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結局、あれから阿部とは連絡を取っていなかった。普段怒りを顕にすることの少ない阿部があんなふうな態度をとることは珍しく、阿部が怒って出て行ったのは一目瞭然だったので、こちらから何と言ってメッセージを送ればいいのかわからないのが正直なところだった。それこそ怒った者勝ちで、何となく俺の方が悪かったと思わなくてはならないような気がしていたが、俺は謝るつもりなんて毛頭なかった。悪かったとも、正直思っていない。 事実、だった。自分があの時阿部へ向けた言葉は、全て紛れもない事実だったのだから。
「照、阿部ちゃんと何かあったの?」
と、ふっかに尋ねられた時も、俺はただ憮然として「別に…」と答えただけだった。
もともと、自分たちはそう頻繁に会っていたわけじゃない。もちろん仕事があればそれなりに顔を合わせるが、空き時間でさえ一緒に過ごすことは少なかった。
今だって、阿部はソファに身体を預けていて、俺はそれを少し離れた場所から眺めているだけだ。小さく口を開け無防備に眠る阿部の肩に、同じくうたた寝する目黒の頭が乗っかっているのを。
「………」
ほら、見てみろ。だから言っただろう。目黒が恋人と別れたと聞いた時既に、こうなることはわかっていたのだ。阿部だって、この日の為に本命を作らないで待っていたのだから。想定通りの展開。こうなることなんて覚悟していた。ただ、覚悟は確かにしていたけれど、俺が自分で思っていたよりもずっと、想定内の2人を見るのはつまらなかったしバカバカしい気分だった。
なんてあっけなく終わる関係だろうと思った。怒りたいのはむしろこちらの方だった。少なくとも、身体の相性は悪くなかったと思う。いや、むしろすごく良かった。だからこそだらだらと、この関係は続いていた。いつから始まったのかはっきりとは思い出せないが、それでも阿部とはもう幾度となく肌を合わせた。互いの部屋へも行き来したし、今までどちらかに特定の恋人ができることもなかった。
けれど、所詮は「さようなら」さえ言う必要のない関係だったのだ。
どうしようもない虚無感が押し寄せてくる。まだも眠り続ける2人を視界の端に映しながら、俺はタバコを取って部屋を後にした。