「いったぁ…」
自室に入ると殴られた手の甲を押さえる。血は出ていなかったが小さなアザが存在。
「……あれ、本当に華恋さんなのかな」
椅子に腰掛けて頭を捻った。サスペンスドラマの主人公にでもなったかのような気分に浸りながら。
逆上して怒鳴り散らしてきた女の子。その子と昨日までの彼女がどうしてもイメージの中で結び付かなかった。
「見間違いか…」
別の可能性を考えたがそれは絶対に有り得ない。宝くじが高額当選するぐらいの確率で。
「ただいま~」
「お?」
真相を確かめに行くべきか悩んでいると妹の声が聞こえてくる。玄関の扉を開く音と共に。
「おかえり」
「ただいま……ってどうしたの、その怪我?」
「ん? これ?」
階段を下りた所で彼女と鉢合わせ。対面早々に絆創膏の貼られた左手を指差された。
「漫画のキャラの真似? 高2のクセに発症した中二病?」
「違うって。本当に怪我したんだよ」
「あらま。何やらかしたんですか、お兄様」
「これさ、実は…」
躊躇いながらも先程の出来事を語ろうと決意する。自宅で起きた暴行事件についてを。
「ごめんなさい、私のせいなんです!」
「え?」
その瞬間に乱入者が登場。開いた襖から華恋さんが姿を見せた。
「私が部屋の片付けをしていたら突然上から荷物が落ちてきて。それで私を庇った雅人さんが怪我をしてしまったんです」
「え? そうなの?」
「……へ?」
「本当にごめんなさい!!」
「え、え?」
「私の不注意です。すみません!」
「いや、あの…」
彼女は話に割り込んでくるなり頭を下げてくる。理解不能な台詞を口にしながら。
「ごめんなさい、ごめんなさい」
「そんな何度も謝らないでください。華恋さんは何も悪い事していないんですから」
「で、でも…」
その言動に思考が停止。言葉を交わす女性陣のやり取りを呆然と眺めていた。
「私の注意力が足りなかったばかりに雅人さんが…」
「だ、大丈夫です。これぐらい平気ですから」
「けど…」
「怪我とか慣れてるんで。昔はよく転んで膝を擦りむいたりしてましたし」
「……そうなんですか」
「だからあまり気負わないでください。本当に何ともないですから」
「あ、ありがとうございます」
そして自分まで嘘の都合に意識を調整。口から出たのは犯人を庇う発言だった。
「あの…」
「は、はい?」
「もしこの怪我のせいで困った事があったら何でも言ってください。私、雅人さんの為なら何でもしますから!」
続けて華恋さんに両手を握られる。一本一本が華奢な指に。そんな彼女の顔を直視出来なくて無言で頷く事しか出来なかった。
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キャッ(*/□\*)
わぁ、恋生まれそう、?