作戦が決まった。結果的に、私の提案した、「夜の呼び出しの間に、挿れられた時、心臓を強化して殺す」となった。
あの痛みを知ったばかりのサペンタには、あんな痛いのはつらいだろう、とほかの作戦をしよう、と止められたが、
ある程度私はもう慣れている。死ぬほど痛くて、つらいし、妊娠していたこの2か月は感じていないが、それでも、ちょっとマシだ。
それに、私の身体強化はスキルである。ナイフで刺し殺せば、ナイフが証拠として残るが、スキルならば身一つで殺せるのだ。
しかも、傍目から見れば、ただの心臓発作か何かで死んだように見えるだろう。身体強化のスキルが、心臓を破裂させて殺せるなんて、なかなか思い浮かばないはずだ。
サペンタの法律知識によれば、「証拠がなくても、法治国家としてまだ完成しきっていないこの国ならば貴族の一声で死刑になりますが、当事者である貴族の長が死んでるので、いろいろあってなかなか実刑には至らないはず」だそうだ。
いろいろあっての部分の理解が追い付かなかったけれど、まぁ、とにかく、逃げ切れる可能性があるならいいだろう。
実行後に何をすればいいかだけ聞くと、私は証言台で「夜の営み中に突然相手が死にました、メイドも見てます」と言えば、だいたい生き残れるらしい。ほかのことは、全部サペンタが何とかしてくれるそうだ。
もしなにか実行後にしくじっても、長めの懲役刑だけで済むそうだ。サペンタがメイドで本当に良かった。
――
産後ケアとか考えず、自分の欲望を美少女である私で満たすためだけに嫁がせたあの豚は、驚くほど早くに、2か月分の私を求めるように夜の呼び出しをしてきた。しかも、サペンタも同時に呼び出された。
3Pとは、本当にやるとなれば実に気分が悪い。殺す決心がついてよかった。
部屋に向かう最中、気分は踊っていた。もう、この屋敷で不憫な生活なんてしなくていい。
どちらかといえば、踊るというより、希望に満ち溢れていた。
豚はベッドの上で半裸で座っていた。いつものように「脱げ」「なめろ」だのと命令して来た。
ここがお前の死に場所だ。口淫中に死ねるんだから、本望だろう。
二人でちろちろと舐めろ、というオプション付きでこちらにソレを出してくる。「舐める」だと身体強化発動ギリギリ範囲外だ。発動させようとしても、できない。
できるだけさっさと殺したいが、仕方ない。無理やり咥えようとして、警戒されても嫌だ。
サペンタが心底嫌そうな顔をしている。そうだ、私も最初はこうだった。かわいそう、と過去の私と今のサペンタに思う。
今も嫌だし、先輩面できるほど慣れてはいないが、私が先行しなければ、またどちらかの喉を使ってくるだろう。
そうされたいが、サペンタの喉を使われると、私の体に挿れてこない可能性がある。
私は、できるだけ率先して舐め始めた。今でも嫌な感触に思える。
「ハハ、従順になってきたな、ほら、お前も早くしろ」
豚がサペンタの顔を寄せた。少しでも顔に触れる度、絶望した、青い顔で、首を細かく振っている。
このままだと、最悪の可能性の、ただサペンタが犯されるという、非常に眼に毒で、辛いことになる。
今じゃなくても、次のチャンスはあるが、サペンタの心のほうの傷が深まることになるだろう。
私は、できる限り、舐める速度を早くして、早く口に入れさせるとか、そういう指示をさせようとするものの、
サペンタが硬直していることに豚は苛ついている。
怒りの頂点を迎えた豚がサペンタを殴ろうとして、振りかぶる。親の情すらないのか、私にもそんなことされた覚えがないのに。もしくは、わたしが従順だから、比較でこうなっているのだろうか。
しかし私は、サペンタに気を取られている間に豚のものを口に入れることに成功した。もし逃げられても、口が離れないように、大きく咥える。
さぁ、死ね!ここで死ね!身体強化で心臓を強化してぶっ殺そうとしたその時、いや、既に発動し始めた。
「失礼します」と私兵団に少ししかいない女兵が入ってきた。こいつ、3人同時に相手しようとしてたのか。
いや、それはどうでもいい、不味いのは、殺人現場を目撃されるところだ。
心臓が突然動きまくって、泡はいて死んだ、しかも、咥えているその瞬間、となれば、
私が犯人であると思うことができるだろう。毒とか盛ったんじゃないか、と思われるんじゃないか。
今、思いついただけの可能性で、サペンタとの打ち合わせもしていない、全く未知の可能性だった。
しかし既に身体強化の発動は始まっている。しかも、ガッチリと咥えている。ここで離せば、確実に不自然、もしくは豚が既に死んでいるんじゃないだろうか。その場合どうすればいいのかわからない。
答えは、その女兵の「殺人だーっ!!」という叫び声で分かった。まずい、このままでは犯人は私じゃないか……!
頭が真っ白になって、どうすればいいかわからなくなった。
「とりあえずの死亡を確認しました! 早く逃げますよ!」
サペンタに手を引かれて、裸のまま走り出す。何をすればいいかとにかく考えていると、
「普通の身体強化で私を背負ってください、そっちのほうがちょっと早いと思います」と言われて背負う。服を着てないのもあってか、サペンタは軽い。
このまま走り抜けて逃げるつもりなのだが、しかし「殺人」という言葉を聞いて現場を確認しに来ただろう走っている足音が聞こえてきた。
女兵は腰を抜かして倒れているのが見えたので、彼女ではない。別の奴だ。
メイドなら私でも倒せるし、逃げ切れる。2か月も訓練したのだ、どうとでもなる。
だが私兵団員なら無理だ。速度特化ならともかく、サペンタを背負いつつの普通の身体強化なら走っても追いつかれる。殴り合いも厳しい。
話術でなんとかなればいいが、私たちは全裸だ。かなり厳しいだろう。
相手の指を口に入れれば必殺だが、それだって不可能だろう。殴るときのこぶしの形なら指を口に入れるのは無理、武器を持っていても無理。そもそも相手の一部を口の中に入れる方法が思いつかない。豚は半裸だったし、隙を付いたから。コボルトは自分から入れてきたから。
隠れてもいいが、それはそれとして、玄関のほうを固められたりするだろう。そうなれば、脱出はかなり厳しいことになる。
頼む、出会わないでくれ……!と神に祈って走り抜けると、別の道を通ってあの部屋に行ったのか、足音の主と出会うことはなかった。
神というのは私にスキルを与えてきただけの奴で、祝福も与えてきたりしたけれど、ぶっちゃけ嫌いだったのだが、今回だけは感謝した。私たちは、逃げ切った。屋敷から、抜け出した。
――
「これで仲良く犯罪者ってわけね。逃亡犯よ」
「でも、別にいいじゃないですか。私がいるんですから、どうとでもなりますよ。
なんでもできますよ、料理とかも。食べられるものと食べられないものもわかりますし、このまま山にでも住みます?」
「いやよ、せっかく自由になれたのに。冒険者とかどう?」
「それは……
うん、まあいいですね、他国でなら。スキル持ちだし、あなたも大活躍できますよ。私の仕事ないですけれど」
「それは私の世話でいいわ。女房役なんてどう?」
「本当にあなたはブレませんね、ホキサ……」
「え、冗談で言ったのだけれど、いいの?サペンタ。呼び捨てって、夫婦とかの間柄じゃないとしないと思うんだけれど」
「あなたが名前で呼べって言ったんじゃないですか……まあ、もういいですけれど。もう夫婦で。
めんどくさくなりました。一蓮托生の関係なんですから、実質夫婦ですしね」
「えっ!?冗談で言ったんだけれど、本当にいいの!?」
「あーもううるさいです、いいって言ってるじゃないですか」
「やったわ!!!さぁ行くわよ、旦那様!」
あんな豚が旦那様だったとかいう事実には目を向けない。
とりあえず、こんなに頭のいい旦那様がいるのだから、幸せだ。
それで、いいだろう。終わり。
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