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こちらはirxsのnmmn作品(青桃)となります
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ご本人様方とは一切関係ありません
小児科医青×天才外科医桃
のお話です
2話前のエピソードがなぜセンシティブ設定に変更されたのか全然理解できてないんですが…自分では戻せないんですね…
仕様になれてなくてちょっと戸惑ってます
センシティブ期待して開いた方がいたらとっても申し訳ないなの気持ちです
桃視点
例の女医が先に部屋から出て行った後、その場は当然賑わったままだった。
「小児科に元カレ!? 誰だろ!?」
「いふ先生しかいなくない? あそこの科、あとはおじさんか女医しかいないじゃん」
「えー美男美女!!! お似合い!」
きゃいきゃいと盛り上がる甲高い声が耳につく。
不快に眉を顰めてちっと舌打ちをすると、俺はそのまま椅子から立ち上がった。
これなら少し遠いが図書館まで出向いた方がマシだ。午後の診察まではまだ時間があるから、調べものを片付けてこよう。
騒ぐ彼女たちを横目に、扉を開く。
廊下に出た途端に気温が下がった気がして、思わず一度身震いした。
隣にある管理棟へ移動し、その2階にある図書館を目指す。
ここに来るのは久しぶりだった。
前も医長にどやされて必死で勉強したときに、缶詰状態になったことがあったっけ。
この部屋でも当然セキュリティーは完備されている。
壁面に埋め込まれている機械にICカードをかざすと、ピッと音が鳴ってガラス扉が横にスライドした。
開かれた中に入ると、受付カウンターに司書がいる以外は誰もいない。
物音一つしないせいか足音を立てるのも気が引けて、一番奥の一番端の席まで静かに歩いて行って座ろうとした。
だけどその瞬間、グラリと眩暈がして思わず机の上に手を突く。
…あー、やばい。さすがに倒れそうかも。
こんなところで医者がハリーコールを要請するなんて事態になったら笑えない。
栄養不良と睡眠不足からくる眩暈か、もしくは単なる貧血だろう。
ちょっと座って安静にしていればきっとよくなる。
そう思って何とか目の前の椅子を引き、机に肘を突いて頭を抱え込んだ。
「…具合悪いの?」
どれくらいそうしていたのか、やがて伏せた頭に高めの声が降り注いできた。
その頃には大分マシになっていた眩暈だったけれど、その声の主に心当たりがあって別の意味での頭痛を併発しそうだった。
ゆるりと顔を上げると、やはり例の女医がそこにいる。
無表情でこちらを見下ろしているかと思うと、俺の向かいの席の椅子を断りなく引いた。
「最近ずっと体調悪そうよね。今日は特にひどくない?」
誰のせいだ、という言葉は飲み込んだ。
発端は彼女ではあるけれどその指導が間違っているわけではないから、そこは単に俺の技量不足だ。八つ当たりできる立場でもない。
「医長に許可取っておいたから、今日はもう帰っていいわよ。あと明日も来なくて大丈夫」
「…は…?」
「明後日出勤したときでいいから、事後申請だけは自分で出しておいて」
いやいやいや、ちょっと待て。何を勝手に決めてるんだよ。
そう言いかけたけれど、今や彼女は俺の上司みたいな立場にあるので強く文句は言えない。
「…大丈夫です、もう大分良くなりました」
「『大分良くなった』かなんて、どうでもいいのよ。ちゃんと休んでちゃんと治して来なさいって言ってるの」
返ってきた正論に、ぐ、と息を詰まらせる。
呼吸がしづらくなったのは言い返せなかったせいではなく、苦手な人間を前にしているときの息苦しさのせいだろう。
体調の自己管理がなっていないまま診察室に入れば、患者に迷惑がかかるかもしれない。
そう暗に言われていることが分かったから、俺は浅くなったその呼吸のままで仕方なく声を絞り出した。
「…帰ります」
「うん、そうして。午後の代診は私が引き受けるから」
素直なこちらの返答に満足そうに頷くと、彼女は組んでいた長い足を下ろした。
そしてそのまま立ち上がろうとする。
「…一つ、聞いてもいいですか」
話は終わったと言わんばかりに立ち去りそうな彼女に、無意識のうちに声をかけてしまっていた。
だけどそんな言葉を発したのが自分だと自覚した瞬間にもう後悔する。
決して呼び止めてそれ以上の話を望んでいたわけではなかったはずなのに。
「なぁに」
少しだけ間延びしたような声が降ってくる。
だけど彼女の目を見据え返すことはできず、わずかに逸らした視線を泳がせて言葉を継いだ。
「…会えたんですか、小児科の元カレには」
仕事の話をされると思っていたんだろう。
プライベートな話を切り出されて、彼女が一瞬驚いたのが空気で分かった。
だけどそれも刹那のことで、次の瞬間には「なにそれ」と少しだけ声を弾ませる。
まるで聞いて欲しかったかのような響きだ。
そしてさっきまで座っていた椅子に腰を下ろし直す。
「さっきの、聞いてたの? 小児科に元カレがいるって話」
「……まぁ…」
聞きたくなくても聞こえてきただけだ、という声は空気と共に飲み込んだ。
そんなこちらの様子には気づいていないのか気にならないのか…机に肘をついて、組み合わせた手の上に小さな顔を乗せる。
そのままこてんと少しだけ首を傾けた。
「まだ会えてないのよね。向こうもこっちも忙しいし…まぁでも、そのうち会えるでしょ」
何の根拠があってなのか分からないが、彼女の声は自信に満ちているように聞こえる。
そこでようやく逸らし気味だった目線を戻し、彼女の顔を直視した。
その「元カレ」をよっぽど想っているのか、嬉しそうな微笑みが視界に映る。
「運命…ってさ、あると思わない?」
「……は?」
「事情があって別れた2人でも、何年かして『やっぱりあの人じゃなきゃダメだ』ってお互い強く思う…そんな運命みたいな巡り合わせって、確実にあると思うのよ」
顔と態度に似合わず、随分乙女チックなことを言うんだなと思った。
普段の仕事っぷりから見れば、もっとサバサバとしたリアリストに見えるのに。
「…その小児科の元カレが、運命の相手だって思うんですか?」
問うと、彼女は唇の端を持ち上げて笑んだ。
妖艶というほど仄暗い色気があるわけではない。
だけど確実に「女」の顔をしていた。
「高校の時にね、他校の人と付き合ってたの。その時私の高校近辺で医学部志望の人たちの集まりみたいなサークルがあって、そこで知り合った人で…。大学のときに仕方なく別れたけど、また会える気がしてたのよね」
聞いてもいないそんな詳細を話し始めた彼女は、普段よりも饒舌だった。
聞きたくない、とその口を閉じさせることもできたはずなのに、初めて耳にする情報に言葉が出てこずただ耳を傾けてしまう。
医師になりたい高校生のサークル…? そんなもの聞いたことがなかった。
「ないこ先生、そう言えば私の元カレと同じ高校だったはずだけど、そのサークルには入ってなかったのね」
「……俺の高校知ってるんですか?」
「知ってるわよー。高校生の頃から有名だったもん。隣の学校のピンク頭の美少年」
…嘘だ。確かに目立つ髪色ではあっただろうけれど、他校にまで知れ渡るほどまで有名だったわけがない。
彼女が口にする言葉の一つ一つが新たな真実を告げるかのように、脳内のパズルを組み立てていくのを感じる。
そんなサークルがあり、まろがそこに所属してた…? そんな話知らない。
だけどあいつにそんな隠れた居場所があったのなら、高校時代に俺の知らない彼女がいたとしてもありえない話じゃない。
幼馴染みで学校も同じだったとは言え、学年も違うし24時間一緒にいるわけじゃないんだから。
俺の知らないまろがいてもおかしな話じゃない。
だから…まだ俺と付き合う前のあの時なら、まろに恋人がいても非現実的ではなかった。
そうしてそんな出会いがきっかけで、小児科医を目指すようになったのかもしれないなんてことも。
だからあの時、まろは俺に小児科医を目指した理由を語りたくなかったんだろう。
それを話しだしたら、俺に当時の彼女のことも言わなければいけなくなるから。
つまり、彼女が俺のことを知っているのは噂からなんかじゃなく、当時まろから直接聞いていた…とかじゃないのか?
「ないこ先生は、今恋人いるの?」
話題をすり替えるように問い返され、俺はもう一度目線を上げた。
机に頬杖をつき、こちらを探るように覗き込むその目がいやだ。
彼女が先輩・上司なんて立場じゃなければ思いきり舌を打っていたに違いない。
「…いますよ、一応」
俺のそんな答えに、彼女は一度目を見開いたようだった。
わずかに驚いたのか、しかしそれからすぐに表情を戻す。
ふっと鼻であしらうように笑ったのが分かった。
「『一応』なんて言ったらその恋人がかわいそうじゃない?」
揶揄するような口調と眼差しに、「…あぁそうか」なんて気づかされる。
……やっぱり知ってる、この女。俺が今誰と付き合ってるのか。
「帰ります。お先に失礼します」
「うん、気を付けてね」
彼女よりも先に席を立って、机に置いたままだった荷物を拾い上げる。
それらを手に俺は逃げるように足早にそこを後にした。
俺とまろが付き合ってるって知ってて…それでいて「運命の相手」だなんて言ってくる辺り、奪い取る気が満々な証拠だろ。
来たばかりで何もできないままだった図書館を出て、俺は不機嫌な顔のまま医局の方へ向かった。
不愉快な感情が露わになる。
いつもより歩調は速く重く、ドスドスと踵を鳴らした。
それにつられて揺れる白衣の裾が、自分の機嫌の悪さを表すように視界にちらちらと映る。
ちっと今日何度目かの舌打ちをして、それが目に入らないようにまっすぐ前を見据えて歩いた。
「ないこ」
声をかけられたのは、医局の手前の渡り廊下に差し掛かったときだった。
外を歩いていたまろが俺に気づいたらしく、こちらを呼ぶ声が耳に届く。
すぐ傍の窓は全開になっていて、まろは向こう側からそこに近づいた。
…あぁ、何でこのタイミングなんだよ。
会いたくなかったのに。
こんな顔、見られたくなかったのに。
「顔色悪いやん、大丈夫なん?」
そんな心配そうな声を出すなよ。
昔彼女にもその優しい声をかけていたのかと思うと、嫉妬で頭が狂いそうになる。
…「俺たちはもう嫉妬なんてするような次元じゃない」なんて、ついこの前まで偉そうに言っていた自分が嘘みたいだと思えた。
「……俺、今から早退することになったから」
「え! やっぱり具合悪いん!?」
外の地面はこの渡り廊下より少し低くなっていて、いつもは見上げているまろの顔が少し下に位置する。
その目を見つめ返すこともできず、また俺は先刻彼女に対峙したときと同じように目線を逸らした。
「いや、最近本調子じゃないから帰れって言われた。明日まで休んでこいって」
「…あぁ、そう…」
今すぐどうこうというほど体調が悪いわけではないと知って安心したのか、まろが胸を撫でおろしたのが分かった。
ほっと息をつき、窓の向こうからこちらへと手を伸ばしてくる。
「俺今日早出やったから、夕方にはあがれる。なんか食べたいもんある?」
「…俺…」
窓枠を越えてこちらに届きそうだったまろの手を、ぱしっと払いのけた。
顔は横に向けて逸らしたままだから、まろがどんな表情をしたのかは分からない。
「今日は実家帰るわ。ちょうど俺に用があるみたいで、いつ帰って来るのかって最近親にうるさく聞かれてたし」
咄嗟に口から出た嘘はとても良策とは言えなかった。
でもこんな状態で家に帰って、まろと過ごすなんて無理だ。
だけどまろを納得させる他の場所なんて、実家くらいしか思いつかなかった。
俺の母親や妹がよく「いつ帰ってくるの」なんて口癖のように言っているのを知っているから、まろも問い詰め返したりはできないはず。
「ないこ、あのさ…話を…」
「まろは…」
まろが何かを言おうと口を開きかけたのに、上から言葉を被せてそれを防ぐ。
唇を噤むしかなくなったまろが、取りつく島もないというような俺の様子に困ったように眉を下げたのが分かった。
「俺に隠してることない? 高校のときのこととか」
「…高、校……?」
こちらの言葉を復唱する声が、不自然に途切れる。
何か思い当たることがあるのか、それとも本気で俺が暗に示していることを分かっていないのか…どちらなのかは読み取れなかった。
「…ないこ、それ…」
「ないこ先生! ちょっと思い出したことがあるんだけど…」
更にまろの声を遮るように、廊下の後ろから高い声が俺を呼び止める。
…本当に、なんてタイミングだよ。
ゆっくりと振り返る俺の視界に、どうやら俺を追いかけてきたらしい彼女の姿が映った。
話しかけようとしていた対象の俺が、誰かと会話中だったという事実に彼女はようやくそこで気づいたらしい。
そしてその相手を視界にとらえて、大きな目は更にぐわっと見開かれていく。
あぁ、何でこんなに間が悪いんだろう。
元カレに会いに来たと豪語する彼女が、その相手と再会する場面に出くわすなんて。
しかもその相手が今は俺が付き合ってる相手で?
ドラマや漫画でだって今日日こんな展開使い古されすぎてありえないだろ。
俺の肩をすり抜けるように、向こう側へ移った彼女の視線。
まろの姿を映したその目は、驚いた後にゆっくりと細められた。
とても嬉しそうに、弾むような声と共に。
「いふ!」
呼び捨てでまろの「名前」を呼ぶ彼女の声は、今まで俺が聞いてきたものではなかった。
もっとこう…親しみを込めた、嬉しそうな響きだった。
「…な…んで…?」
まろの方は、彼女を見つめ返してただただ声を失っている。
絶句するように息を飲んだ後、ようやく途切れがちの声を絞り出した。
「何で、ここに……?」
この後、まろはどうするんだろう。
元カノに会えて嬉しくなって笑顔を浮かべる? それとも俺に知られたくないと思って隠そうとする?
彼女と同じように「運命」を感じているのなら、俺はこの後お前の中でどんな存在にカテゴリー化されるんだろう?
そのどれも、知りたくないと思ってしまった。
「…俺帰るわ」
2人の次の反応を見る前に、俺はようやくそれだけ言う。
廊下に縫い付けられていた足を、何とか前へ前へと…その一心で動かした。
「え、ないこ…!」
慌てて呼び止めようとするまろの声にすら、立ち止まらない。
逃げるようにそこを後にして、暗い医局の扉の中へ自分の影ごと飛び込んだ。
(続)
コメント
9件
これから元の関係に戻るのかな?まじで続きが見たい!待ってます
わぁぁ...なんか、、悲しいよぉ お2人とも仲直り出来るとええなぁ... 青さんなんか訳ありっぽそう? 続き楽しみに待ってます
なんかッめっちゃ切ないッッ!! もとの関係に戻って欲しい!!