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「そう言えば、アリア。あなたに執事をつけようと思うのよ」
ぱちぱち、と私は二度瞬きをし、女に訊いた。
「執事さんですか?」
「えぇ、そうよ。いつまでもあなたに乳母をつけておくわけにもいかないと思ってね。それと、アリアにお小遣いをあげるようにしておくわね」
にっこりと笑って女は言う。
「どんな執事さんなんですか!?」
まるでわくわくした無邪気な少女を演じるように、私は女に訊いた。
「ちょっと待ちなさい」
そう言いながら、女は手をパンパンと叩く。
「失礼します」
若い男の声が響いて扉が開く。
「初めまして、アリアお嬢様。貴女様の執事をやらせて頂きます、メイリと申します」
にこり、と紫の髪をした男が笑う。
少し闇があるように見えて、だが真に笑っているようにも見える。
「メイリ。勝手に話していいなんて言ってないわ」
笑顔を崩さず女は言う。
それに対してやはり男も笑顔で答えた。
「申し訳ありません」
「じゃあ、私は少し外に出ているから。二人で話してね」
女は私に笑いかけると、そそくさと部屋の外へ出て行った。
沈黙が響く。
その静寂を打ち破るように、私は訊いた。
「貴方、誰よ?」
女に見せるような笑みはなく、誰もを虜にする優しい目線もない。
ただ警戒と、不機嫌が滲み出た言葉だ。
「出て行ってくれない?」
嫌悪、いやそれとも、罪悪感?
まさか自分の戦いに巻き込みたくないとでも、思っているのかしら?この私が?笑わせる。
「嫌です」
にっこりと笑い男はただ簡潔に答える。
「じゃあ死んで」
ポケットから取り出した鋭利な刃物を、私は男の首に突きつける。
それでも男は笑みを浮かべている。
「嫌です」
「貴方、何様のつもり?」
あえて挑発するように私は男を睨め付ける。
すると、男は言った。
「お母様、大好き」
「はぁ?」
「お嬢様が先程言ってらっしゃったお言葉です」
にやりと男は笑う。
「あれほど偽りに満ちた言葉は初めて聞きました」
「だから?何だって言うの?」
「お嬢様にお仕えしたいと思いました」
「へぇ。それは嬉しいお言葉ね?」
そう言いながらも、ぎろりと男を睨めつけ、刃物を首に食い込ませる。
「私の名前はレインです。お嬢様。公女を、裏切ることにしました」
押し付けていた刃物の力が緩む。
「……説明しなさい」
「はい、お嬢様」
そう言って、男は話を語り始めた。
2年前――
私はその時、19歳でした。
当時、私は情報屋をやっていました。この国で一、二を争えるくらいには情報力がありました。
ですが、それでも食い物に困っていた当時の私は、公女に持ちかけられた話に乗りました。
その話というのは、九つの指輪を集め、そしてそれを公女に売ってくれというものでした。
何も知らなかった私は、一つの指輪を見つけ、そしてそれを公女に売りました。
ですがそこで気が付いたのです。
何かがおかしいと。
その指輪がただの石が付いている指輪だったのです。
綺麗でも、高価でも、何でもない。ただの石だった。
それを高額で買い取るなど、おかしな事だと思いませんか?
私はどこか違和感を覚え、疑いました。
ですから私は、公女の後を付け、見てしまいました。
公女が祭壇の前で呟くのを。
これを九つ祭壇に飾れば神を降臨させられる。
そう言ったのを。