テラーノベル
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駅近くのビルにあるカラオケ。
虚しいほどに広いパーティールームに男ばかり、10人ほどが集まっていた。
(男だけって……まあ、ほぼ経験ないけど)
昔から女に囲まれることが多く、男だけの集まりは働き出し時間が取れなくなってからは特に遠ざかっていたように思う。
女っ気のない空間は、むさ苦しい上に全くテンションが上がらない。
駅からの短い距離にも、仲睦まじい恋人たちの姿がいくつもあった。
あれは異世界だったのか?
いや、こっちが異世界か?
とりあえず、今日という日にこの場が異空間すぎる気がして。
坪井はダラリとソファーに深くもたれ込み、長い脚を持て余すように伸ばした。
友人たちの騒がしい歌声も雑音にしかならないし、どれだけ酒を飲んでも、気がかりがあるせいか酔うこともできないでいる。
店員の回収が追いつかないほどに、ビールの中瓶や空いたグラスが散乱しているというのに……だ。
散らかったテーブルの上を横目に、深く溜息をつき頬杖をついた。
「おい、涼太〜、なんだよどうした!? テンション低くね?」
「つーか涼太が来るなんて久しぶりじゃねーか、なぁ! お前でも彼女切れる時あるんだなぁ」
「重たいって……」
ずしりと両肩に男2人の重みを感じて、どうテンションを上げろと言うのか。いや別にこれが女だったとしても困る訳だし、もうどうしようもない。
結局、切なさから逃れることはできないということ。
「別に、お前らが元気すぎんだろ」
げんなり返すけれど、それが伝わらない程度にはみんな楽しそうに酔っている。
「だーかーらお前も飲めって!」
カクテルを手渡され、とりあえず一気に飲む。楽しそうに酔えてる姿が羨ましかったから。
少しの間無心で酒を飲んでいると、ちゃんぽんのおかげか多少は身体が熱を持ってきてくれて。
まわされてきたマイクを手に、誰が入れたのかもわからないクリスマスソングをデタラメに歌う。
そんな余裕が、少しだけは生まれてくれた。
けれども、心の中には彼女の姿ばかりがあって。隣を歩く八木の姿までもが鮮明だ。
これでは、なんの憂さ晴らしにもなりやしない。
(はあ……、何これ、つまんない酔い方じゃん)
マイクが次に渡って、手持ちぶたさ、端に座る坪井は窓の外を眺めた。
落ちるばかりの気持ちを切り替えたくて、既に暗い空を眺め、再び酒を飲む。
いっそこのまま潰れて気がつけば朝にでもなっててくれないだろうか。
空が明るくなっていれば、多少気分も上がるかもしれないのに。
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