「……思った以上に弱いのね。興醒めしたわ。もういい」
翼を何回もはためかせめ、空を飛んでいるドラゴンの上に乗るエンジェル。退屈そうに、あくびをしていた。彼女にとって、退屈この上ない。
首輪を外して、木の能力を発動。するとドラゴンに木がたくさん刺さり、一瞬で死んでしまう。ドラゴンは炎を爆散し、バラバラに砕け散った。
シプリートとカロリーヌは腕で顔を覆い、なんとか熱々の蒸気で火傷することはない。ほっと一息つく。
これでやっと終わったんだ。一体誰が倒したのだろうか?疑問のままである。もしかしてエンジェル……?
彼女は無表情のまま、赤い鱗のドラゴンに話しかける。ロボットのように感情はない。
「さ、行きましょう」と赤いドラゴンに話しかける。
「はい、お嬢様。星のカケラがある場所に行けばいいのですね」
「ええ、そうよ。アズキール様がおっしゃった場所に向かいましょう」
アズキールはシプリートにそっくりな黒い服を着た男だ。エンジェルにとってのご主人様であり、彼女に殺しは合法だと教えてくださったお偉い方だ。
エミリ姫は洗脳されてエンジェルになり、力をたくさんいただいた。この力があればこの星は我々のものにでき、理想の世界に作り変えることができる。
町に近づき、それから真っ青な快晴の空を飛ぶ。太陽がギラギラと輝き、その場所からザルメタウンへ向かう。
ザルメタウンは主に酪農が盛んな寒い地域で、アズキールからもらった分厚いコートを取り出す。
ドラゴンが愚痴を言ってきたので、その間にコートを羽織った。
「ザルメタウンは寒いからなぁ。耐えられればいいけど」
「気にせずに進みましょう」
「分かりましたわ」
会話をしていたら、ドラゴンが足に違和感を覚える。よく見ると、シプリートとカロリーヌが乗っていたのだ。
地面に近づいてきた瞬間二人は飛び乗り、相手がどこに行くか聞くことにしたという。あまりにも無謀な行為だ。下手したら死ぬかもしれないのに。
シプリートは真剣な顔で尋ねる。
「星のカケラがザルメタウンにあるのは本当か?」
「はい、本当です」
彼女の顔があまりにもエミリ姫に似ていたので、足をよじ上り彼女の背後に上り詰める。エンジェルに恐る恐る質問した。
「本当にエミリじゃないのか?」
「違います。私はエンジェル。アズキール様に名前をいただきました」
「アズキールって誰だ?」
「アズキール様を侮辱するな!様をつけろ!ここから落とすぞ!!」
鬼の形相で睨まれたので、シプリートはドン引きしてその場から落ちそうになる。しかし、彼女に抱きつくことで回避した。
それを見ていたカロリーヌは、頬を膨らませている。嫉妬によるものだろう。
胸に手が当たっているのも感じさせないくらい、怒っているエミリを見たのは初めてだ。恐怖を感じてしまう。思わず手を背中から離した。
好きだったあの子はもういない。
泣きたくなってしまう。
目から涙が溢れ出しそうだ。
「おい、ゴミ剣士。触るなよ」
「ご、ごめんなさい。アズキール様とは一体誰のことですか?」
「……それは教えられない。ただ『操りのペテン師ブラック』と世間では呼ばれているわ」
「っ……!」
足にしがみついていたカロリーヌは目を見開く。
ブラック(本名アズキール)は彼女が過ごしていた国を滅亡させた人物。モンスターに命令して両親を他の場所に連れて行き、妹を目の前でモンスターに殺させたテイマーだ。
大事な家族をなくしたカロリーヌはアズキールが憎い。復讐相手であり、このままついていけば本人に会えることを確信する。
彼女はハキハキした声で話しかけた。あっさり断られてしまう。
「アズキール様に合わせてください」
「そんなことさせない。ドラゴン、彼らを先ほどの町に送り返して」
「かしこまりました、お嬢様」
「何をするつもりだ!」
シプリートのその言葉も無視してドラゴンが一回転すると、うまい具合に後ろへ吹き飛んだ。
二人は空を舞い、その後ろからエンジェルが生み出した長い枝で押し出された。
先ほどの荒れ果てた町に着地。木がクッションになり、怪我をすることは免れた。どうやら仲間がここにいるので、気にかけてくれたのだろう。
まだエミリの自我が残っているのでは?と思ってしまう。残虐的な人間に、まだ染まっていないようで安心する。
木は離れて、何事もなかったように石の地面が現れた。その場所を見ると、悲惨な状況だとわかる。
アンジェは壊れた壁に寄りかかりシクシクと声を上げずに泣いていた。怪我をしたザールは力尽きており、ドミニックに怪我した場所を持ってきた最後の包帯で巻かれている。頭と背中だ。
彼は満面な笑みを浮かべる。
「いやぁ……ありがとう、兄さん」
「別に。これくらい出来る」
「はは……男には口が悪いんだな」
ザールは包帯だらけの身体を見せつけて、苦笑いする。少しくらいマシな扱いをされたい物だ。
傷の手当てを終えて、ドミニックが苦い表情で話しかけてくる。
「で、二人はどこに行っていたんだ?」
「エンジェルと話したんだが、どうやら次のカケラはザルメタウンにあるようだ」
「ふーん、聞いたことない町だな」
適当に会話をしていたら、唯一の生き残りである魔導士の叔母さんクラークがどこからともなくやってきた。柔らかくてしわがれた声で話す。
「ザルメタウンはとても寒いからね。分厚いコートとズボンを貸してあげるわ」
そう言われて、納得したシプリートとザール、カロリーヌは同意して歩みを進める。この叔母さんは優しいから信用できそうだ。
ドミニックはアンジェを説得しており、表情からとても大変なのがわかる。
「アンジェ、君の両手は綺麗だ。だから心配するなよ」
「でも……」
「クラーク叔母さん、塗り薬と包帯はありますか?クラークさんが魔法で治すというのもありだと思います。ですが回復魔法は一番大変な魔法です。私が治療します」
「お気遣いありがとね。その二つはありますわよ。さあ、来なさい」
二人は見つめ合い、三人の後ろへ渋々続けて歩みを進める。
両手が焼け爛れてしまったアンジェは、手を裾に引っ込めながら一歩ずつ踏み締めた。
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