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「シャンディ」
このマッキノン王とカーディナル殿下のやり取りを茫然と立ち尽くして見ていたわたしに、クリス殿下が側にゆっくり歩み寄って来た。
「クリス殿下!よくご無事で。ところで殿下と一緒だったラスティは?」
クリス殿下の動きが一瞬止まった。
そして、なんとも言えない苦い表情をする。
まさか、ラスティになんかあった?
「いまは俺の頼み事で動いてもらっている。間もなく、ラスティの無事な顔を見れると思う」
「よかった」
それを聞いて、胸を撫で下ろした。
どうやら、ラスティも無事で生きているようだ。
「まったく… シャンディらしいな」
クリス殿下が微笑みながら自分のフワッした黒髪をクシャと掴んだ。
そして切なそうな表情でわたしの肩の上ぐらいまでの長さにバラッバラに切られた髪の毛の先に優しく触れる。
「辛かっただろう」
低い優しい声で言われると、安堵からかまた胸がきゅうとなって目頭が熱くなる。
でもわたしはここでは騎士。
人に涙は見せられない。
自分の手を握りしめ、涙が出そうになるを堪えながら、首を横に何度も振る。
マッキノン王の近くにいた師匠のシャムロックが王からずっと握っていたわたしの髪の毛の束を受け取って、持って来てくれた。
「シャン」
髪の毛の束を渡された。
「ありがとうございます」
「よくやったな。シャンの間抜けな死に顔を拝めなくて残念だ」
戯けた表情でわたしにそう言うと、わたしの側にいたクリス殿下に視線を移し、恭しく一礼をした。
「近衛騎士だったシャムロックだよな」
クリス殿下が確認するような、それでいてとても親しい者の名前を呼ぶかのように師匠の名を口にした。
師匠が思いっきり顔を綻ばせた。
「ようやくわかったのか!遅すぎるぞ。クリス!」
そう言ったかと思うと、クリス殿下の黒髪を両手で犬を撫でるようにわしゃわしゃと手荒く撫でる。
不敬では… しかもかなり。
慌てて師匠を止めようとするが、クリス殿下は子どものようにうれしそうに笑っている。
「あの頃は長い前髪で視界を遮りなにも見ようとしなかったのに、いまは大丈夫そうだな」
師匠が愛し子を見るかのように優しい瞳だ。
「はい。師匠、もう大丈夫です」
はっきりと言うと、クリス殿下がシャムロックを真っ直ぐに見つめる。
「あの…おふたりは知り合い?」
恐る恐る聞いてみる。
「シャムロックは俺の護衛兼剣の指導をしていてくれたんだ。砦で会った時はわからなかったけど、さっきの剣筋と大剣でわかった」
髪の毛をボサボサにされたクリス殿下が整えることもなく、わたしに興奮気味に説明をしてくれる。
「本当に長い前髪の頃はなにも見ようとしていなかったのはよくわかりましたよ。砦で会った時にわたしがわからないとはね。どんなに悲しかったか」
師匠がわざとらしく悲しそうな表情をする。
その顔を見て、クリス殿下もわたしもそして、師匠も肩を揺らして笑った。
「さて、真面目な話をさせてください」
そう言うとクリス殿下の顔が為政者に戻った。