テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
昼休み。
風音は、いつものように屋上へ向かっていた。
風音「……今日もここか」
屋上の扉を開ける。
風が吹き抜け、シルバーの髪が揺れた。
風音はフェンス際まで歩き、適当な場所に腰を下ろす。
背中から伸びている六本の腕も、それぞれ好きな場所へ伸びていた。
一番上の手は風音の髪を弄り。
別の手は弁当を開け。
また別の手は、風音の肩に乗っている。
風音「……だから、自分で食べられるって」
風音が言う。
手は止まらない。
風音「……ったく」
呆れながら弁当を受け取った、そのときだった。
一番右側にいた手が、ぴたりと止まった。
風音「……?」
風音がそちらを見る。
手は、屋上の入り口を指差していた。
風音「……何?」
手は動かない。
風音「誰かいる?」
こくん。
風音は立ち上がった。
屋上には、自分以外誰も来ない。
いつもそうだった。
だから少しだけ警戒しながら、扉を見る。
六本の腕は風音の背中に隠れる。
――ガチャ。
扉が開いた。
風音「……え?」
入ってきたのは、一人の男子生徒だった。
赤い髪。
丸眼鏡。
きっちり整えられた制服。
風音は知らない顔だった。
男子生徒――守土も、風音を見る。
守土「……あ」
二人の視線がぶつかった。
守土「……ごめん」
守土が先に口を開いた。
守土「人がいるとは思わなくて」
風音「いや……別に」
風音はそう答える。
守土は少し笑った。
守土「よかった」
そのまま立ち去ろうとする。
――その瞬間。
守土の右手にある目が、大きく見開かれた。
風音の背中を見ている。
六本の腕の気配。
六本の青白い腕が風音の背中から出てくる。
守土の足が止まった。
風音「……?」
風音も不思議そうに見る。
風音「どうした?」
守土「…………」
守土は何も言わない。
風音は守土の右手を見る。
目が、風音を見ている。
正確には――
風音の背中にいる「手」を。
風音「……見えてる?」
風音が聞いた。
守土「え?」
風音「俺の……」
風音は言葉を止める。
いつもなら、こんなことは聞かない。
誰にも見えない。
見えてはいけないもの。
だからこそ――
風音「……いや」
風音は小さく息を吐いた。
風音「なんでもない」
すると。
守土の右手の目が、ゆっくり風音を見た。
そして、守土自身ももう一度風音を見る。
守土「……見えてるよ」
風音「……え?」
守土「君の背中にいる子たち」
風音の瞳が見開かれる。
六本の手も、一斉に動きを止めた。
風音「……お前」
風音が守土に近づく。
風音「見えるの?」
守土「うん」
風音「……本当に?」
守土「うん」
風音「……六本?」
守土「六本」
風音は黙った。
今まで一度も。
一度も、自分以外に見えた人はいなかった。
幼い頃からずっと一緒にいるこの手たちを――
誰も知らなかった。
誰にも理解してもらえなかった。
だから。
風音「……そっか」
風音は、ほんの少しだけ笑った。
風音「お前にも、見えるんだ」
守土も笑う。
守土「うん」
その瞬間。
風音の背中から伸びていた六本の手が――
一斉に守土の右手へ近づこうとする。
守土「……え?」
守土が驚く。
守土「ちょ、待って」
六本の手が、守土の右手にある「目」を覗き込む。
目がぱちぱちと瞬きをする。
守土は困ったように笑った。
守土「……すごく見られてる」
風音は思わず吹き出した。
風音「ははっ……」
守土「風音くん?」
風音「いや……」
風音は笑いながら言った。
風音「お前の目も、俺の手が珍しいみたいだな」
守土「……僕も初めて見たよ」
風音「俺も」
二人はしばらく見つめ合う。
そして守土が、ふと尋ねた。
守土「……君の….名前、聞いてもいい?」
風音「風音」
守土「風音くんか」
風音「お前は?」
守土「守土。守るに土で守土」
風音「……守土」
守土「うん」
風音はその名前を小さく繰り返した。
守土も風音の名前を覚えるように、もう一度口にする。
守土「風音くん」
風音「……何?」
守土「なんだか、不思議だね」
風音「何が?」
守土「同じ学校にいたのに、今まで一度も会わなかったこと」
風音「……確かに」
風音は空を見上げる。
六本の手が、風音の周りで静かに揺れている。
守土の右手の目も、風音たちを見ていた。
誰にも見えないものを抱えて。
誰にも言えないまま。
二人は、それぞれ一人で生きてきた。
でも――
今日。
初めて。
自分と同じ世界を見ている人間に出会えた。
コメント
5件
もう泣ける😭!! 続きが楽しみです!!
おぉぉ!! 見えてたんですね!? やった!(?) え、続き楽しみです✨️
ああもう、最後の「初めて、自分と同じ世界を見ている人間に出会えた」って一文で胸がぎゅってなりました……! ずっと誰にも見えない六本の手を抱えて一人で生きてきた風音くんの孤独が、守土くんという“見える人”に出会ってほんの少しほどけていく瞬間が、すごく丁寧に描かれていて。お互いの右手の目と六本の手が接近する場面、ちょっと可愛くて笑っちゃいました。この先の二人の関係性がすごく気になります!
ぬぬ
13
123
164
#しゅうと
りさ
545