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#おんりー
ゼオ氏
165
202
#おおはらMEN
ドズル社好き
107
#おんおら
ドズル社好き
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花吐き病。
それは、決して珍しい病気ではない。
誰かへの片想いを拗らせ、想いを伝えられないまま心の奥に閉じ込め続けると、やがて身体の中に花が咲く。
最初は、咳に混じる小さな花びら。
それから、吐き出される花の数が増えていく。
想いが報われれば、花は消える。
けれど、報われなければ。
花は、少しずつその人の心を蝕んでいく。
そして、吐き出す花の種類は、人によって違うらしい。
おんりーが初めてその花を吐いたのは、ほんの三日前のことだった。
***
「……っ、げほ」
深夜二時。
洗面所の明かりだけが、静かな部屋に白く浮かんでいた。
おんりーは片手で口元を押さえ、もう片方の手を洗面台についた。
喉の奥が、ひどくむずむずする。
風邪でも引いたのだろうか。
そう思っていた。
けれど、掌に落ちたものを見た瞬間、思考が止まった。
「……え?」
青い花びら。
一枚。
薄く透き通るような青色をした、小さな花びらだった。
水滴に濡れたそれは、まるで夜の空から切り取ってきた欠片みたいだった。
「……なに、これ」
指先でつまみ上げる。
花なんて、食べていない。
もちろん、口に入れた覚えもない。
なのに。
「っ、げほ……!」
また咳が出た。
今度は、花びらだけではなかった。
掌に落ちたのは、小さな青い花。
五枚の花弁が、きれいに開いている。
その形を見た瞬間、おんりーは息を止めた。
勿忘草。
花言葉は、確か。
――私を忘れないで。
「……最悪」
ぽつりと呟いた声は、自分でも驚くほど小さかった。
笑おうとした。
いつもみたいに、なんでもないことのように。
でも、口元は少しも動かなかった。
だって。
心当たりが、ありすぎたから。
***
「おんりー! おはよー!」
翌日。
通話を繋いだ瞬間、聞き慣れた声が耳に飛び込んできた。
「おはよ、おらふくん」
「今日ちょっと眠そうやな? 夜更かししたん?」
「んー、まあ、ちょっと」
「またゲームしてたんやろー!」
「おらふくんに言われたくないけど」
「えー! 僕はちゃんと寝てますぅ!」
いつものやり取り。
いつもの声。
いつもの笑い方。
それだけで、胸の奥がじんわりと温かくなる。
――ああ。
好きだな。
そう思った、その瞬間。
喉の奥が、ちくりと痛んだ。
「……っ」
おんりーは咄嗟にマイクから顔を背けた。
「ん? おんりー?」
「ごめん、ちょっと咳」
「え、大丈夫? 風邪?」
「大丈夫。なんでもないよ」
嘘だった。
昨日から、ずっと喉に違和感がある。
それでも、おらふくんに心配をかけたくなかった。
心配してほしいくせに。
心配されたら、きっともっと好きになってしまうから。
「ほんまに? 無理したらあかんで?」
「うん。ありがと」
「しんどかったら言ってな。僕、いつでも手伝うから!」
いつでも。
その言葉が、胸に落ちた。
おらふくんは、きっと誰にでもこうなのだ。
困っている人がいたら手を差し伸べて、元気がなければ声をかけて。
そういう人だから。
自分だけが特別なわけじゃない。
わかっている。
わかっているのに。
「……おんりー?」
「ん?」
「なんか今日、静かちゃう?」
「そう?」
「うん。いつもなら、もっと僕にツッコんでくれるやん!」
「……ふはっ。なにそれ」
思わず笑ってしまった。
おらふくんも、つられて笑う。
「ほら! 今の! そういうの!」
「どういうのだよ」
「いつものおんりーや!」
その声を聞いた瞬間。
おんりーは、ひどく泣きたくなった。
いつもの自分。
おらふくんの隣で笑っている自分。
何も知らないふりをして、いつかこの人が誰かの隣に立つ日まで、友達でいようとする自分。
――そんな自分を、いつまで続けられるんだろう。
「……おんりー、ほんまに大丈夫?」
「大丈夫だよ」
今度は、少しだけうまく笑えた。
「おらふくんがうるさいから、元気出た」
「えっ、僕のおかげ!? やったー!」
嬉しそうな声。
その無邪気さが、どうしようもなく好きだった。
だからこそ。
この気持ちは、知られたくなかった。
***
その日の夜。
配信を終え、通話を切ったあと。
おんりーは、しばらく椅子から動けずにいた。
画面には、終了した配信の画面が残っている。
つい数分前まで、おらふくんが笑っていた。
「また明日なー!」
そう言って、いつもどおりに。
また明日。
たったそれだけの約束が、こんなにも嬉しい。
「……っ、げほ」
喉が、急に締めつけられた。
おんりーは慌てて立ち上がり、洗面所へ向かった。
咳が止まらない。
息を整えようとしても、喉の奥から何かがせり上がってくる。
「っ、は……」
掌に落ちたものを見て、目を見開いた。
青い花。
一輪ではない。
二輪、三輪。
小さな花びらが、次々と掌に散っていく。
「……なんで」
声が震えた。
「なんで、今なんだよ……」
今日だって、いつもどおり話せた。
笑えた。
おらふくんの声を聞けた。
それだけでよかったはずなのに。
足りない。
もっと話したい。
もっと一緒にいたい。
自分以外の誰かに向けられる笑顔を、見たくないと思ってしまう。
そんな自分が嫌だった。
友達として大切にされている。
それだけで十分なはずなのに。
いつからだろう。
「友達」の四文字が、こんなにも苦しくなったのは。
おんりーは、掌の花をそっと見つめた。
青い花弁の端が、涙で滲んでいく。
「……好き、なんだよな」
誰もいない洗面所で。
誰にも聞かれない声で。
初めて、自分の気持ちを口にした。
「……おらふくんが、好き」
言ってしまった。
たったそれだけのことなのに、胸の奥がひどく痛んだ。
「……っ、う……」
また、花びらが落ちた。
まるで、隠していた言葉を身体が代わりに吐き出しているみたいだった。
好き。
好き。
好き。
言えない言葉ばかりが、花になって溢れてくる。
おんりーは、花をそっとティッシュに包んだ。
そして、誰にも見つからないように、引き出しの奥へしまった。
明日も、おらふくんに会う。
いつもどおりに話す。
いつもどおりに笑う。
この花のことなんて、何もなかったみたいに。
「……大丈夫」
自分に言い聞かせる。
「まだ、隠せる」
けれど、引き出しを閉める直前。
青い花が一輪、指先からこぼれ落ちた。
拾い上げたおんりーは、その花を見つめながら、かすかに呟いた。
「……忘れられるわけ、ないじゃん」
その花言葉を、自分が一番よく知っていた。
コメント
1件
うん、読んだよ……「花吐き病」の第2話。 まず、青い勿忘草の花びらが掌に落ちる描写、すごく美しくて切なかった。おんりーが「好きだな」って思うたびに喉が痛むのが、もう胸に刺さる。友達でいることで精一杯なのに、気持ちが花になって溢れ出しちゃう感じ、わかるよ……。 「忘れられるわけ、ないじゃん」って最後の一言、心臓がぎゅってなった。 続き、読みたい。おらふくんにバレずにいられるのかな。それとも……。とにかく、素敵な作品をありがとう。大事に読ませてもらうね🌙