テラーノベル
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夜の繁華街はネオンで煌々と照らされていた。だがすちの胸中は暗闇だ。歩道橋の上から灯りを見下ろしながら、ダウンの襟に鼻先を埋める。
何をしてるんだ、俺は。
別れようと言った直後の衝撃的なほど冷静な自分が怖い。それなのに足取りは早足になり、目的もなく彷徨ってしまう。本当に別れたいのか?否、ただ他の男の話をやめてほしいだけ。だが今のこの状況は何だ?
冷え切った街角を曲がると見知ったカフェ。自動ドアが開くと暖気と共にコーヒー豆の香りが迎えた。注文したホットココアを受け取り席に着く。スクリーンセーバーの消えたスマホを睨むが、LINEには不在着信もメッセージもない。
たったの三十分。
なのに鼓動が早まるのは何故か。もしかしたら本気で見限られたのかもしれない、そんな恐怖。いや待て、落ち着け。こさめちゃんだって慌てているはずだ。必ず連絡来る――そう自分を宥めるうちに一時間が過ぎた。
「すいません、お客様」
店員に促され席を立つ。店内の時計は午後九時。寒風に包まれ再び歩き出すも、帰るべき家は背後に見えている。
「クソッ……」
呟くと同時にコートの内側が震えた。胸ポケットのスマホが着信を告げる。慌てて取り出す。表示された名前は――”母”だった。脱力する。
結局、そのまま帰宅することに決めた。だが玄関ドアを開けても薄暗い廊下が広がるだけ。リビング、浴室、寝室。どこにもこさめの姿はない。
テーブルの上のこさめちゃんのスマホ。壁にはこさめちゃんのコートと、カバンが掛かっている。財布もある。靴箱にはいつもこさめちゃんが履いている靴だけが残っており、サンダルだけがない。…まさか、何も持たずサンダルで外に行ったのか?そう考えているうちに体はもう動いていた。
スマホと財布、鍵だけ持ち外に走った。公園、コンビニ、道路。雪が激しさを増していく。白い息が目の前を曇らせ、焦燥が募る。どこにもいない。冷え切った手足が感覚を失いつつあるとき、ふと閃いた。あの公園だ。二人でよく行く場所。思い出の場所。
走る、走る。脚がもつれても転んでも進む。息が荒くなり、肺が痛い。それでも……
やっと辿り着いたベンチには、小柄な人影が丸くなっていた。
『こさめちゃん!』
叫びながら駆け寄る。震える腕、青ざめた頬。生きている、かろうじて呼吸はしている。
『しっかりして!なんでこんなとこに……』
自分のダウンを剥ぎ取り、震える体に羽織らせる。氷のように冷たい肌に触れた瞬間、全身に鳥肌が立った。どうすればいい?救急車を呼ぶべきか?
「す、ちくん……?」
消え入るような声が聞こえた。こさめちゃんの睫毛が震え、瞼の隙間から水色の瞳がこちらを捉える。
「ごめん……」
途切れ途切れの謝罪。すちは無言で強く抱きしめた。胸の奥底で爆発する安堵と自己嫌悪。
『寒いでしょ、ごめんね……本当に……」
涙が滲む。その温もりを逃さぬよう、さらに力を込める。
こさめちゃんは小さく微笑むと、再び瞼を閉じた。
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