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さぶれ-SABURE-
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月詠 涼
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新たに二人を加えた新規増員パーティーによるダンジョン探索が始まる。ほかのパーティーはみんな地図通りにまっすぐ二層のほうへ進んでいったが、こっちは落ち着いてその道筋に従いながらも、横道にそれたりしながら、確実に出会ったスライムを倒していく。
「……この通り、スライムの体内に入れたものは何でも溶かしてしまう。スライムの体内に取り込まれてから消化液が抽出されるまでには時間差があるから、この通り腕に張り付かれた後でも、直後なら核をすぐにつぶすことでダメージを受けることなく倒すことはできる。もちろん、危険な行動なので推奨は絶対にしないんだが……まあ、慌てず行動することが大事ってことだ」
新人……ではないが、二人に丁寧に戦い方を指示しながらスライムから順番に倒していく。どこまでできるかわからない以上一から教え込むほうが却って手間がなくていい。時間も充分にあるし、朝日奈もそれに従って、スライムからきっちり倒し方を学んでいくが、長物で核を狙うのはなかなか難しいらしく苦労している。【薙刀術】なんてスキルはあっただろうか。
あったとしても【槍術】の中に組み込まれていそうな気がするが、もしもあったら朝日奈用に一枚都合して使い心地がどのぐらい変わるか、というデータ取得のために実験体になってもらうことを条件にして首を縦に振らせてみよう。
スライムを全員倒し終えて、コロンと魔石が出たところで、そのまま奥へ進み二層へ向かった。ここから先は向きと不向きが完全に分かれる人型ゾーンだ。ゴブリンぐらいの小ささや人ならざる感じでも、人間型のモンスターを倒すことに対して嫌悪感を覚える人はいる。早くも二層でダンジョン人生が終わってしまう人もいる、というのは浅いところで決まってくれてありがたいとみるべきか、それとももう少し深くで携わってくれているほうがありがたいと考えるのか。
どちらにせよ、ここで大川さんの進退が決まるというもの。これだけおっかなびっくりモンスター……スライムに対しても慣れるまでに多少の時間をかけることになったんだ。これがゴブリンやウルフマンと徐々に人型に向かっていけば、忌避感を覚えるのも仕方ないところ。
さっそく前方からのんびりと棍棒を地面にこすりつけながらトテトテと歩いている一般被害者ゴブリンが現れた。
「さて、誰からやるかね? 朝日奈は前回やってるから復習も込みで一対一で試してみるか? 」
「そうだね、ぜひそうさせてくれると……」
朝日奈が言い終わる前に、大川さんがゴブリンに対して突進していき、出会った頃の彩花のような体勢でゴブリンに突っ込み、そのまま心臓部分へと短剣を突き、自分の体重もうまく使ってゴブリンを転ばせる。
そのまま大川さんはゴブリンに馬乗りになり、心臓めがけて何度も心臓を短剣で突き崩していく。きっとゴブリンの心臓があったら、それを抉り出して神にささげんとするがごとく一種の神々しさも持ち合わせた光景が見られたのだろう。黒い霧になって消えていくゴブリンと、足元のゴブリンが消えて地面にへたり込む大川さんと、その光景があまりに突然すぎて反応できない俺たち。
「ふぅ……ふぅ……これで、いいですか? 」
「うーん……倒せたのはとりあえず置いといて、及第点かな。そのやり方だと二匹目がいたときに対応できなくなるし、自分が戦いづらくなるぞ。立ち上がりなおす手間もあるしな」
「なるほど。勉強に、なります」
大川さんは人型は難しいと思ってたけど、これは認識を改めないといけないかな。それ以前に一人で突っ込むのは止めないといけない。今のは俺が周りを確認してほかにゴブリンがいないことが確認できてたからいいが、ほかのゴブリンがいた場合は全力でかばいに行かなきゃいけなくなったところだった。
「とりあえず、勝手に突っ込むのは禁止だ。一匹だけ来てるとは限らないし、俺と彩花でそれぞれ対応できるとしてもカバーしきれない可能性だってある。まあ、無理やりやればなんとかならないでもないが……とにかく、ここからは普通に怪我するつもりで注意していこう。最悪腕の一本も持っていかれることも頭に入れていこうな」
「はい! 」
「私たち、そこまで危険な階層で探索してたの? 」
彩花が逆に俺に問いかけをしてくる。ちょっと大げさには伝えているが、まあおおむね間違ってはいないだろう。
「普通のゴブリンならまだしも、盾持ちや剣持ちもいることだし、剣持ちに切られたら最悪切断、よくて切り傷ぐらいはつくだろうな。俺もせっかくのまだ新品の装備を壊されたくないし、慎重に行くに限る。というわけで二人一組で行こう。彩花と朝日奈、大川さんと清水君でパーティーをそれぞれ組んでいこう。大川さんは清水君が盾でモンスターを弾いて隙を作ってる間に攻撃を仕掛けるようなスタイルで行ってみようか」
「あの、さん、はいらないです。同学年ですし、パーティーメンバーですし、その、さん、ってつける分だけ指示が遅れると思うので」
「俺もだ。そのまま呼んでくれ」
大川さんと清水君が敬称抜きでできるだけ短時間で指示できるようにと、気を使ってくれているらしい。お言葉に甘えることにしよう。
「じゃあ、そうさせてもらう。俺は索敵しながらどっちから何が何匹来るか、というのを確認しつつ、多すぎれば数を減らすし適切なモンスター数を倒しに行くことで調節していくつもりだから、ちょっと楽はさせてもらうがその分集中もさせてもらうことにする」
「わかったわ、全体指示役ってことね」
「この階層なら本条君や結城さんなら一人で回れるんだろうけど……その貴重な時間、僕らの戦闘経験値にさせてもらうね」
「おう、気張っていくぞ」
どうせ専用ダンジョンに潜ったらこのぐらいの収入はすぐに巻き返せる……というか先日大きなシノギを終わらせたあとなんだ。そのおかげで多少現金にがめついようなふりをしなくて済むし、俺一人……彩花を含めて二人、収入のあてにする必要もない。余裕があるって、なんて素晴らしいんだろう。
さっそく、モンスターの探索に出かける。三層への道へは大きく外れない範囲で、側道に入って三層へ向かう別ルートを選択し、そちらへ向かう。二分ほど歩いたところでゴブリンが二匹出てきた。
「さあ、それぞれでやってみてくれ。危なそうなら手を出すからな」
「大川、まずは俺の後ろに。攻撃させて盾で受け止めてる間に攻撃を」
「わ、わかったっ」
「ねえ結城さん、僕が一人で挑んでみてもいいかな? 前回もそうだったけど、普通のゴブリン相手ならいけると思うんだよね」
「いいわよ、危なかったら援護を入れてあげるわ」
それぞれ戦い方を考えながらゴブリンと相対し始める。たかがゴブリン、されどゴブリン。ゴブリンに泣かされて帰ってくる探索者だっていることを考えたら、慣れてから次へ行っても遅くはない。確実に浅いところで戦える経験さえあれば、奥へ入ってもそれなりに戦いのコツを覚えてしまうことも大事だと考える。
「今っ! 」
「はいっ! 」
清水がゴブリンの攻撃を受け止めてゴブリンの動きを停止させたところに、わき腹から持っていくような姿勢で大川がねじ込むように短剣を突き刺していく。この二人はそこそこ息があっている、前回も一緒に組んでいた分だけ呼吸を合わせやすいのかもしれないな。
そしてこっちは……朝日奈は問題なく動けているし、一人でゴブリンを倒すのも問題ない、というところか。ゴブリンは後二回ぐらい試してみて、問題なさそうなら盾持ち、剣持ちのほうへ移動していくか。なんか今日は俺が教師の代わりをやらされてるような気がしてちょっとむず痒いな。
「うーん、今回は引率ってところか。まあいいか」
「私も朝日奈君の引率係という意味では一緒だけどね」
「まあ、講義内だし安全第一、危険に慣れてもらうことも大事だからな。次回はまた一コマかもしれないし、二コマかもしれない。さすがに三コマまで使うことはないだろうが……いや、三回生ぐらいになると十層まで潜って帰ってこい、とかに内容が変更される可能性はあるな。今のうちに覚悟をしておくか」
さすがに三回生にまでなって十層にも潜り込めないようになっていない、という風にはならないだろうし、人数がそれなりにいればパーティーメンバーにも事足りるし、俺と彩花だけでも十層へ行くなら……七層を経由しなければならない部分以外では問題ないし、何とかなるか。そこまでのものをダンジョン学部として求めるかどうかはさておき、その分の覚悟だけは持っておかないといけないか。
ダンジョン装備も金がかかるからな。金持ちしか学部でやっていけない、などでは夢がない。もうちょっと、ダンジョンには夢があってしかるべきだ。ここから成りあがって卒業のころには一財産築いて卒業するような話のほうがまだ形として夢がある。
また、学者としての道を選ぶにせよまだまだダンジョンには学ぶところも謎も多く、素材に関しても完全に解明されているものが多いわけじゃない。それに、俺すらまだ通っていない階層のドロップ品は多く、それらを解析して代替品を作るだけでも利益になりそうな物品は数多くあるという。詳細は講義でもやっていくだろうが、ダンジョンにはまだまだ稼ぐ余地がある。
その稼ぐ余地を確実にするためにも、ダンジョンというものが改めてどういう構造、法則、そしてどういうモンスターが現れ、どう倒していけばいいのか、などを考えながら探索していく必要がある。
このまま何も考えずにモンスター退治ごっこをしているのはダンジョン学部生のやるべきことじゃない、というところか。それぞれでそのことについて考えながら探索をしていく必要がある、ということに現時点で何人気づけるかどうか、というところかもしれない。
「倒せましたぁ」
「こっちも行けるよ。次はどっち? 」
大川も朝日奈も無事にゴブリンには対応できるようにはなっているらしい。次は盾持ち、剣持ち、そして可能ならウルフマン。そこまで行けるかどうかはこの後の進捗次第ではあるが、慣れてもらうのが先だ。焦って怪我するのが一番よくないからな。さあ、先へ進もう。
コメント
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読み終えました!新メンバー二人を連れての“引率”探索、大変そうでありながらも戦術の基礎を一つひとつ教えていくスタイルがいいですね。特に大川さんの突進攻撃には驚かされましたが、清水との連携プレーが決まったときはちょっとほっとしました。朝日奈が薙刀使えるかどうかのデータ取りの話も、研究者っぽい目線で好きです。次は盾持ちやウルフマン相手にどう動くのか、続きが楽しみです!