみた料理人の姿はどこにもない。
完全に“褒められた職人”の顔だった。
ホスフォラスが遠くで笑う。
「うわ、
今めちゃくちゃ嬉しそうだった」
「珍しいですね」
アズールも頷いた。
「普段はフライパンで殴ることしか考えてないのに」
「聞こえてんぞ」
穏やかな空気。
だが。
次の瞬間。
食堂の扉が開き、 一人の古代吸血鬼が姿を現した。
「……なるほど」
ノスフェラトゥだった。
真紅の瞳は細められ、
蝙蝠耳はぴくりと震えている。
「スペクター様の口から、
“悪くない”などという言葉を直接頂くとは」
マントを整えながら、
ゆっくりと食堂へ歩み入る。
「実に……羨ましい」
その声音は落ち着いていたが、
底に熱がある。
「ここ一年、
私が頂いている言葉は
“邪魔だよ”
“出ていきなさい”
“近い”
の三つばかりだ」
「ぜんぶ普通に苦情だろ」
ホスフォラスが笑う。
ノスフェラトゥは小さく息を吐いた。
「それなのに、
新人の料理人にはあっさり褒め言葉を与えるのか」
1eggsを赤い目で睨みつける。
「うわ、嫉妬してる」
ホスフォラスの笑いが引きつった。
1eggsが身構える。
覇王の魔圧。
空気が震える。
普通の魔物なら失神レベル。
しかし。
その前へ。
ぽす。
白い影が立った。
「そこまでにしてもらおうか、
ノスフェラトゥ様」
ジョン・ドウだった。
満面の笑顔。
赤いスカーフ。
そして。
右腕の大型ミキサーが、
ゆっくり回転を始める。
ブォン。
ブォォン。
ブォォォォォォン!!!!
爆音。
食堂の床が揺れた。
暴風が吹き荒れる。
ノスフェラトゥのマントがバサバサ暴れる。
「……邪魔をするな」
牙を剥くノスフェラトゥ。
「その骨野郎を少し脅かしたいだけだ。
私の気が済まん」
「嫌だよ」
ジョン・ドウは笑顔のまま首を傾げる。
でも。
その目だけは。
ぞわりと昏かった。
発酵した小麦の甘い香りが、
じわりと空気を支配する。
柔らかいはずの熱量が、
食堂全体を圧迫した。
「スペクター様に褒められた1eggsは、
僕にとっても誇らしいんだ」
「…………」
「でもね」
ブォォォォン。
ミキサーの回転が上がる。
ジョン・ドウは、
ノスフェラトゥをまっすぐ見つめた。
「たとえ最高幹部のノスフェラトゥ様でも」
笑顔。
ずっと笑顔。
なのに怖い。
「僕の1eggsに、
指一本触ってほしくないな」
「――――ッ」
1eggsの顔が爆発した。
真っ赤。
耳まで真っ赤。
(ぼ、僕の……!?)
脳が停止する。
ジョン・ドウは続ける。
「これ以上近づくなら」
ブォォォォォォン!!!!
暴風。
皿が揺れる。
「その格好いい赤い仮面ごと、
ミキサーでドロドロに攪拌しちゃうよ?」
にこ。
満面の笑顔。
内容だけが殺意満点だった。
「……脅し方が穏やかじゃないな」
ノスフェラトゥが目を細める。
ホスフォラスは床を転げ回った。
「アハハハハハ!!
“僕の1eggs”出たァァァ!!」
「もう駄目ですこの厨房」
アズールが遠い目をする。
その時。
カチ。
小さな音。
スペクターが煙草へ火をつけた。
赤い瞳は一切揺れない。
「ノスフェラトゥ」
静かな声。
それだけで。
覇王の動きが止まる。
「うるさいよ」
真顔。
「――ッ!!」
「お前の声で紅茶が揺れる」
ノスフェラトゥの顔がわずかに赤くなる。
スペクターは煙を吐いた。
「一ヶ月出禁と言ったはずだ」
淡々。
本当に淡々。
「今日からさらに二ヶ月延長する」
「……っ」
「出ていきなさい」
完全終了だった。
ノスフェラトゥは数秒固まり。
次の瞬間。
「……承知しました」
低く呟いた。
「追加のお預け……
完全無視二ヶ月追加……ッ」
床を転がる。
「なんという冷酷… なんという無慈悲!
ありがとうございますスペクター様……!!」
「帰りなさい」
「はいッ」
満面の笑顔のまま退場。
完全に満足していた。
静寂。
数秒後。
ジョン・ドウがミキサーを止める。
ブォン……。
「……ふう」
笑顔。
でもちょっと照れてる。
ほんのり顔が桃色だった。
ジョン・ドウは振り返る。
真っ赤なまま固まる1eggsを見る。
「大丈夫だった?」
「…………」
「怖かったなら、
僕が抱きしめててあげるけど」
「だ、誰が怖いか!!」
1eggsが叫ぶ。
「離れろ生地野郎!!」
どんっ。
ジョン・ドウの胸を押し返す。
しかし。
触れた瞬間。
「あっつ……!?」
ジョン・ドウの身体が、
びっくりするほど熱かった。
さっきまでの独占欲の余熱。
発酵した生地みたいに、
ふわふわ熱を持っている。
ジョン・ドウは嬉しそうに笑う。
「1eggsの手、
冷たくて気持ちいい」
「~~~~ッ!!」
再爆発。
ホスフォラスが転げる。
「今日何回爆発してるの1eggs!?」
アズールは報告書へ追記した。
『新人料理人、情緒不安定』
その奥で。
スペクターは静かに紅茶を飲む。
「……賑やかでいいね」
「胃薬の予算を増やしてください」
アズールの切実な願いだった。