その日俺が事務所の食堂へ入ると、珍しく人っ子一人いなかった。腹が減っていたので適当に何品かの惣菜を取って席につく。最近はあまりここで食事をとらなくなっていたが、何だか今日は何もかもがひどく億劫に感じた。こういうのを自暴自棄とでも言うのだろうか。足を組み、半ば義務的に食べ物を口へと運んで咀嚼しながら、合間に意味もなくスマホを操作する。
「あ…」
と、声がしたので顔を上げれば、そこには困惑とも不快ともとれる何とも言えない表情を浮かべた阿部が立っていた。ポロシャツにデニム姿で、普段きらきらして爽やかな目元にはうっすら隈が浮かんでいる。まるで、傷付き憔悴したようなその顔。どうしてそんな顔をしているのだろうか。
阿部は一度踵を返すように身体を揺らし、少し足踏みした後で、ため息をひとつついてトレーを手にした。立ち去ろうかと迷った末に、結局ここで食事を摂ることに決めたらしかった。
さて、こういう時は一体どこに席を取ればいいのだろうか、と思い切り顔に書いた阿部は、いくつかの惣菜が乗ったトレーを片手に俺と同じ6人がけのテーブルの、俺が座る位置から対角線上に腰を下ろし、黙って食事をはじめた。あからさまに避けるのもおかしいと思ったのだろう。そんな阿部がとても不憫に思えて、思わずしばらくの間その姿を凝視してしまった。どうして阿部がこうも俺を避けているのかよくわからなかった。あの日怒って部屋を出ていった彼は、そもそも一体何を怒っているというのだろう。今の阿部はむしろ、喜びでいっぱいなんじゃないのだろうか。
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