【お願い】
こちらはirxsのnmmn作品(青桃)となります
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ご本人様方とは一切関係ありません
小児科医青×天才外科医桃
のお話です
青視点
「ないこ!」
呼び止めようとするこちらの声に、あいつは決して振り返らなかった。
すぐ傍には窓しかないため乗り越えるわけにもいかず…何より目の前に他の人間がいるのにそこまでなりふり構わず追いかけるわけにもいかない。
ないこの後ろ姿を見送るしかなくなった俺は、医局の中に消える影を茫然と見やるだけだ。
「…えっと…」
ないこが飛び込んだ医局の扉が、ぱたんと閉まる音がする。
それを俺と一緒に見守っていた「彼女」は、そこで初めて俺とないこの間に流れる不穏な空気に気づいたようで、戸惑い気味に小さな声を出した。
「…何、ケンカしてるの…?」
「……」
「……もしかして…私、何かした感じ?これ」
「……今やっと全部理解した……そういうことか…」
はーーーっとわざとらしいくらいに大きなため息をついて、俺はうなだれるようにして壁にもたれかかる。
外壁の汚れのせいで白衣が黒ずむのではないかなんて心配は、この際どうでもよかった。
「で、何でここにおるん?」
横目でちらりと見やると、彼女は廊下側から少し身を乗り出すようにしてこちらを見つめ返す。
ふふ、と艶っぽい笑みを浮かべてポニーテールを揺らした。
それを目に留めて、そのポニーテールすらきっと今回の騒動の一因を担ったのだろうと察しがつくと思わず舌打ちしそうになった。
「いふに会いに来たって言ったら…どうする?」
「今すぐお帰りください」
即答すると何がおもしろかったのか、彼女はげらげらと笑いだした。
…全く、本当に高校時代と変わらない。
そう思ったその瞬間、ふと思考が止まる。
……「高校」……?
「なぁ、ないこに何か言うたやろ? 高校時代のこととか」
「え? いふのことは何も言ってないわよ。私が高校時代に医学部志望の人たちのサークルに入ってて、そこでないこ先生と同じ学校の人と付き合ってたって話しただけ。あとその元カレが今はここの小児科にいるってことくらい」
頭いっぱいに疑問符が浮かんでいるのか、彼女は小首を傾げながらそんな答えを寄越す。
……あぁ、頭痛がする。本当に、頭は良いくせにこういうところが抜けているんだ昔から。
…いや、抜けすぎている 。
加えて言葉も足りなさすぎる。
悪意もなくわざとでもない…だけどそれが、紛れもなく「彼女」の特徴だ。
「……あのさぁ…」
「いふがそのサークルにいたってことは言ってないし、大丈夫でしょ」
いやそれくらい察するに決まっとるやん。
さっきないこが口にした言葉が蘇る。
「高校のときのことで俺に隠してることない?」なんて言った一言を。
彼女の言葉から色々とねじ曲がって伝わっている証拠だ。
「…最近ないこが体ぶっ壊れるんちゃうかってくらい仕事と勉強に集中し始めた理由も分かったわ。最初は俺を避けたいからかと思っとったけど…そういうことか」
「…な、なによ…」
「また悪癖が出たんやろ。気に入った後輩を自分好みに叩き上げようって」
「だ、だってさぁ…!ここの外科、優秀揃いって聞いてたからうきうきしてたのに、どいつもこいつも全然大したことなくて!ないこ先生くらいなんだもん、将来楽しみなくらい優秀なの!」
「ちょっとは加減して。いくら体力無尽蔵のあいつでも底尽きるわ」
はぁ、とまた大きめのため息を漏らす。
彼女もさすがに最近の体調の悪そうなないこを目の当たりにして少しは反省していたところだったのか、ぐっと言葉を詰まらせた。
だけどそれも一瞬のことで、すぐに勢いよく顔を上げる。
反撃に出ようとしているらしく窓枠についた体を更にこちらに乗り出した。
「そもそも…そもそもよ? もし私が何かまずいこと言ってないこ先生に誤解させたんだったら謝るけど、最初からあんたが高校の時からちゃんとサークルに入ってること言ってればよかったんじゃないの? むしろ誘って入れてあげてればよかったんじゃないの? 実際当時も『幼馴染も医者志望なら呼んでよ』って皆に言われてたじゃない」
「……」
…ものすごく話が飛躍したな。
そう思ったけれど呆れが先に来て、思わず薄く開いた唇をそのままに彼女の顔を大真面目に見つめ返すしかなかった。
「一目見ただけで分かっちゃったもん。あんたのかわいいかわいい『ピンクちゃん』。高校時代も溺愛してたから、サークルなんかに誘って人目につかせたくなかったのよねー」
「……」
「かわいいとこあるわよね、いふって昔から」
からかうような言葉に、久々に本気でイラっときた。
冷たい眼差しで彼女を一瞥すると、言ってやったと言わんばかりにニヤリと笑みを浮かべられる。
それを見やってから、俺は彼女に答えを返すこともなく自分の白衣のポケットに手をやった。
そこにあるPHSをおもむろに取り出す。
「え、何してんの…」
目を丸くする彼女の言葉を無視してカチカチとボタンを操作し、ある番号を呼び出した。
俺の高校時代の先輩で、今ではここの小児科の同僚であるドクターの番号だ。
「……あ、近藤先生? おつかれさまです」
ワンコールで応じた柔和な声の主に、そう挨拶をする。
すると隣で彼女は目を見開いた。
それから大慌ててで俺の手からPHSを取り上げようと、更にこちらに身を乗り出す。
それをひょいと軽くかわした。
「え? あぁ違います、仕事の話じゃないんですけど今ちょっといいですか? 先生、知ってます? 先生の元カノが日本に帰ってきてて、今うちの外科におるって………あ」
そこまで言って、俺はPHSを耳から離した。
通話がぶった切られ、ツーツーと不通音が流れる。
そんなPHSを少し掲げるようにして彼女に見せ、にやりと笑って返した。
「すごい勢いで切られたわ。よっぽど会いたくないんやね、向こうは」
「~~~っ本当にあんた性格悪い! 昔から! ないこ先生にバラしてやろうかな!!!」
「どうぞご自由に。ないこもそれくらい知っとるわ」
「大体ねぇ、あんた私に敬語使いなさいよ!これでも先輩なんですけど!?」
「あーもう、そういうこと言い出す辺りがほんまに幼稚」
肩を竦めてそう返した時、頭上の窓ががらりと開く音がした。
2階のそこからひょこりと水色の頭が出る。
「あ、いふくんここにいた! 早く戻ってよ何油売ってんの!」
しばらく俺を探し回っていたのか、ほとけが唇を尖らせながらそんな声を降らせてくる。
「あー今戻る」と言い置いて、俺は壁面から背中を離した。
上体を起こしてPHSを白衣のポケットに戻すと、病棟の方へと足を向ける。
「あ、ねぇいふ! やっぱり私が何かしたんだったらないこ先生に謝りたいんだけど…」
「……」
背中にかけられた声に、最後にもう一度だけ彼女の方を振り返った。
いつも凛として自信に溢れた目はわずかに揺らいでいて、反省しているのか困ったように眉を下げている。
「…いいよ、俺から話しとく」
原因が分かったなら、遠慮なく捕まえにいかせてもらうから。
そう思って彼女には小さく首を横に振ると、じと、っとした目が睨むようにこちらを見据えてきた。
「本音は?」
「『これ以上余計なことすんな』」
んはは、と笑って言うと、「きぃぃぃ!」なんて漫画に出てくるようなヒステリックな声を上げ返してくる。
それにもう一度口元を緩めて笑んでから、俺は左手を後ろにひらひらと振ってその場を後にした。
(続)
コメント
8件
続き楽しみ!
青さんかっけぇ✨ 女医さんの悪い癖かぁ... 青さんが桃さん思いなことが分かるお話だぁ 続きも楽しみに待ってますっ
いふくんがないちゃんのことを大事にしてるのが伝わる!! 女医さんをまかしてるいふくんかっこいい!!