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翌日、二人連れ立って現場に行くと、辺りは物々しい雰囲気に包まれていた。
スタッフがバタバタと走り回り、そこかしこから指示の声が飛ぶ。
「おはよう。やけに騒々しいけど……何かあった?」
近くにいた雪之丞に声を掛けると、彼は一瞬ビクッと肩を跳ねさせてから蓮の方に視線を向ける。
「蓮君! えっとボクたちも今来たばかりで何が何だか……」
「私達が到着した時にはもう、こんな状態で……スタッフも誰一人詳細を教えてくれないし、訳がわからないんです」
どうやら二人も状況が把握できておらず、困惑しているようだ。
「現場にはトラブルは付き物だし、俺たちある程度の修羅場は乗り越えて来たけど……今回はなんだろう?」
ナギが不安気に蓮の裾をギュッと握りながら問いかけて来る。
最近は結束力も高まって来ており、いつもならもっと和気あいあいとしている現場で、こんなに雰囲気が張り詰めている事はあまり無かったのに。
スタッフたちの慌てっぷりから察するに、何かが紛失したか、もしくは見付かってはいけない秘密文書が見つかったか……。
それとも、また何かあの役立たず監督が何かやらかしたのだろうか?
「取り敢えず僕は兄さんに連絡を取ってみるよ。 ……そう言えば、美月君は? 今日は一緒じゃ無いのかい?」
スマホを弄りながら姿の見えない美月の行方を問うと、結弦が気まずそうに視線を泳がせた。
「それが……今日は、その……。姉さんとは会ってなくて」
「会ってない? それってどう言う……」
確か結弦は美月と共に実家暮らしだった筈だ。それなのに、会ってないと言うのは一体どういう事なのか。
もしかして、先日のMISAとの一件で自信を無くしてしまって嫌になってしまったとか? いや、まさか! 昨日会った時にはそんな素振りは全く見せていなかった……。 それか何か事件に巻き込まれたとか? 一抹の不安が脳裏を過ぎる。
「昨日は久々のオフだったので……その……友人と少し出掛けてたんです。それで、うっかり終電を逃してしまったので……」
おやおや? これはもしかして? そう言う事なのだろうか?? 昨夜、自分たちが雪之丞とのデートを目撃していたとは露ほどにも思っていない様子の弓弦に、蓮はにやりと笑ってみせる。
「へーえ? なにそれ、意味深だな。もしかして恋人とか?」
「ちっ、違いますよ! 只の友人です!」
慌てた様子で顔の前で手を振る弓弦の顔が赤い。否定のしようがないほど嘘が下手だと蓮は思った。
映画の中の人物と同一人物だとは到底思えない。 チラリと雪之丞の方を見れば、居た堪れないのかスマホに視線を落として聞こえない振りをしている。
もっと突っ込んで色々と聞きたいところだが、流石に今はそんな事をしている状況では無さそうだ。
「まぁ、いいや。その辺の事は落ち着いたらじっくり聞かせて貰おうかな。ねぇ、雪之丞? お前も気になるだろ?」
「ひゃいっ! えっ、え……っあ、ぁあごめんっ聞いてなかった」
こちらは弓弦よりもっとわかりやすい。わざと話を振ってやればあからさまに肩を跳ねさせ、視線を思いっきり泳がせる。 その様子にドs心が擽られ、つい根掘り葉掘り聞きだしてやりたい衝動に駆られたがナギにわき腹を小突かれて、ハッとして口を閉じた。
「もー、駄目だよお兄さん。今はそれどころじゃないでしょ。その件は、後で詳しくと追及しよ? ね?」
「ちぇっ……わかったよ。仕方ないなぁ」
明らかに挙動不審な二人の関係が何処まで進展したのか正直かなり気になるのだが、仕方がない。それにしても、美月も東海も何処で何をしているのだろう?
そんな事を考えていると、背後からバタバタと煩い足音が聞こえて来た。
「はよーっす。あれ? みんな早くない?」
「はるみん!」
小走りに駆けて来たのは、東海だけだった。東海は廊下に集まっている面々を見比べ、何かおかしいと思ったのか首をかしげる。
「おはよう、東海。美月さんは一緒じゃないのかい?」
「あぁ、美月なら凛さんに呼び出されて、随分前に此処に着いてるはずだけど……。確か今日は『役作り』のための個人的な指導を受けるからって前々から約束してるって言ってたから」
「役作り? そっか、よかった彼女に何かあったわけではないんだね?」
「え? う、うん……多分? って。アイツいないのか。って言うか、アンタ
達は廊下で何やってんだ?」
「弓弦君の恋愛事情について追及しようと思ってただけだよ」
「っ!? 何ですかそれっ!? だから、友人との食事会だったと言っているでしょう?」
蓮の一言にすかさず弓弦が目を丸くして反論してくる。その横で雪之丞が顔を伏せて困惑しており、蓮はにやりと口角を上げた。
「草薙君の恋愛事情? 暇人かよ」
「えー、でもはるみんは気にならない?」
「別に。つか、呑気すぎだろ」
寧ろこの状況で動じないあたり、東海の方が大物のような気がする。
「でもまぁ、とにかく。美月さんに何もなくてよかった」
「そうだね」
蓮の言葉に、その場にいた東海を除く3人が頷いた。
「それにしても、じゃぁなんでこんなに慌ただしくしてるんだろう?」
「うーん? 俺ら放置するくらい忙しいって珍しいよねぇ」
これじゃぁ堂々巡りだ。取り敢えずバタバタしているスタッフの一人を捕まえて話を聞かなくては。
顔を見合わせそんな事を話していると、話題が逸れて何処かホッとしたような表情を浮かべた弓弦が小さく「あっ」と声をあげた。
「今、マネージャーからメッセージが届いたんですが……。今日使用する予定だったスタジオの機材トラブルらしいです」
「機材トラブル?」
「はい。マネージャーによれば、朝一で出社したスタッフが現場のチェックを行おうとスタジオを覗いてみた所、天井からメインのライトが落ちていたと」
「うっそ、何それこわっ! あれって落ちるものなの?」
話を聞いて一同騒然となる。もし、演技中に部屋のライトが落ちてきたらと思うと……背筋が凍る思いがする。
「いま、マネージャーが他のスタッフと一緒に、急いで交換用の機材を手配してるらしいんですけど……。いつになるか正確なことはわからないそうです。原因は不明……」
「成る程。それじゃぁ確かに皆、混乱しても仕方ないね」
「……うん。でも、こんなトラブルは滅多にない筈なんだけど……」
ふむ、と蓮は思考を巡らせた。
いくら長年使われてきたスタジオとはいえ、あんな大きな照明器具が“自然に”落ちるものだろうか。
偶然にしては出来すぎているような気がしてならない。
ぞわりと背筋を撫でる嫌な感覚を覚えながら、蓮は無意識にナギの手を握り締めていた。
「あ! 蓮さん居た!」
「え?」
突然声を掛けられ、顔を上げると視線の先には息を切らせた美月の姿。
「良かった。遅いから心配したよ……。と言うか兄さんは? 一緒じゃないのかい?」
「連絡も入れずに遅れたのは本当に悪かったと思ってるの。でも、これには深いワケがあって……」
モゴモゴと口籠る美月に一同は互いに顔を見合わせ首を傾げる。
「それって、機材トラブルの件と何か関係あるのかな?」
「え? 機材トラブル?」
きょとんとして首をかしげる彼女は、とても演技をしているようには見えなかった。恐らく、本当に何も知らされていないのだろう。
「そう言えば此処に来る途中スタッフがバタバタ走り回ってたわね。何があったの?」
「面倒くせぇな。それは後から教えてやるから、そっちでなにがあったのか教えてくれよ」
面倒くさそうに問う東海の声に、美月はふぅと息を吐き出してからすっと視線を前に向ける。
「えっとね、何処から説明していいのかわからないんだけど……。今朝、凛さんに演技の個人指導を受けていたら扉の隙間に封筒が挟まってたの」
言いながら美月はポケットから一枚の白い封筒を取り出して見せる。コンビニでも買えそうな封筒の中には、三つ折りになった紙が一枚入っていた。
一斉に美月の手元を覗き込むと、そこには雑誌や新聞の文字を切り取った文章が貼り付けられており、『ミドウ レンをコウばンさセよ』と、記されて
あった。
「――これ……」
「誰かの悪戯にしては名指しだし、気味が悪くて。しかも……刃物でずたずたになってたのよ。蓮さんのスーツ……」
「えっ!?」
「衣裳部屋は厳重に鍵が掛かってた筈なのに、蓮さんのだけが破れてて……。流石にこれは事件性が高いって事になって、慌てて蓮さんに連絡入れようとしたんだけど、なんでか電波が上手く繋がらなくって……それで、急いで走って来たんだけど……」
美月の言葉に、その場にいた全員の表情が一気に強張った。
「ねぇ、お兄さん……もしかして、天井が落ちて来たのって偶然じゃなくって……」
「蓮さんを狙っていた可能性が大きいですね」
「――ッ」
ぐっと息が詰まるような思いがした。自分が狙われるなんてそんなまさか……。だが、これは明らかに悪意を感じる。
一体誰がこんな事を……。
ゴクリと息を呑む音がやけに大きく響く。ぐっと息が詰まるような思いがした。
自分が狙われるなんて、そんなまさか――そう思いたい。だが、これは明らかに悪意を孕んでいる。
一体誰が、何のために。
答えの見えない問いが頭を巡る中、現場の空気は凍りついたままだった。