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――三ヶ月後。
永夢は廊下を歩く。
足取りは安定している。
階段を降りても、もう揺れない。
長かったリハビリ。
立ち上がるだけで精一杯だった日々。
一段の階段が遠かった時間。
今は、何も考えずに歩ける。
それだけで、胸の奥があたたかくなる。
三ヶ月前とは、まるで違う。
完全に回復している。
白衣の襟を整える。
CRの扉が開く。
らせん階段を登る。
きりやが声をかける。
「おおー、永夢。今日で研修医おわりかー?」
永夢は少し笑いながらうなずく。
「はい……長かったようで、短かったです。この研修期間、ほんとに色んなことがありました」
飛彩が腕を組んだまま、冗談めかして言う。
「お前が来てから尚更、本当に大変だった」
きりやが手を腰に当て、軽く身を乗り出す。
「で、専門は決めたのか?」
永夢は真っ直ぐ答える。
「小児科医になります」
飛彩が視線を鋭くして念押しする。
「小児科も甘くない。全部を診る覚悟がいるぞ」
永夢はまっすぐうなずく。
「はい!頑張ります!」
その返事に迷いはない。
――数週間後。
小児科外来。
朝の光がやわらかく差し込む診察室。
永夢はカルテに目を通している。
白衣の袖を整え、深く息を吸う。
「次の患者さん、どうぞ」
小さな男の子が、母親の後ろに隠れながら入ってくる。
不安そうな目。
震える指。
永夢はしゃがみ込む。
視線を合わせる。
「こんにちは。ちょっとだけ、お話ししようか」
声はやわらかい。
診察は丁寧で、無駄がない。
聴診器を当てる手は安定している。
迷いも、震えもない。
でも、子どもが少し涙をため、うつむきそうになる。
永夢はやさしく声をかける。
「ねえ、ゲーム好き?」
子どもは小さくうなずく。
「うん……好き」
永夢は微笑む。
「じゃあさ、今からマイティになってみよう!体の痛いのも、ちょっとだけ強くなるんだ」
子どもの目がぱっと輝く。
「うん!僕、なりたい!」
永夢もにっこり笑う。
「よし、じゃああともう少し頑張ってみよっか!」
二人で少し体を動かしてみる。
診察室に自然な笑いが広がる。
母親も思わず微笑む。
診察室の空気が和む。
永夢は母親に丁寧に説明をしている。
真剣な目。
まっすぐな声。
子どもたちの未来を守る、小児科医。
診察が終わり、
永夢は一人、椅子に腰を下ろす。
ふっと息をつく。
窓の外、青空。
ゆっくり立ち上がる。
足は、しっかり地面を踏みしめている。
廊下へ出る。
――CR
キリヤが腕を組みながら言う。
「そういや、今日がエムの小児科医としての初仕事だったな?」
飛彩はモニター越しに視線を送る。
「ああ、そのはずだ」
「ちゃんとやれてるのかねぇ……」
貴利矢は少し心配そうに笑う。
飛彩は肩をすくめる。
「……あいつなら大丈夫だろう。子どもに人気があるのは確かだ」
「……珍しいな、あんたが永夢のこと褒めるなんて」
貴利矢がからかうように言う。
飛彩は軽く息を吐いただけ。
――そのとき。CRのドアが開き、永夢が入ってくる。
「お疲れ様です」
足取りは軽い。表情は真剣だが、どこか満足げ。
貴利矢が手を挙げる。
「おおー、エム!どうだった?」
永夢は少し息を整え、笑みを浮かべる。
「大変ですけど、やりがいがあって楽しいです」
飛彩がモニター越しに目を細める。
貴利矢もにやりと笑う。
「そっかそっか、なら安心だ」
その直後、ピピピ、と緊急通報が鳴る。
空気が一瞬で張り詰める。
永夢が走り出そうとする。
その背に――
飛彩の声。
「小児科医。」
初めての呼び名。
永夢が振り向く。
飛彩は前を見たまま。
「行けるな」
それは確認であり、信頼。
永夢の目が強くなる。
「はい!」
走り出す。
勢いよく一歩――
何もない床で、
盛大にずっこける。
「うわっ!」
静まり返るCR。
永夢は顔を上げて、へらっと笑う。
「……すみません!」
自分で自分に呆れたように、でも楽しそうに。
貴利矢が肩をすくめる。
「はいはい、知ってた」
飛彩は小さく息を吐く。
「まったく……」
でもその口元は、ほんの少しだけ緩んでいる。
永夢は立ち上がる。
白衣を払う。
ガシャットを握る。
もう一度、走り出す。
今度は転ばない。
その背中を、二人は見送る。
「……変わらんな」
「それでいいだろ」
やれやれ、という空気。
でも目は、ちゃんと誇らしい。
CRのドアを抜け、病院の外へ。
柔らかい朝の光が差し込む中、足を止める。
胸に手を当て、目を閉じる。
一呼吸。心の奥に、あの思いを確かめる。
「行こう!パラド!」
胸の奥で声が重なる。
そして、再び駆け出す。
小児科医としても。
仮面ライダーとしても。
宝生永夢は、光の中を走り続ける。
今日も、誰かの笑顔を守っている。