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私の名前は如月 亜美(きさらぎ あみ)。都心の私立高校に通う、華の十七才だ。
表向きは何の変哲もない、普通の女子高生だと思う。
だけど私には、誰にも言えない秘密がある。
「おねえちゃ~ん。勉強教えて~?」
姉弟共同の部屋。何時ものように、私にまとわりついてくるこの雪のように白い肌の少年は――
「ユキちゃん」
如月 雪也(きさらぎ ゆきや)。小学五年生になる私の実の弟。
そして最愛の弟。
私達には母親がいない。ユキちゃんが小学校に上がる前に、交通事故で他界してしまったから。
以来、私がユキちゃんの母親代わりみたいに、ずっと面倒を見てきた。
父親は私達を養う為、出張がちで家に居ない事の方が多いけど、私はそれが辛いとか、寂しいとか思った事はなかった。
何故なら――
「おねえちゃん」
私にはユキちゃんがいる。
誰よりも愛する――私の弟。
自慢じゃないが、ユキちゃんはとても可愛い。整った顔立ちにとても似合う、栗色の艶やかな毛並みからはお日様の香りがしたものだ。
私はこの香りが大好きで、ユキちゃんを抱き締めては、その香りを嗅ぐのが日課となっていた。
匂いフェチとは違うと思う。ユキちゃんだからこそ心地好いだけ。
何時も愛らしい瞳を私に向けてくれるユキちゃんは、本当に目に入れても痛くないと思える程で、私はつくづく親馬鹿(いや、姉馬鹿か)だなぁと思う。
友達からはよく『亜美ってほんとブラコンだね~』と揶揄されたりもするが、その通りだと自分でも思う。
母が亡くなってから、ずっと二人だったから。私はユキちゃんの姉であり、母親でもある。
お風呂に入る時も寝る時も、私達は常に一緒。
『お姉ちゃん大好き~』
『私もユキちゃん大好き~』
この関係はきっと、ずっと変わらない――。
***
――ある日の夜。ユキちゃんと何時ものように、一緒にお風呂に入った時の事。
どうも様子がおかしい。
「ユキちゃん? 次は前だよ、こっち向いて?」
それは何時ものように、背中を洗っていた時だった。
「ううん……。自分で洗うから……いい」
拒絶。これは初めての事で、私は少し戸惑った。
これまでユキちゃんが、私を拒否した事は一度も無かったのに。
今日は何処かおかしい。洗面器にちょこんと座り、私に背を向けたまま、ユキちゃんは振り返ろうともしない。
「どうしたの? 何か……あった?」
今まで見た事の無いユキちゃんの態度に、私は少し悲しくなる。
「なんでも……ないから!」
何でもない筈が無い。ユキちゃんは膝を抱えて、何やらもじもじしている。よく見ると耳まで真っ赤だ。
のぼせてしまったのだろうか?
「とにかく前向いて」
私はユキちゃんの小さな肩を両手で掴み、無理矢理前を向かせていた。
「お姉ちゃん、見ないでぇ!」
振り向かせたユキちゃんの目尻には、涙が浮かんでいた事実に、私は戸惑いを隠せなかった。
ユキちゃんが私のせいで泣くなんて――。
しかしすぐその訳が氷解する。
「僕、病気になったみたいなの……。急に腫れちゃって……」
自分に何が起きたのか分からないのだろう。
ユキちゃんの“男性”の象徴は、しっかりとそそり立っていた。
私は思わず言葉を失っていた。それと同時に安心感も生まれた。
ユキちゃんはしっかりと、健康な男性としての成長を、順調に育んでいた事に。