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薙刀 瑜菜🍃💌⚓️
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「おんりー
聞いて!」
通話を繋いで数秒。
おらふくんは、いつもの調子で話し始めた。
「昨日な、めっちゃおもろいことあってん!」
「なに?」
「それがなー……って、あれ? おんりー?」
「ん?」
「今、なんか考えごとしてた?」
「いや、別に」
「ほんまー?」
「ほんま」
「ふーん……?」
疑うような声。
おんりーは、画面の前で小さく笑った。
「なに。気になるの?」
「気になるよ! だって最近、ちょっと変やもん」
心臓が跳ねた。
「……変?」
「うん。前より咳してるし、なんか元気ないし」
おらふくんの声が、少しだけ真剣になる。
「僕、なんかした?」
その一言に、おんりーは息を呑んだ。
違う。
おらふくんは、何もしていない。
ただ、優しいだけ。
ただ、好きなだけ。
「……してないよ」
「ほんま?」
「うん。おらふくんは何も悪くない」
「ならええけど……」
少し安心したような声。
その声を聞いて、おんりーもようやく息を吐いた。
けれど。
「なあ、おんりー」
「ん?」
「好きな人、おるん?」
――時間が、止まった。
「……は?」
自分でも驚くほど、間の抜けた声が出た。
「いや、なんかさ! 最近、恋バナになってん!」
「誰と?」
「メンバーと! そんで、おんりーはどうなんかなーって!」
「……なんで俺?」
「えー? 気になるから?」
あっけらかんとした声。
おらふくんにとっては、ただの雑談なのだろう。
でも、おんりーにとっては違った。
聞かれた。
一番知られたくないことを。
一番、知ってほしい相手に。
「……いないよ」
答えは、すぐに出た。
あまりにも自然に。
「そっかー!」
おらふくんは、何の疑いもなく笑った。
「おんりー、そういうの興味なさそうやもんな!」
「……そう?」
「うん! ゲーム一筋! って感じ!」
「はは……なにそれ」
笑った。
ちゃんと、笑えた。
でも、胸の奥では何かが静かに崩れていた。
おらふくんは、知らない。
自分がどんな気持ちで隣にいるのか。
どんなに声を聞きたくて、どんなに名前を呼びたくて。
どんなに。
「……おらふくんは?」
気づけば、そう聞いていた。
「え?」
「好きな人。いるの?」
今度は、おらふくんが黙った。
ほんの数秒。
けれど、その沈黙がやけに長く感じられた。
「……えー、僕?」
「うん」
「んー……」
おらふくんは、少し困ったように笑った。
「どうやろなあ」
その答えに、胸が痛んだ。
いるのかもしれない。
好きな人が。
自分ではない、誰かが。
「……そっか」
それ以上、聞けなかった。
聞きたくなかった。
「おんりーは?」
「え?」
「もし好きな人できたら、ちゃんと言うタイプ?」
「……どうだろ」
おんりーは、画面の中の自分の手を見つめた。
「言えないかも」
「えー! なんで?」
「……今の関係、壊したくないから」
言ってから、しまったと思った。
本音だった。
あまりにも、そのままの。
通話の向こうが静かになる。
「……そっか」
おらふくんの声が、いつもより少しだけ低くなった。
「大事なんやな。その人のこと」
おんりーは目を閉じた。
「……うん」
大事だ。
誰よりも。
だから、言えない。
「……めっちゃ、大事」
その瞬間。
喉の奥が、ひどく痛んだ。
「っ……!」
「おんりー!?」
咳が出る。
慌ててマイクをミュートにした。
掌に落ちたのは、青い花びらだった。
一枚。
二枚。
「……っ、なんで……」
指先が震える。
今はだめだ。
今だけは、やめてくれ。
おらふくんと話している、この時間だけは。
「おんりー! 大丈夫!?」
ミュート越しに、心配そうな声が聞こえる。
おんりーは花びらを握りしめた。
「……ごめん。ちょっと、咳が」
ミュートを解除する。
「ほんまに大丈夫なん?」
「うん。ごめんね」
「謝らんでええよ!」
すぐに返ってきた言葉。
「体調悪いときは、ちゃんと言ってな?」
優しい。
本当に、優しい。
「……ありがと」
「うん!」
少し間を置いて、おらふくんが言った。
「おんりーちゃんが元気ないと、僕も寂しいし」
その言葉に。
おんりーは、もう何も言えなくなった。
だって。
そんなことを言われたら。
期待してしまう。
自分だけが特別なのかもしれないと。
そんな、都合のいい夢を。
「……おんりー?」
「……ごめん」
「え?」
「……なんでもない」
本当は、言いたかった。
俺も。
俺も、おらふくんがいないと寂しい。
声が聞けない日は、何度も通話履歴を見返してしまう。
何気ない一言を、何度も思い出してしまう。
他の誰かと楽しそうに話しているだけで、胸がざわつく。
でも、そんなことを言ったら。
今の関係が、終わってしまうかもしれない。
「……おんりー」
「ん?」
おらふくんは、少しだけ迷うように言った。
「僕、いつでも話聞くからな」
「……うん」
「どんなことでも!」
おんりーは、ぎゅっと目を閉じた。
「……うん」
優しさが、痛い。
好きな人の優しさは、どうしてこんなにも残酷なんだろう。
通話が終わったあと。
おんりーは、掌を開いた。
青い花びらが、三枚。
そのうちの一枚を、そっと指でなぞる。
「……言えるわけ、ないじゃん」
誰にも届かない声だった。
「……好きな人が、君なんだから」
青い花びらが、指先で静かに揺れた。
まるで、答えを知っているみたいに。
***
その夜。
おらふくんは、自分の部屋でスマートフォンを見つめていた。
画面には、おんりーとの通話履歴。
いつもなら、何も気にしない。
明日も話せる。
またゲームもできる。
そう思える。
なのに、今日は違った。
『今の関係、壊したくないから』
おんりーの声が、頭から離れない。
「……好きな人、かあ」
ぽつりと呟く。
もし。
もし、おんりーに好きな人がいたら。
その人に告白したら。
その人と付き合ったら。
自分は、今までどおり笑えるのだろうか。
「……なんでやろ」
胸のあたりを、そっと押さえた。
なんだか、少しだけ苦しい。
おんりーが好きな人の話をするのを、聞きたくない。
でも、聞きたい。
その相手が誰なのか、知りたい。
知って、どうするつもりなのだろう。
「……変なの」
おらふくんは、小さく笑った。
そして、スマートフォンを枕元に置く。
眠ろうと目を閉じた。
けれど、最後に浮かんだのは。
いつも隣で笑ってくれる、あの人の顔だった。
「……おんりー」
呼んだ声は、夜の静けさに溶けていった。
その気持ちに、まだ名前はついていなかった。
コメント
1件
お疲れさまです、読ませていただきました。 「今の関係、壊したくないから」——おんりーくんのその言葉が、あまりにリアルで胸がぎゅっとしました。好きな人の優しさが痛いって、本当にそうだなって思います。おらふくんも、最後におんりーくんの名前を呼ぶシーン、無自覚な気持ちが見えた気がして…続きが気になります。素敵なエピソードをありがとうございます🌸