テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
#心霊
#地下アイドル
#ブラックコメディー
#探偵
その日の午後、第二の事件が起きた。場所は、敷地の外れにある古い礼拝堂だ。誰も使っていないはずのその場所から、物音が聞こえたと老執事が報告してきた。神代寺はすぐに駆けつけた。
礼拝堂の扉は、内側から施錠されていた。老執事が合鍵で開ける。中は薄暗く、ステンドグラスから差し込む光だけが、異様な光景を照らし出していた。
駆けつけた時、麗子は高い天井の梁から太いロープで『逆さ吊り』にされ、首を折られて絶命していた。彼女の高価な真珠のネックレスは、床に散らばっていた。まるで、無惨な装飾品のように。
床一面には無数の「巨大な犬の足跡」が刻まれていた。足跡は入口から始まり、麗子が吊るされている真下まで続き――そこで途切れていた。跳躍した跡も人間が歩いた痕跡もない。窓もドアもすべて内側から施錠された完全な密室。まるで、巨大な犬が現れて、彼女を吊るし、そして消え去ったかのようだ。
壁には、血でこう書かれていた。
『二匹目』
「畜生……またか」
神代寺は床の足跡を調べた。深さは均一で、明らかに人間の体重を支えている。しかし、足跡は入口から麗子の真下まで一直線に続き、そこで終わっている。戻った形跡はない。
(逆向きの足取りか? いや、それなら足跡の向きが逆になるはずだ。これは……後ろ向きに歩いたのか? 足跡の深さをよく見ると、かかと側が深い。つまり、後ろ向きに歩いた証拠だ)
さらにその日の深夜、第三の事件が起きる。顧問弁護士が地下書庫で巨大な本棚の下敷きとなり即死していた。壁には『三匹目』と書き残されていた。本棚は数百冊の本を収めた重厚なもので、一人で倒せる代物ではない。まるで、何かの力が本棚を押し倒したかのようだ。
神代寺は、生き残った美奈と老執事をホールに集めた。暖炉の火だけが、部屋を照らしている。三人の影が、壁に大きく揺れている。
「すべて、人間の手によるトリックです。種明かしをしましょう」
神代寺は静かに語り始めた。その声は、暖炉のパチパチという音に混じって、冷たく響いた。
「まず、慎吾さんの井戸の怪現象。あれは生石灰の水和反応を利用した化学実験です」
神代寺は摘み取った黒い毛を見せた。
「犯人は前もって井戸の中に大量の乾燥生石灰を投げ込んでおいた。そこへ水を流し込めば、200度近い高熱と激しい水蒸気が発生します。犯人は麻痺させる毒を盛った慎吾さんに、ホールの剥製から削り取った毛と、熱収縮性の高いゼラチン系強力接着剤を塗りたくって井戸に落とした。生石灰の熱と湯気によって接着剤が瞬時に強力に収縮・乾燥し、皮膚と衣服を引っ張り上げたことで、まるで『体内から毛が生え出た』かのような立体的な視覚錯覚を作り出したのです」
老執事が息を呑む。美奈は無表情で聞いている。その瞳は、暖炉の火を反射して、不気味に光っている。
神代寺は続ける。
「礼拝堂の『空中へ消えた足跡』は、人間の心理を利用した逆向きの足取りです。犯人は犬の足型を付けた履物を履き、逆さ吊りの位置から入口に向かって、後ろ向きに歩いて足跡をつけました。つまり、足跡は奥へ向かったのではなく、奥から入口へ向かって足跡を消しながら戻ってきたのです。足跡の深さを見れば、踵側に強く体重がかかっていた。逆さ吊りは梁にロープを通し、屋外から窓の隙間を通して牽引して吊り上げた後、糸を使った古典的なカギ落としで内側から施錠した」
「では……地下書庫の本棚は!?」
「あれは氷の融解による重心破壊です。本棚の前脚の下に、緻密に長さを計算した氷のブロックを噛ませて前傾姿勢で固定しておいた。部屋の暖房を入れて氷が溶けた瞬間、本棚は自重で倒壊する。犯人はその時間にアリバイを作ることができた」
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!