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辺りは静寂に包まれ、音が一つもない。あまりにも不自然だ。
足音を鳴らして歩くと、目の前に目が真っ赤に光る鱗の赤いドラゴンが立っていた。火を吹いてくる。
五人はそれを避けるが、辺り一面にはドラゴン三体。目が一つしかないサイクロプスが四体。頭がヘビになっているゴーゴンが二体。モンスターが明らかに多すぎる。
「これはまずいですね!逃げましょう」
「うわぁぁぁん!囲まれちゃったよ!」
カロリーヌは逃げようとした。逃げ道はない。焦りが込み上げてくる。
アンジェはその状態に絶望し、目から涙をこぼす。大声を出して泣き始めた。母親と逸れて迷子になった時くらいの絶望感だ。
そこへドラゴンの上に乗っている女が姿を現す。それは探していたエミリ姫だ。
無事だったようだが、何かおかしい。瞳に光がなく、ずっと無表情だ。
「エミリ!シプリートだ!覚えている?」
不思議に思いながら、明るい表情で手を振る。
しかし彼女は冷たい眼差しで見てくる。あの時感じた母性が全く感じられない。恐怖が押し寄せて、吐きそうだ。この子は本当にエミリなのか?
「私はエミリではありません。エンジェルです」
「そんなわけない!嘘だと言ってくれ!」
「嘘ではありません。さあ、モンスターたち。彼らを倒しなさい」
エンジェルは雇い主である(シプリートと酷似している)アズキールに命令され、彼らに攻撃を仕掛けることにした。
彼女自身どれくらいの強さなのかこの目で見てみたいし、次の星のカケラの場所を教えるためでもある。
モンスターの一人をその場所まで誘導。倒すために彼らは追いかけるはず。
震え上がったシプリートは深呼吸して冷静さを保ち、ドミニックに自信なさげに話しかける。
「あ、あのさ……ドミニック」
「なんだよ!」
「そ、その……水を鏡にできませんか?」
ゴーゴンは目を見ると石になることで有名だ。だから大きな鏡があれば自分の姿を写し、自分自身の目を見て石になるはずだ。
そう考えた時、水は透き通っておりそれを使えば鏡の代わりになると考えた。晴れた後の水たまりが、鏡のように映るのと同じ原理。
自信なさ気に話しかけたが、彼は納得したのか頷く。まあ、モンスターがたくさんいるので慌てているからだろう。
リーダとして活躍するドミニックだが、彼も責任感がのしかかれば緊張して手が震えてしまう。
「ああ、してみるよ。だが一度しか使えない。体力が限界になりそうだからな」
「ドミニック。大きな鏡にすれば、二人とも石の銅像にできます。光の反射によって、他のモンスターも石になれるかもしれません。石だらけパーティですね」
「石だらけパーティって、相変わらず言い方が独特だな。よし、屈折のことも考えてお前らモンスターを一部に集めてくれ」
失敗は許されないので、緊張から手に汗を握り頭がジンジンと痛い。
ドミニックの指示で赤いドラゴンの焔攻撃やサイクロプスのトゲトゲ棍棒攻撃を避けつつ、まとめることに成功した。
手を前の方に合わせ身体中から水を発動させて、大きな鏡を作れる魔法を発動。水が鏡のように綺麗な透明になり、晴れということもありゴーゴン二体の目に当たって二体ともゴツゴツした石になった。
反射により、近くにいた目が一つあるサイクロプス二体と赤いドラゴン一体が石になってしまった。身動きは全く取れなくなり、攻撃できない。それらはアンジェの風魔法で竜巻を起こし、石を宙に舞わせてバラバラに砕く。
シプリートは彼女が砕けなかったサイクロプス一体を金色の勇者の剣で切り刻むと、バラバラに崩れて元に戻れなくする。
しかし石が硬すぎたせいで、刃がボロボロになる。これはもう使い物にならない。これ以外武器はないのに。
あとドラゴンは二体、サイクロプスは二体になった。
「うっ……体力の限界だ。もうだめだ」
ドミニックはその場で倒れて戦闘不能になった。これではモンスターにやられてしまう。
シプリートは近くにいたアンジェに声をかける。彼女はゼエゼエと息をしているが、彼よりは元気そうだ。
「アンジェ、ドミニックを安全な場所に運んでくれ」
「分かったわ!」
ドミニックを前の方に担いで他の場所に移ろうとしたら、目の前に赤い鱗のドラゴンが現れ口から火を噴いた。攻撃が当たってしまう。
彼はわずかな水のおかげで無事だったが、彼女は手で顔を隠しひどい火傷を負ってしまった。風属性は火属性に弱いため両手が真っ赤に爛れ、火が出るように熱い。これでは魔法が少ししか使えない。
「あぁぁぁぁぁ!!アタシの両手が……」
顔は無事だったが、相当ショックな出来事が起こり泣いてしまう。この手と小さな腕ではこの手ではドミニックを運ぶことができない。
絶望感に陥り、その場から立ち去ってしまう。戦いどころではなくなる。
「カロリーヌとザール、お前らだけが頼りだ!!」
叫び声をあげて問いかけると、ザールが四つん這いで走りサイクロプスに飛びかかった。しかし後ろからもう一体のサイクロプスが来て、棍棒が背後に直撃した。三角形の鉄のトゲが背中に刺さり、赤い血が吹き出る。
このままでは戦える人が減ってしまう。これではマズイ。この世界を救うことも姫を助けることもできない。そんなこと、絶対に嫌だ。もっと力が強ければ、皆を救えたのに。
無気力感が湧いてきて、震える手で拳を握りしめた。もうおしまいだ。
「まだだ。おいらは戦えるっす!」
なんとか立ち上がり、サイクロプスの腕に噛みついて食べた。「グァァァァァァ!」と悲鳴をあげる。
棍棒が抜け落ちそれをザールが握りしめて、脇腹を攻撃。その後背後のサイクロプスの腕を攻撃して棍棒を落とし、棍棒が二つに増える。
これらを使ってサイクロプスに何度も攻撃を喰らわせ、二体倒れたところを狙い頭を叩きのめす。すると二体のサイクロプスは目を白目にして、倒れてしまった。これで赤いドラゴンを二体倒すだけになった。
とはいえザールも出血があり、顔が青ざめている。そんなことも気にせず目の前に落ちていたサイクロプスの脚を噛み砕き、エネルギーをチャージ。ゴムみたいな味がして美味しくないものの、こうしなければ力が湧いてこない。
美食家としては、なんでも食べるのが常識なのだ。
「おりゃぁぁぁ!!」
彼は棍棒を二つ握りしめて全速力で走り、ドラゴンの後ろにきて攻撃する。だが鱗が硬くてびくともしない。長くてトゲが生えている尻尾で、叩きつけられた。彼は建物に激突し、建物が崩れて埋れてしまう。うう……もうだめだ。
「ザール!!」
その場所から血が流れ、気を失う。この荒々しい大きな声は聞こえていないだろう。
もう戦えるのは、カロリーヌと棍棒を持っているシプリートだけ。だが彼女は恐怖のあまり身体が動かない。彼自身が戦わなければ。