「朱里、これお願いね」
「は~い、お待たせしました。だし巻き玉子と明太ポテトサラダです」
「ありがとうございます。僕、ポテサラがすごく好きなんです」
「たくさん食べて下さいね。直江さん」
常磐社長に教えてもらい、やって来た「灯り」。
早速、名前で呼んでもらえるのはやっぱり嬉しい。
だし巻き玉子とビール。
仕事の後の疲れた体に染み渡り、生き返るようだ。
「いらっしゃい、双葉ちゃん」
えっ……?
そんな……
「ママさん、こんばんは。お腹空いたぁ」
「お疲れ様。じゃあ、生姜焼きはどう?」
「うわぁ、美味しそう。ぜひ」
「少し待ってね。すぐ用意するから」
「ありがとう」
可愛い見た目、声、この人は双葉さんだ。
たった3回しか会ってない人だけど、見間違えるはずがない。3年経っても……ずっと忘れられない人だから。
「あの……双葉さん?」
勇気を振り絞って声をかけた。
心臓がバクバクする。
「えっ、涼平先生!?」
やっぱり双葉さんだ。
名前を呼ばれ、僕のことを覚えていてくれたことに感激した。でも、本当に、こんなところで会えるなんて……
「お久しぶりです、双葉さん」
「え? 双葉、直江さんと知り合い? しかも、涼平先生って」
朱里さんが驚きながら言った。
「うん。涼平先生は、理仁さんと同じ、TOKIWAスイミングスクールのインストラクターさん。レッスンも楽しくて」
理仁さん……?
双葉さんは、常磐先生を名前で呼んでる?
「そうなんだ。直江さんはインストラクターさんだったんですね」
「え、ええ。話してなかったですね。常磐社長と常磐先生……あ、理仁さんにはすごくお世話になってるんです」
「そうなんだぁ、それでうちに来てくれたんだ」
「はい、社長に勧められて。でも、本当に久しぶりですね。あの時、すぐに辞められたから心配してました」
「すみません、あの時は勝手に辞めてしまって。涼平先生にはよくしてもらったのに……」
「いえ、そんな。とにかくお元気そうで良かったです。あの、双葉さん。この後、少しお時間もらえませんか? 伝えたいことがあって」
「あ、ええ……。わかりました」
いきなりの誘いに引かれてしまったかも知れない。
かなり強引だとは自分でもわかってる。でも、どうしてもこのチャンスを逃したくはなかった。
小刻みに震える手。
上手く箸が持てない。
双葉さんに会えた驚きと喜びで、「灯り」の美味しい食事を楽しむ余裕は完全に消えてしまった。
食事を終え、双葉さんと2人、空いていた奥のテーブルに座った。
「すみません。せっかくゆっくりされてるのに」