テラーノベル
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腕の中の重みはどんどん軽くなるようだった。それでも絶対に放さない。すちは周囲を見回した。夜の公園には誰もいない。警察を呼ぶべきか悩んだ末、とりあえず自宅へ運ぶ決心をする。細い体を横抱きにし、足早にマンションへ戻った。
玄関を開けると、室内の暖気が冷え切った皮膚に染みる。こさめちゃんをソファへそっと寝かせ、毛布を掛けてあげた。キッチンで急いで湯を沸かす傍ら、スマホで”低体温症 対処法”と検索する。
熱い紅茶を持って寝室へ向かうと、こさめちゃんが薄目を開けた。「すちくん……」
掠れた声に安堵する。
『うん、ここにいるよ。あったかい紅茶飲める?』
こさめちゃんはわずかに頷き、カップを持とうとするが手が震えている。すちは代わりに飲ませるようカップを支えた。
「ごめんね、勝手に家出して……スマホも忘れて……」
申し訳なさそうに俯く姿が痛々しい。すちは紅茶を置き、改めて抱きしめる。
『もういいよ。俺の方こそ酷いこと言ってごめん。どこにも行かないから、大丈夫だから……』
囁くうちにこさめちゃんの肩の震えが少しずつ収まっていく。額を合わせると互いの体温が溶け合う感覚。
数分後、こさめちゃんはようやく落ち着いて口を開いた。
「ねぇ、ほんまに別れんよね?こさめのこと嫌いになってないよね?」
すちは苦笑いしつつしっかりと頷いた。
『好きだよ、すごく。だから嫉妬しちゃっただけなんだ』
「……嫉妬?なつくんの話したこと?」
少し驚いた表情を見せるこさめちゃん。その純粋さに胸が締めつけられる。
『ごめん。嫌味に聞こえるかもしれないけど、本当にこさめちゃんが他の男と楽しそうに喋ってるのが……我慢できなくなって』
「そんなん……全然思わなかった」
呆気に取られるように瞬きする彼女を見て、すちは己の愚かさを痛感した。自分の独占欲が彼女をここまで追い詰めてしまったのだ。
『約束する。二度と無理なこと言わないし、出て行ったりもしない。だけどお願い、できる限り二人っきりの時間を大切にしてくれないかな』
こさめちゃんは小さく頷き、「わかった」と微笑んだ。その柔らかな表情に、すちの心臓が再び高鳴る。
『風呂、準備しておくから先に入っておいで』
湯船に浸かりながらこさめちゃんは身体が徐々に温まっていくのを感じた。全身を巡る血液が少しずつ命を取り戻すようだ。浴室から出るとすちくんがタオルを広げて待っていてくれた。
「ありがとう」
恥ずかしそうにタオルを受け取り体を拭う。すちくんがドライヤーの電源を入れ、こさめの髪を丁寧に乾かしてくれる。鏡越しに映る彼の穏やかな眼差しに、こさめは心の底から安心した。
『おなかすいた?』
髪を整え終えたところで尋ねられ、こさめは頷いた。
『簡単なお粥作ったから食べて』
台所へ向かうすちくんをこさめは急いで追いかけた。
「作ってくれたん!?ありがと~!」
小さな鍋から湯気の立つ白粥が器に盛られて出てくる。
「いただきます!」
匙で掬った一口目は塩と卵のシンプルな味付け。素朴な美味しさが疲弊した胃に染み渡る。
「おいしい!」
心の底からの感想に、すちくんもほっと息をつく。
食事を終えた二人は歯磨きを済ませ、ベッドに並んで潜り込んだ。部屋の照明を落とし、シーツの上からすちくんがそっとこさめを包む。
「ねぇ、ほんまに離れんといてね?」
暗闇の中で問いかけるこさめの声はまだ少し震えていた。
すちはこさめを抱き寄せ、静かに答えた。
『絶対離さない』
その言葉を最後に、二人は深い眠りへと落ちていった。暖かい温もりが夜を通して離れることはなかった。
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