テラーノベル
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しかし、クリスマスの書き入れ時にフリータイムの客を何時間も置いてはくれない。
酔って潰れるよりも前に、入店時の説明通り。
2時間で退室を促すコールがあった。
そのコールの後「じゃあ隣のクラブにうつろーぜ」と提案の声を上げたのは、隼人だ。
やたらニマニマと鼻の下を伸ばす隼人を眺めながら、音を楽しむつもりがないのは明らかだな。と、乾いた笑いが漏れ出る。
「隣ってナンパ寄りの箱だっけ?」
坪井が聞くと、隼人は満面の笑みを見せ「イベントん時は!」と叫びながら、ハイテンションで肩を組んできた。
時刻は22時を過ぎた。
街中に流れるクリスマスソングも、浮かれた空気も、じきに終わる。そう思うとどこかホッとした。
真衣香と八木の関係が、クリスマスと共に終わるわけではないというのに。
(まあ、隼人でも何でも、他人の体温があるってのはいいか)
肩にまわされている腕の重み。もちろん嬉しいわけではないけれど。
痛む心は、女目当ての隼人の誘いを断るには至らず。結局は、1人にはなりたくない弱さが勝った。
「涼太がいれば、そこそこの女が寄ってくるだろ」
「あはは、それ高校ん時の修学旅行思い出すわ。涼太効果ですんげぇ逆ナンされたの」
「今日も期待させてもらうからなぁ」
「つーかクリスマスってだけで股緩い女が多いし、めっちゃチャンスじゃね?」
好き勝手なセリフで盛り上がる友人たちに「人を女寄せみたいに言うなって」と、怒気を含ませた声で返し、カラオケの会計を済ませ目的の店に向かった。
***
入り口のドアを開ける前から漏れ聴こえるヒップホップ調の爆音。
ゾロゾロと歩いて移動してきたクラブには、既に店の前で出来上がった男女が絡み合う姿が見られた。
酔った数人が「ホテル行ってやれよ、ホテル!」とヤジを飛ばしながら入店する。クリスマスイベント真っ最中の店内は、サンタのコスチュームに身を包んだ女が数え切れないほどだ。
普段は音好きもナンパ目的も、どちらもバランス良く遊べる店だが。隼人の言葉どおり、今日は例外らしい。
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