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さぶれ-SABURE-
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月詠 涼
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ゴブリンと戦いながら三層へ向かう。しばらくゴブリンとだけ戦っていたが、三匹出てくる場面が見られたので俺も暇つぶしに……とマジックミサイルを一発出してみたら、大川と清水と朝日奈に全力で引かれる。やはり最大出力のマジックミサイルは引かれる原因になるらしい。ちなみに彩花はあきれていた。
「そんなに最大出力で撃たなくても、お手頃感覚で行けたんじゃないの? いくら出番が欲しいからってさすがに過剰火力だと思うわ」
「いやあ、見てるだけだと手を出したくなっちゃうからどうしてもな。ちゃんと参加しているぞというアピールでもあるし、証拠が欲しかった。もうあとはほどほどで行くと思うから安心してくれていい」
「探索者も十層まで行ける実力になるとそこまでになるのか……すごいな」
実際は十七層まで潜っているのでもうちょっと先までいけることになるが、そこまで細かく説明してマウントを取る必要もないだろうし、ちょっとしたストレス発散だと思ってもらおう。自分で能動的に探索ができないのはそれなりにストレスであることが分かったしな。
「さて、俺もすっきりしたところでみんなには引き続き戦ってもらっていくか。三匹まで出てきたらまた手を出すからそれまではみんな各自で戦いやすい方法を見つけていってほしい」
「はーい」
朝日奈がのんびりと返事をするが、顔はまじめそのものだし、こっちには彩花がついてくれているので大丈夫だろう。大川ペアのほうは……どうやら清水も戦闘に参加し始めたらしく、大川と声を掛け合いながら盾で防ぎつつもう片方の手に持った軽めの片手剣でゴブリンを倒し、自分一人で戦えるようになることも確認できている。
問題なのは大川だが……まあ一人で戦うことはなさそうな性格をしているからな。その点では安心できるが、一人で戦えるようにもしておきたい、というのは正直な話。清水のほうは問題なさそうだが、大川は……誰かとセットにしておくのが安全ではあるが……これはどう頑張らせるべきかな。
清水と二人で組ませながら後ろでアドバイスするのがベターなんだろうけど、最終的には一人で戦えるようにもなってもらいたい。そのためにはまだ二人一組で頑張ってもらうほうがよさそうか。まあ、まだ二回目だし焦ることはない。
彼らもダンジョンで稼ぐとはいえ、戦闘で稼ぐ方面に向かうとは限らないわけだし、今日のところはウルフマンとの戦闘を経験してもらって、うまいこといってくれるようになればいい、というところか。よし、もうしばらく様子見しつつ、危ない姿勢や体勢から攻撃に入らないように見守っていくか。
さらに奥に進み、盾持ちや剣持ちのゴブリンが前に出てくる。このあたりから、難易度は一歩進んで高くなる、といったところ。何せ、明確な殺意を持つ武器で攻撃してくるのだ。こっちもそれなりに身を守る装備で行かないと難しい、というところだろう。
朝日奈は彩花に任せるとして、清水と大川は盾持ちゴブリンが出てきた時は清水が盾で殴り合ってる間に大川が仕留めるか、清水がそのまま盾で押し込んでその間に片手剣でダメージを与え続けて倒す、ということになった。ここまでに魔石もそこそこたまり、手ぶらで帰るという可能性はなくなった。それぞれ頑張りに応じて給料をもらって帰ることにはなりそうだが、俺の給料はもらえるんだろうか? そこだけが少し心配だな。
「盾持ちはいいとして、剣持ちはちょっと怖いな」
「う、うん。清水君に防いでもらってるとはいえ、近づいて剣がこっちに向くと思うと、ちょっと、こわい」
「そうならないように、がっちり抑え込むことだな。盾で弾き飛ばして、剣を手放させるのでもいい。この辺のゴブリンの腕力なら、盾を構えて体当たりすることで武器を手放させることも可能になると思う。それが一瞬の隙ってことで、その間に攻撃するのも手段の一つだとは思う」
「本条はだいぶ慣れてるな。普段はどの辺潜ってるんだ? 」
清水の手が空いたのでちょっとだけ話す時間ができた。ここでうそを言っても仕方がないので素直に本当のことを言ってしまおう。
「普段は十層以降だからこの辺の動きはあんまり参考にならないし、十層へ行くための通り道で一回通っただけだから、このダンジョンについての情報はあんまり持ち合わせてないんだよな。もしその辺を詳しく知りたかったら、ダンジョン併設のギルドに地図とモンスター情報を問い合わせるか、ここのダンジョン探索者サークルに潜り込んでしまうのも手だと思うぞ」
「なるほどな……装備に関してはどうだ? 俺たちのは借り物だけど、こんな装備で本当に大丈夫なんだろうか」
清水が盾と鎖帷子を見せつけながらこっちに問いかけてくる。鎖帷子なんてもんどっから調達してきたんだろう。メンテナンスにせよ着込むにせよ、重いし大変な逸品だとは思うんだが、素直に綿多めの分厚いモコモコ服でもいいとは思う……いや、季節感考えたらまだ鎖帷子のほうが暑さを感じずには済むか。この時期はダンジョンに来るまでの間の涼しさも考えないと、ダンジョンにたどり着く前に熱中症で倒れてしまう。
「しいて言うなら大川の武器が短剣ってところが違和感かな。せっかくの体格……女性に対してあまり適切な助言ではないことを踏まえて言うが、体格を生かしてもっと重かったり長かったりする武器に変えられるなら変えたほうがいいと思う。軽めの鈍器とかでもいいので、腕のリーチと体の大きさをもっと考えて動いてみてもいいかもしれないな」
「な、なるほど……両手剣とかメイスとか、そ、そういうやつのほうがいいのかな? 」
「試しにこの俺の刀をもって、重いと思うかどうかだな。どうだ? 」
試しに烏丸を持たせてみて、振るのは危ないにしても持った感じ重たいと感じるかどうかで決まってくるからな。鞘ごと渡したので抜くこともなく、ただ二、三回振りかぶったりもって姿勢を構えたりして、いろいろ試してみている。
「こ、これでも、ちょっと軽いぐらいかも。手元がまだ少し軽い感じがする。振り回すには、ちょっと不安かも」
「だったら、メイスを振り回すのもありだな。これで軽く感じるってことはすっぽ抜ける心配もないし、肩はちゃんとできてるってことだろうし。体格をうまく生かして攻撃に回るってのもありだ。男性だから女性だからというつもりはないし、清水が盾職をそのままやり続けたいなら、二人でコンビネーションの練習をしていって、清水はどういう風に攻撃を受けて、どう受け流したら自分の盾や防具にダメージが行かず、長く使い続けられるかを研究するといい。そして、もう一人、攻撃役に回る大川にモンスターを送る……っていう言い方でいいのかな。戦いやすいように誘導してやれるようになればぐっと連携が強まると思うぞ」
「う、うん。次装備借りるときには、た、試してみる」
ゼミにメイス置いといて試しに貸し出し用としておくのもありかもしれんな。ふむ……中古屋でメイスをいくつか仕入れておくか。ダンジョン学部の倉庫に寄付の形で置いておくには問題ないだろうしな。ちょっと考えておくか。
値段は講義が終わったら調べに行って、安ければ大川用に一つ用意してやってもいいはずだ。本人も体に合わない短剣を使い続けるよりも、早めに自分の体に合った、自分らしい装備に変えてやったほうが便利だろう。
盾ゴブリンにも剣ゴブリンにも慣れ始めたところで、三層に到着し、ウルフマンと出会える場所まで来た。さすがに四層まで足を延ばすパーティーはいないのか、人口密度は比較的高め。モンスターが湧かなくなるほどではないが、【聞き耳】で人の息遣いが聞こえる程度には密度は高い。
もう帰り支度を始めている探索者も数名いる。早々と戦い終わって帰り支度を始めている、というところだろうか。もしかしたらさっさとウルフマンの魔石を手に入れてお土産に持ち帰って、講義で金が稼げるなんてすばらしい話だな、なんて話をしているパーティーもいた。
「さて、出遅れ組としてはウルフマンの魔石を数個手に入れてから帰りたいところだな。うまく出てくれるといいんだけど……まずはモンスター探しからか。こっちだな」
すたすたと歩きだす俺に、大川が疑問符を浮かべる。
「なんで、わかるの? 」
「ああ、俺聞き耳っつって小さい音を聞き逃しにくいスキルをいくらかレベル上げているから、ウルフマンの足音を追いかけることができるんだ。微調整が効かないのが難点だけど、こういう時は便利なんだよ」
「本条君、スキルいっぱい持ってるんだね」
「彩花もそれなりに多いぞ。高校時代から二人で頑張って集めてきたスキルの山があるからな。聞き耳こそ持ってないものの、俺が持ってないスキルも持っているし、息を合わせてくれるし、ばっちりの相棒だ」
彩花がちょっと恥ずかしそうにもじもじしだすが、構わず褒めておく。ちゃんと俺の彼女だから逃がさないぞ、渡さないぞ、と清水と大川に伝えるつもりで話す。
「本条君は結城さんのことになると目の輝きが違うよね。大事にされてるね、結城さん」
「もう……馬鹿ぁ……」
しおらしくなって赤くなる彩花だが、その後ろからウルフマンが駆けつけているのを見かけると、マジックミサイルを彩花を避けるようにアーチ状に蛇行させてからウルフマンに直撃させる。そのままマジックミサイルの攻撃で黒い霧になって消滅していくウルフマン。あとには魔石が残ったのできちんと拾っていく。
「うむ、滑り出しは好調だな。このまま数度戦って、帰り道の分だけ時間を使いつつ、ぎりぎりで戻れるように頑張るか」
「またさっきと同じ組でやればいいのかな」
「スイッチしても構わんと思うぞ。全員で一斉にかかって仕留めるでもいいしな。とりあえずモンスターそのものに慣れるために二人ずつになってもらったけど、ここからは四人と……俺、で立ち向かうでも問題ない。誰かが後ろから見てるほうが安全なのは間違いないからな」
「じゃあ、本条君には引き続き指導してもらおうかなあ。そのほうが安心できそうだ」
「まあ、俺が今更ウルフマンにやられることはない……なんて余裕ぶっこいてると怪我するのが関の山だ。ここは一つ真面目にピクニックといこう」
コメント
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「指導者としての立ち回り、めっちゃ格好いいわ〜🔥」 烏丸を持たせて大川に合った装備を提案するシーン、具体的で「ちゃんと考えてる感」が出てて好き。 彩花とのやり取りで「渡さないぞ」って牽制入れるのもニクいなと思った(笑)。 最後の「余裕ぶっこいてると怪我する」って締めも、経験者の言葉って感じでグッときた。